「魚と羊しか獲れない」不毛の国ナジュド(第二次サウード王国)。
その実質非拡張プレイでどこまでいけるか・・・というのを試していたが、ロシアの保護国化なども経て1899年時点でGDPも200万£にまで成長。選挙制度の導入や奴隷制の廃止、税制の改革なども経て列強に承認されるほどにまで改革が進んだ。
しかし一方でロシアの隷従下にあるということは、ナジュドがいつでもロシアの戦争に巻き込まれ得るということも意味しており、1893年には実際にロシアが参加した普仏戦争に参戦を強要される事態に。
このことは、フランスの同盟国であるエジプトと矛を構えることも意味し、結果、フランス・エジプト同盟軍によってナジュドの国土を侵略される事態にまで発展してしまった。
改革は進み、ナジュドは成長した。
しかし、いよいよその不自由な状況から脱し、自立すべき時がやって来る。
不毛の国ナジュド、その不毛なる実質非拡張プレイ後半戦。
果たしてナジュドはどこまでその力を伸ばしていくことができるのか。
目次
Ver.1.8.6(Masala Chai)
使用DLC
- Voice of the People
- Dawn of Wonder
- Colossus of the South
- Sphere of Influence
- Pivot of Empire
使用MOD
- JapaneseLanguageAdvancedMod
- Japanese Namelist Improvement
- Adding Historical Rulers in 1836
- Cities: Skylines
- East Asian Namelist Improvement
- ECCHI Redux
- Expanded Building Grid
- Extra Topbar Info
- GDP Ownership Display
- Historical Figures
- Interst Group Name Improvement
- Romantic Music
- Sphere Emblems Plus
- Universal Names
- Western Clothes: Redux
前編はこちらから
災厄の年
1906年9月。
ナジュド王国(第二次サウード王国)首都リヤドの宮殿で、この国の政権を担う与党・保守党の面々がテーブルを囲んでいた。
「ーーまず欧州における最大の報告は、イギリスの情勢だろう」
「近年どの国でも力をつけつつある共産主義者たちによる大規模な反乱が、バーミンガムやケンブリッジといった大都市で巻き起こっているという」
「これは間も無くして鎮圧されるだろうが、同様にその危険はあらゆる国に存在する。この思想の厄介なところは、そこに国境の概念が存在しないことだ。元々国を持たぬ民族が中心となっていることもあり、奴らは平気で自身の国を離れ、あらゆる国にその不穏な思想を撒き散らしていく」
「ーー勿論我が国においても、です」
外務大臣のアブダル・カディール=アル・ラシードの言葉を引き継ぎ、内務大臣のタウフィク・イブン・フアドも厳しい表情で告げる。
「奴らはこのリヤドでもその勢力を確実に増していき、社会に混乱をもたらそうとしている。中には、秩序を持って貞淑に振る舞うべき女共の中にさえ、平気で素肌を晒し、戦線に加わろうとする者さえいる」
「これも全て、以前の忌まわしき改革主義者たちのもたらした災厄と言える。我々はこれに抵抗し、そして戦い続ける必要があります」
「その通りですね」
と、部屋の中央に座る男が告げる。
「大切なのは奴らに隙を見せぬこと。不穏の芽は芽のうちに摘み取り、決して大きくしてはならない。制御できぬほど肥大してからでは、もはや取り返しのつかない事態となりますからね」
