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【Vic3/PAX HISPANICA MOD】インペリオ・エテルノ① 不滅の帝国(1836-1846)

 

1665年。

時のスペイン王フェリペ4世が崩御すると、その妃であったマリアナ王妃がわずか3歳の息子カルロス2世の摂政となり政権を掌握。

その4年後、フェリペ4世の庶子ドン・フアン・ホセがこれに反発し、アラゴンやカタルーニャの貴族たちを味方につけクーデターを成功させた。

この時、歴史は分岐した。史実では首相の地位だけを得ることに満足したフアン・ホセは、この世界ではカルロス2世が子を成さずに亡くなった場合の王位継承権を求め、承諾されたのだ。

結果、史実ではカルロス2世の崩御後、その後継を巡って列強各位が争い合ったスペイン継承戦争は巻き起こることなく、その結末としてのユトレヒト条約及びラシュタット条約で覇権国スペインの領地が列強各々に食い散らかされることも防がれた。

故にそれから100年以上が経過した今もなお、南ネーデルラントも、ブルゴーニュも、北イタリアも、南イタリアも、すべてはスペイン帝冠領インペリオ・エスパニョールの一部である。

そればかりではない。ヴェネツィア共和国と共同で挑んだオスマン帝国との戦いに勝利した結果、ペロポネソス半島をヴェネツィアが、アテナイとネオパトラスの地をスペインが獲得することに成功した。

さらにオーストリア・トルコ戦争に便乗する形で、北アフリカの地もバルバリア海賊から奪い取ることに成功し、タンジールからアルジェまで、すべてはスペイン帝国の直轄領となっている。もちろん、ユトレヒト条約がない以上、ジブラルタルも誇り高きスペインの管理下に置かれている。

そして、この世界でもフランスでは革命が起こり、ナポレオンが出現した。

スペインも覇権国としてこれに立ち向かった。しかしやはりナポレオンは強く、最初の戦では敗北し、ライン川まで撤退し、スイスやサヴォイア公国も占領されてしまった。

しかし、スペインは再び立ち上がり、第2次対仏大同盟を主導で構築し、プロイセン・ロシアと連携しこれを打ち破った。

戦後のウィーン会議でも主導権を握り、自身の存在がナポレオン戦争での勝利に貢献したことを各国に認めさせ、ここに「スペインの平和パックス・ヒスパニカ」を実現させたのである。

故にこの世界ではヴェネツィアは滅んでおらず、神聖ローマ帝国も健在である。

神聖ローマ帝国は勢力圏として表現されており、バイエルンはもちろんナッサウやフランクフルト、ザクセンといった北ドイツ諸邦も多くがこの勢力圏に入っている。そしてドイツ関税同盟はない。なお、エルザス=ロートリンゲンはオーストリアの直轄領となっている。

 

そしてもう一つ、大きな違いとなっているのが新大陸。この世界ではスペインの弱体化はなく、覇権を握り続けているため、いまだに新大陸には広大なスペイン植民地帝国が広がっている。たとえばヌエバ・エスパーニャティエラ・フィルメペルー副王領・・・。

そしてこの世界ではまだ「アメリカ合衆国」は存在していない。「13植民地」は未だ、イギリスの支配下に収まっている。


「太陽の沈まない帝国」は、19世紀もなお、生き延び続けている。

果たしてそれは、永遠の帝国インペリオ・エテルノとなれるのだろうか。

 

大型史実改変MOD「PAX HISPANICA」を導入してのスペイン帝国プレイ。

誰も見たことのない19世紀が始まる。

 

※本MODは日本語非対応であり、日本語でプレイするとオリジナルイベントの多くで文章が表示されないなど支障をきたすため、英語版にてプレイしております。

 

目次

 

Ver.1.8.6(Masala Chai)

使用DLC

  • Voice of the People
  • Dawn of Wonder
  • Colossus of the South
  • Sphere of Influence
  • Pivot of Empire

使用MOD

 