ナジュド王国首相、保守党党首のサダルディーン・イブン・ハリル。物静かで謙虚なように見えながらも人知れず政略を進め、気づいた時にはあらゆる局面において彼の望む状況が生み出されている。かつて隆盛を誇ったアル=ヒジャージの一族が失脚し、政治の主導権を彼ら保守主義者たちが取り戻すことができたのも、この男の手腕によるところが大きかった。
「フアド殿、彼らの対応は貴方に一任します。決して妥協することなく、これを鎮圧せしめるように。逮捕した共産主義者たちの扱いに困るようならば、イギリスの反乱勢力のもとにでも送ってしまえばいいでしょう」
過激な提案を、表情一つ変えることなく口にするハリルに、アル・ラシードもフアドも沈黙したまま頷くことしかできない。彼らにとっては年下でありながら、このハリルという男には底知れぬ恐ろしさを感じていた。
ハリルはアル・ラシードに向き直る。
「イギリスには少しでも長く、混乱の中に身を置いてもらう必要があります。何しろ、ここ数年のイギリスと我々の宗主国、ロシアとの関係は常に緊張状態にありますからね。極東アジア、中東の湾岸地域、そしてバルカン半島でも、両者の利害は対立し、今にも大きな衝突に発展しかねません」
「そうなれば何が起こるか、容易に想像はつくでしょう。イギリスはかのアメリカ合衆国とも同盟関係にある。10年前よりもさらに力を増し、今や世界3位の実力を持つこの国と世界最強の国家イギリスとの英米同盟がロシアの敵に回ったとき、我々は10年前を超える破滅の時を迎えることになるのです」
「それまでに計画を間に合わせる必要がある。アル=ラシード殿、やるべきことは多数あります。頼みますよ」
しかし、ハリルの危惧はあまりにも早く現実のものとなる。
ナジュド王国にとって史上最大の危機となる、災厄の1908年が幕を開けるのである。
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北アフリカ、コンスタンティーヌ。4世紀にローマ皇帝コンスタンティヌス1世が再建したことでその名がついた歴史ある街を中心としたこの国は、19世紀前半に英国の侵略を受けその傀儡国となり、ジブラルタル、マルタと並ぶ英国の地中海航路の重要な補給地として機能していた。
しかしここに近年、世界各地での対立の延長線上として、ロシアが影響を及ぼしつつあった。このままもしもこの国がロシアの支配下に収まれば、同じくロシア影響下にあるギリシャと共に地中海におけるロシアの存在感は高まり、英露の力関係が逆転しかねない。
その事態を避けるべく、イギリスは強硬手段に打って出ることとなる。すなわち、コンスタンティーヌを併合し、自国の植民地とするための要求である。
これには勿論ロシアが反発する。さらにはロシアの友好国であるオーストリア帝国もここに参戦する。イギリスの側にはその同盟国であるアメリカ合衆国も参戦。そして勿論、ナジュド王国もまた、ロシアに強制されてこの戦争に参加させられることに。
これまでの英露対立は実際に矛を交える段階にまでは至っていなかった。しかしこのコンスタンティーヌ、および地中海の覇権を巡る争いについては両者とも退くことをしないままに次々と事態はエスカレート。
そしてついに1908年9月1日。
英米大西洋同盟と露墺大陸同盟とによる直接対決、「地中海戦争」が幕を開けたのである。
「ーーペルシャ湾内に英国海軍の艦船を多数確認したとの情報があります。まもなく、敵軍による上陸作戦が開始される見込みかと」
「前回と異なり、いきなりの本命の来襲か。上陸を成功させれば防ぐ手段はない。水際で止められるかどうかが肝要だが、勝算はあると思うか?」
10年前のエジプト戦争の際も陸軍総司令官を務め、王国を見事守りきった英雄カーリド・アル=ヒジャージ。兄たちが政争の中で敗れ無念と共に世を去った後も、彼はかろうじてその地位を守り続けていた。
しかしそれも、今回の戦いによって、終わりを迎えることになりそうだ。
「正直なことを申し上げれば、非常に厳しいかと。前回はあくまでも、戦争の中心地域に対する周縁でしかなかったアラビア半島に戦略的な重要性は一切なく、敵軍の攻勢も大したものではありませんでした。
しかし今回は、英国の同盟国たるアメリカ合衆国が、参戦の条件としてこのナジュドを自身の属国としてロシアから奪い取ることを求めております」
「つまりは、このナジュドが奴等の戦略目標となっているわけだな」参謀総長の言葉にカーリドは嘆息する。「正直なところ、我々としてはロシアだろうがアメリカだろうが、どちらが上になっても構いはしない。大人しく降伏するからさっさと戦争を終わらせてほしいくらいなのだが」
「ロシアがそれを許さないでしょうね。今回英国はオマーン・バーレーンもロシアから奪い取ろうと考えております。今大会は地中海の覇権を巡る戦いであると同時に、このアラビア海における覇権の争奪戦ともなっており、例え数十万のベドウィン人の屍が積み上がろうとも、ロシアは敗北を認めることはないでしょう。そして英国も米国もまた、そんな我々に同情し銃を収める度量を持ち合わせているとは思いません」
「フン・・・」カーリドは皮肉気に口元を歪めた。「これが、弱き国の宿命か。良いだろう。そんな国にしてしまった我が一族の責任を、私なりに取りにかかろうではないか。この命に代えてでも、な」
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1908年12月15日。
ついに、ナジュド東海岸の街ザフラーンにおいて、イギリス軍3万超の兵士による上陸作戦が開始される。
カーリド・アル=ヒジャージ率いるナジュド王国軍はわずか1万。質も量も圧倒的に差のある敵軍に対し、カーリドは決死の防衛を繰り広げ、頑強に抵抗していく。
最終的に40日以上に渡る抵抗を繰り広げ、自軍に匹敵する損害を敵軍にも与えるほどの成果は出したものの敗北を喫し、ついにはその完全上陸を許してしまうこととなる。
あとはもう、抵抗する術はなかった。ナジュド王国の全土は荒らされ、ゲリラ的な抵抗を繰り広げようとするベドウィン人たちを駆逐するべく、英米連合軍は容赦ない砲撃でその大地に次々と穴を開けていった。
ロシア本国との交易路はとうに途絶え、国民は苦境に陥り、GDPは60年以上前の水準にまで急落。
やがて膨れ上がる反体制派は、盛り上がりを見せていた国内の共産主義勢力と結びつき、その勢いは爆発寸前の状況にまで膨れ上がりつつあった。
そんな中、いつまで経っても降伏を認めないロシアに痺れを切らし、アメリカ合衆国はナジュドの獲得を諦めて離脱。
オーストリアも自国領内に英国軍の上陸を許してしまったことを受け、帝都が荒らされる前にと屈辱を受け入れて降伏。
英国も当初の最重要目標であるコンスタンティーヌ併合も果たしたことで、中東の支配権奪取は諦め、1910年10月19日、ロシアとの和平条約合意を認めたのである。
平和は訪れた。しかし、ナジュド王国に残されたのは、荒れ果てた大地と怒れる民衆であった。
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「反乱軍はすでに首都リヤドの支配権をほぼ手中に収め、武器庫も片っ端から襲撃され、その軍事力を高めているとのことです」
「リヤドからは政府関係者が次々と脱出しておりますが、中には逃げ遅れた者も多くおり、外相アル=ラシード殿も反乱軍の凶弾に倒れたとのことです」
内務大臣イブン・フアドは沈痛な面持ちで状況を報告する。しかしそれを聞く首相サダルディーン・イブン・ハリルは冷静な表情のまま応える。
「狼狽える必要はありません。多少の犠牲はやむを得ないでしょう。陛下は無事、我々と共にこのブライダに逃れられたと聞いております。我々にとって大事なのは、この事態に過剰に反応し、そして万が一にも、この共産主義者たちに膝を折るなどと考えぬことです」
「それに、実際奴等は恐れる必要はありません。確かに首都、そして我が国の軍事力の大半を彼らに奪われたかもしれませんが、今のところ彼らに協力しようとする外国勢力の存在は確認されておりません」
「逆に、ロシアはすぐさま鎮圧のための軍を派遣してきております。折角『守り切った』アラビアの土地を手放したくはないのでしょうね」
皮肉を込めて告げるハリル。事実、反乱軍と対峙する最前線に位置するこのブライダの街には、すでに30万以上ものロシア軍が集まりつつあり、この国の支配権が誰の手の中にあるかを否が応でも思い知らされる事態となっていた。
「奴ら――反乱軍は間も無くして鎮圧されます。
重要なのは、その後ですよ」
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ハリルの言葉通り、共産主義者たちによる革命は蜂起から2ヶ月も経たないうちに鎮圧された。
しかしこの革命騒ぎによってさらに国土は荒廃し、かつ武器弾薬を集めるために各国に借金を繰り返した財政はすでに債務不履行の状況に陥るなど、状況はより一層絶望的なものとなっていた。
一方で、この反乱の鎮圧により急進派勢力を一掃せしめたことで、国内の思想的優位性は確立。1915年の選挙では与党保守党が4分の3の得票率を得るなど圧勝し、強固な政権を獲得するに至った。
政権外からも、彼らに協力する立場の者が現れ始めていた。伝統的な価値観を重視し、今なお遊牧生活を続ける遊牧民勢力の中心的人物であったアブド・アッラフマーン・イブン=ハリルは、現在のロシアに隷属し、苦しめられる現状を批判。しかしその批判の矛先はかつてのアル=ヒジャージ一族による改革派政権に向けられ、現在の保守党政権はそれを回復させる希望であると宣言した。
この国内の支持を受けて政権は新たな改革に着手。かつて改革派政権が進めた民営化重視政策を改め、政府の介入の比率を高める新法を提出、即座に可決させる。
これで国内の、海外資本によって奪われ、収奪されていたいくつかの企業の国有化を実施。経済的苦境の中でも、少しずつその体制を確立していく。
そして一方で、首相ハリルが「災厄の年」以前より試みていたある外交的計画が、少しずつ身を結びつつあった。
ハリルは、大きな回り道を強いられながらも、いよいよ彼の目指した究極の目標へと到達しようとしていた。
すなわち、この国を翻弄し、好き勝手操り続けてきたロシア帝国からの「独立」ーーその好機が、1920年に訪れることとなる。
正しき道
30年前、プロイセン王国は北ドイツの統一とエルザス=ロートリンゲンの獲得を目指してフランスに宣戦布告。しかし予想に反してアメリカ合衆国の介入を招いたこの戦いには大敗し、過去10年の間に併合した諸国も手放すなど屈辱の講和を受け入れざるを得なくなった。
しかし10年前、その憎きアメリカが今度はイギリスと手を組んでロシア・オーストリアとの世界大戦を勃発させる。ナジュドにとっては災厄となったあの「地中海戦争」である。
自身に敵対する多くの国が手一杯になったこの瞬間を狙って、プロイセンは再びフランスに宣戦布告。
1対1ならば、フランスに勝つことは決して難しくはないーーそう考えたプロイセン軍部であったが、結果としては激しく抵抗するフランス戦線を押し切ることはできず。
それでも、フランス側につきプロイセンによる併合に抵抗した北ドイツ諸侯の殆どは降伏させることに成功。
最終的にはエルザス=ロートリンゲン獲得を諦める形でフランスと講和。プロイセンは自身を盟主とする北ドイツ連邦を立ち上げることとなった。
だが、プロイセンの首脳陣はこれはあくまでもたかだか10年程度の休戦に過ぎぬと考えていた。彼らはあくまでも、仇敵フランスを打ち破り、エルザス=ロートリンゲンの獲得を実現し、そしてその先において、栄光のドイツ帝国を樹立させることを目指していた。
かくして1920年3月31日。北ドイツ連邦は3度目となるフランスへの宣戦布告を果たし、ここに第三次普仏戦争が幕を開けた。
そしてここに、ロシア帝国もまた、プロイセンの同盟国として参戦。
ロシアからの独立を狙うナジュド王国ーーそして彼らをロシアから引き離し自分たちの側に手繰り寄せたいと考える諸列強ーーにとって、最大の好機が訪れることとなったのである。
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「では、これより戦争を始める。これまでは我々は一方的に蹂躙され、掠奪され、奪われる側であったが、今度は我々が奪い、勝ち取る側となる」
王国陸軍総司令官アブー・バクル・アル=カシミは居並ぶ将校たちに向け威厳を持って告げる。
「私の上官であり祖国の英雄たるカーリド・アル=ヒジャージ閣下も先達て、無念の中でこの世を去られた。改革派の一族として不当な中傷も最後まで絶えなかったと聞くが、それでも最後の最後までこの国を憂い、そしてその行く末を気にされておられた」
「我々のこの戦いにおける活躍が、そしてその結果として得られる国家百年の悲願こそが、我々がかの英雄に届けられる最高の弔いとなるだろう。総員、決して退くことなかれ! アッラーの敵は全て駆逐し、そしてこの大地に、真の楽園を築き上げるのだ!」
アル=カシミの言葉に、将校らは威勢よく手を挙げ、咆哮し、応える。
かくして1920年8月16日、ナジュドに独立保証を行っていたイギリス、フランス、エジプト、大清帝国がロシア帝国に対する宣戦布告を敢行。ロシア帝国側には北ドイツ連邦も付き、先の第三次普仏戦争を上塗りする形で、10年ぶり2度目の世界大戦が幕を開けた。
とは言え、英仏清を味方に引き入れた時点で、ナジュドの勝利は明らかであった。
露清国境では、英国租借地も存在する北東部を圧倒的速度で英軍が占領地を拡大。
アラビア海湾岸地域でも、ロシア軍がまともに兵を回せない中で次々に英仏連合側が占領を広げていく。
北ドイツ連邦もフランス国境のみならず、北海方面からも英海軍による多地点上陸作戦を敢行されている状況。
世界最強の海軍――2位のフランスに対しトリプルスコア以上を誇る――に加え、軍量だけならば世界4位(1位は北ドイツ連邦)ながらその質=戦力投射においては圧倒的1位(2位のロシアに対して1.5倍)のイギリス軍の実力が遺憾なく発揮された戦争であったと言える。
そんな中、ナジュド王国軍が実際に銃を構える必要があったのは、隣国バーレーンが宗主国ロシアの要求に屈して参戦を決めざるを得なくなったのを見て、ここに攻め込んだその瞬間くらい。
あとはすべて、英仏清軍が片付けてくれた。1921年6月17日には北ドイツ連邦が早々に離脱。
そして1922年4月24日。
スカンディナヴィア方面から侵攻していた連合軍がロシア首都サンクトペテルブルクに迫ろうとする中、ついにロシア皇帝アレクサンドル3世は連合国側の要求をすべて飲み込む講和条約の調印を承認。
ナジュド王国はここに独立を達成し、同時にロシアから合計1,382万£もの賠償金を獲得。これまで税率を最高の値に置いていてもなお赤字が止まらず、債務不履行状態が続いていた中で、ようやく財政再建を実現できるだけの状況を作り出すことができるようになった。
多くの国民が、この勝利とその報酬に歓喜した。
この財源は、きっとこの国の立て直しと復興、そして経済的な復活とに使われることだろう、と確信していた。
しかし、保守党党首、サダルディーン・イブン・ハリルは、そのときこの国で唯一、この勝利の先にある真なる目標を見据えていた。
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「ーー先達て、フランス共和国より届けられた、彼らの勢力圏入りを求める書簡に対し、拒否されたと聞きましたが」
政権幹部の一人、ヒシャム・アル・ウラヤンの言葉に、ハリルはこともなげに頷いた。
「ええ。我々はようやくロシアの支配から脱したのです。今また、どこかの列強の傘下につくつもりはありません」
「しかし、フランスの勢力圏はあくまでも関税同盟ーー我らを従属下に置くものではなく、利益も大きい。ナジュド単独の市場だけでは決して繁栄できないことはハリル殿も理解されているかと思います。
それに、これは要望ではなく、要求です。彼らのそれを蹴ったことで、フランスは我らに対する心証を大きく損なうことになるでしょう」
「だからこそです」と、ハリルは鋭く言い放つ。「そういった考えを彼らが持つ以上、結局は我々を支配しようという魂胆があることは間違いありません。ロシアの時と同様に――いつか必ず、我々に災いをもたらす」
「しかし実際我々は彼らに借ります・・・ロシアからの独立戦争直後、返しきれぬ負債を全て補償してくれたのはフランスではありませんか」
ウラヤンはなおも抗弁しようとハリルに迫るが、それをハリルは冷徹な瞳で睨み返す。
「貴殿は随分とフランスの肩を持たれるのですね。まるで、何か繋がりがあるかの如く・・・」
ウラヤンは怯み、震える声を絞り出す。
「ーー私はこの国の国民が、豊かになることを求めて・・・」
「矜恃なき繁栄に正義はありません。我々はこれ以上、物質的欲望を理由に誤った道を進むべきではありません。陛下もそのことを良く理解して下さっておりますよ」
「ーー陛下はまだ若く、御心も病まれておられる。貴公は陛下を傀儡とするつもりか」
「不敬なーー衛兵!」ハリルは部屋の外に向けて声を放つ。それに応えて、武装した衛兵たちが部屋に入り込んでくる。「彼を連れて行きなさい。少し、疲れているようだ」
衛兵に肩を掴まれながら、ウラヤンは吐き捨てる。
「・・・国も、国民も、決して施政者の駒ではない。アル=ヒジャージの下ならば、このようなことにはならなかっただろう」
衛兵もウラヤンも去り、一人になった部屋の中で、ハリルは独り呟く。
「我々が我々であり続けるためには、そうしなければならないのだ。我々は誰にも縛られぬ。信仰の過ちを正しく解き直し、砂漠の中に浮かび上がった真の信仰の王国として、私はこの国を正しく導く責務がある。
たとえ、他の誰もがそれを理解しようとせずとも・・・」
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1925年夏。
リヤドの街に、厳重な警備と共に一人の来客があった。
「ーーこうしてお会いするのは初めでですな、ハリル卿」
ハーバート・ヘンリー・アスキス。15年前の地中海戦争ーーナジュドにとっての災厄の戦争ーー時代に英国首相兼戦争大臣としてこれを指揮する立場であった男。現在は政界を引退しつつも、いまだに高い影響力を用いて非公式の外交任務に携わっているという。
「かつては貴国に深い傷を与えたことは申し訳なく思っている」
「いえ。その後は逆に、我々の独立を支援して頂いたのだ。感謝こそすれ、恨むつもりはありません。
故にこそ、此度もまた」
「ああ」
ハリルの言葉に、アスキスは頷く。
「貴公の望みーー聖地メッカ、メディナの奪還が為、エジプトへの侵攻を行う支援について、全力で引き受けよう」
「エジプトへの攻撃に対しては、かの国と防衛協定を結ぶフランス、オーストリアが介入してくることが予想されるが、最も強敵と言えるフランスは今まさにスペインやオランダが後援するアフリカ植民地での独立運動に直面している状況」
「我々の助力のみで奴らを全て打ち倒すことは十分可能だろう」
自信満々に告げるアスキス。ハリルはしかし、目を細め、声を低くして尋ねる。
「しかし一点、確認はしておきたい。我々はフランスのみならず、あらゆる外国勢力の従属下につくことを望みません。今後貴国との関係を重視し、投資権の独占的な付与も継続するつもりではありますが、貴国の勢力圏に加わることなどは、望まずに頂ければと思います」
「もちろんですよ、閣下」アスキスは親しげな笑みを浮かべた。「我々は中東はアラブ人のための土地だと理解している。その権利を毀損するようなことは望んでいない。安心したまえ。我々は紳士の国であり、ロシア人やフランス人よりもずっと、正直で誠実であることを保証しよう」
そう言いながらアスキスは右手を差し出す。ハリルも少し迷いながらも手を差し出し、それを握り返す。
「ーー分かりました。貴国を信じましょう」
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1925年10月4日。ナジュド王国はイギリスと共にエジプトに宣戦布告。その管理下にあるイスラム教の聖地メッカ及びメディナを管理するヒジャーズ太守領をナジュドに引き渡すよう要求した。
これに対しエジプトと防衛協定を結ぶフランス共和国、オーストリア帝国がそれぞれイギリス・ナジュド同盟に対し宣戦布告。先の第二次世界大戦=ナジュド独立戦争終結からわずか3年で、再び世界は大きな戦乱へと巻き込まれていくこととなる。
開戦直後、ナジュドとエジプト・ヒジャーズ国境線上にはすでにフランス、オーストリアの主力が詰めかけていた一方、イギリスの軍隊はまだ到着していなかった。エジプト領を通って地中海から兵を送り込めるフランス・オーストリア軍に対し、英国軍は喜望峰を回って兵員を輸送しなければならないため、これは必然の事態であった。
「緒戦が何よりも重要だ。全てを撃退しようと思わなくて良い。戦略的撤退を繰り返しつつ、少しでも英軍到着までの時間を稼ぐのだ」
先の独立戦争でも活躍したナイディ将軍指揮の下、ナジュド王国軍は敵連合軍の猛攻に何とか耐え抜いていく。
何度かの敗北を経て、ナジュド本土への敵軍の侵攻をある程度は許しつつも、決定的な敗北に至ることは何度か踏みとどまっている状況。
そんな中、ついに11月末頃、イエメンの地に英軍主力が上陸する。
あとはもう、一方的であった。仏墺の2列強が共に参戦しているにも関わらず、英軍ほぼ単独で次々にこれを撃退し、イスラームの故地を蹂躙しながら北上していく。
いよいよ、エジプト本土への侵攻を開始する。
だが、ここに来て、敵連合軍の抵抗の度合いがより一層激しくなっていった。フランスも自身の同盟国でありスエズの利権を持つエジプトを敗北させることは、自身の戦略上決して許されることではなかった。
戦線は膠着。エジプトに対する賠償金なども要求しているため、その本土の一部でも占領できなければ、こちらの要求を一部でも認めさせる交渉のテーブルにつかせられない。
そうこうしているうちに、ロシアからの賠償金支払い期間が終了し、莫大な赤字が発生。上限を超えて用意していた金準備がみるみるうちに溶けていき、一瞬で借金状態に突入する。
このままでは・・・長くは持たない。
しかしこの期に及んで白紙和平は、認めるわけにはいかない――
執務室で一人机に向かうハリルの額には深い皺が刻まれ、その目は珍しく焦りで揺れ動いていた。
そのとき、突然扉がノックされた。ハリルが入室を許可すると、彼の副官であるアリーが緊張した面持ちで入ってきた。
「たった今、入った情報です。英軍の別働隊が、フランス及びオーストリア本土への上陸を成功させたとのこと」
「ーー本当か」
思わず顔を上げたハリルの表情は、アリーにとっても見慣れないほどに感情が露わになっていた。
「すでに戦線から仏墺両軍の一部撤退の動きが伝えられております」
「よし・・・全軍に伝えよ。我らが勝利は目の前だ。全勢力をここに賭けよ!」
形勢は逆転した。間も無くしてオーストリア、フランスが次々と戦争から離脱することが報じられ、戦線にはエジプト軍だけが居残る形となった。
ナイディ将軍はじめナジュド王国軍は一気に攻勢を仕掛けエジプト軍を押し込んでいく。
その勢いは止まることを知らずついにパレスチナ地域を全制圧。
のみならずシナイ半島全域も制圧し、エジプト首都カイロすら視野に入るほどにまで侵攻を進めていった。
エジプトももはやこれ以上の抵抗は不可能だと悟り、ナジュド側が提示する条件全てを呑み込む形で同意。
かくしてヒジャーズ太守領はすべて、ナジュド王国の支配下に入ることとなった。
だが、これで終わりではない。
メッカ、メディナの両聖地は、サウード家が直接支配しなければならない。
オスマン帝国時代からその支配を黙認し、守護者としての責務を放棄してきたハーシム家にそれを任せることは出来ない。
かくして1927年7月6日、先の戦いの終戦からほぼ間髪おかずに、ナジュドはヒジャーズの「併合」を求めて宣戦布告を行う。
諸外国の介入はなく、ヒジャーズはただひたすら一方的に蹂躙された挙句、10月13日に降伏。
ここに、ナジュドとハーイル、そして両聖地を有するヒジャーズの全てを領有する「サウード家のアラビア王国」サウジアラビアが完成する。
ついに、ハリルはその野望を達成した。
すべての隷属を脱し、自由と繁栄、そして矜恃の全てを有する国を、ここに誕生させたのである。
エピローグ
サウジアラビア成立後、ハリルは首相の座を後任に引き継ぎつつ、国家の経済的立て直しに尽力した。
その基盤となるのが国土にて豊富に取れる石油。世界最高水準の利益率を出しながら、積極的な建設を進めていく。
そしてここから得られる利益を最大化するための最後の改革も断行。共産主義者と異なり穏健な社会改革を志向する社会民主党を政権内に取り込み、利益配当に課税する新法を制定。
さらに輸出品への課税を強化する目的で保護貿易も制定し、国家の利益の最大化を図った*1
これらの改革を経て迎えた1936年。
単独でGDPは267万£まで上がり、最終的には国家ランキング37位でのフィニッシュという形となった。
これからもサウジアラビアは大国の間で自立を保ちつつ、少しずつその力を蓄えていくことになるであろう。
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――とまあ、サウジアラビア成立というロマンを求めるルートも進んだものの、やはり独立市場では厳しいのは確か。
ここからは、1922年のロシアからの独立直後、フランスの求めに応じてその関税同盟傘下に加わったルートの終着点を確認していく。
このルートの場合は豊富な需要に応える形で石油生産の生産性はさらに上昇を続け、これを専用で取り扱う半国営の石油企業サウジ・アラムコは驚異的な生産性を叩き出す。
この事業に携わる資本家から技師、機械工に至るまで、皆安定して豊かな生活を送ることができるようになっている。
それゆえに、生活水準世界ランキングでも圧倒的1位。
GDPは767万£までしか成長しなかったものの、国民一人当たりでは同じく圧倒的な差をつけて堂々の1位。
「世界で最も幸福で豊かな」思いをその国民に味わわせることはできたと言えるのではないだろうか。
さらにキャンペーン終了後も1950年代まで開発を進めていった結果、最終的に石油会社と掘削リグの生産性が恐ろしいレベルにまで成長。
この2施設以外には誰も就業せず、百姓・失業者・求職者すべてほぼ0。職業構成も掘削リグで働く機械工が1位という状況にまで極まることとなった。
GDPも世界29位の2,300万£近くにまで成長し、1人当たりGDPでは2位に2倍近い大差をつけるほどに。
下層階級でも平均生活水準が「安定」に達しており、こんな国にわたしも住みたい。
不毛な国を世界最大の経済大国に・・・することはできなかったが、それでも理想的な国家にすることはできたのではないだろうか。君主制は維持されており宗教勢力の力も強いが、選挙制度や女性参政権・集会の権利などは認められており自由も決して少なくはない。
ある意味こういう国家を作るのがVictoria3の醍醐味でもある。
今後もまた、こういったちょっと特殊な内政プレイもしていきたいと思う。
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*1:ただこの選択は割と失敗だったように思う。やはり自由貿易による貿易取扱量や貿易にかかる行政コスト減の効果は馬鹿にできず、関税収入よりもデメリットの方が大きかった印象。