第2回以降はこちらから

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帝国の急進主義者たち

1836年12月、マドリードの空は灰色の雲に覆われ、冷たい風が街を吹き抜けていた。

宮殿の一室、豪華な装飾が施された書斎で、皇帝付第一秘書のルイス・デ・ラ・クルスは外務大臣のペドロの報告を聞いていた。

「ペルー副王のカルバハルより報告だ。彼らが入植を進めるアマゾン地域にて原住民の反乱が起きたとのこと。帝国軍の支援を求めているが」

「原住民反乱など、現地の兵だけで問題ないでしょう。帝国軍を動かすまでもありません。ペルー副王は新大陸人インディアーノでしたね。日頃不満を持っているとも聞きますし、我々に対する当てつけでしょう」

「俺も同意見だ。そのように指示を出しておこう。次に、イギリスの植民地であるシエラ・レオネ政府より、我々の大使館の設置を求める連絡があった」

「ほうーー殊勝なことですね。イギリスの弱体化に繋がるこの提案は渡りに船です。すぐさま承諾の返答を行ってください。

 それから、ブラジル政府に対してもポルトガルからの独立を援助する旨の使者を遣わせて下さい。ポルトガルは我々の最も懐に存在する隣国ながらイギリスとの繋がりも深い。その牽制は安全保障における要となりますからね」

史実ではイベリア半島からポルトガル王室が追い出される事件から繋がる形でブラジルの独立が果たされるが、この世界ではスペインが防壁となってそのような一連の歴史的経緯は発生せず、今なおブラジルはポルトガルの植民地のままである。但し、彼らは常に独立の機会を窺ってはいた。

 

「承知した。それから、陸軍大臣より陛下に提案したことがあるとのことーー」ペドロが言いかけると同時に、背後の扉がノックされる。「ちょうど来たようだな」

ルイスが入室を許可すると扉が開けられ、1人の男が入ってきた。

「お時間を頂戴し、感謝致します。この度は、皇帝陛下に直々に提言したいことがあり、参りました」

直立不動で告げるその男は陸軍大臣のフランシスコ・アルバレス・デ・トレド。質実剛健を絵に描いたような男で、熱烈な王党派。そして先のナポレオン戦争で帝国を勝利に導き、帝国政治において最も大きな影響力を持つ勢力たる軍部の代表者である。

「陛下は今大変お忙しい。まずは私が聞きましょう」

ルイスはその気迫に負けじと胸を張り、告げる。年齢はまだ31と若いが、マドリードの大学を出た後は外交官として各国を飛び回り、その聡明さと人当たりの良さで数多くの外交的パイプを獲得。皇帝にも気に入られ、今はその第一秘書として、政府の各大臣からの報告を取りまとめ、皇帝の意思を代弁する重要な役割を担っていた。

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「承知しました。提案というのは単純です。

 現在、この帝国が急進主義者たちによって蝕まれつつあることは、ルイス殿もよくご存知でしょう」

「彼らはこの帝国に災厄をもたらしうる危険分子共であり、決して野放しにはできません。よって、彼らの横暴を未然に取り締まり、万が一を起こさぬために、警察体制の強化が必要不可欠となります。

 そのために、私は提案致します。我々もロシア帝国の皇帝官房第三部のような秘密警察組織を設立すべきであると」

「なるほど・・・」ルイスは表情を曇らせながら応える。「しかし、サラマンカ学派の反発は必至でしょうね。陛下も皇太子殿下も彼らを重用しており、彼らが反対するであろう政策には良い顔はしないでしょう」

PAX HISPANICA MODのスペインでは知識人の代わりに「サラマンカ学派」という利益集団が登場する。また、カトリック教会も「イエズス会」という別の利益集団に置き換わっている。

 

「仰ることは理解致します、ルイス殿。しかし」と、フランシスコは畳み掛ける。「奴らはあろうことか君主制の廃絶さえも考えております。あの忌まわしきフランス革命をここスペインでも起こそうとしているのですよ」

「分かりました・・・」

ルイスは諦めて頷く。王政の危機と言われれば、無下に断るわけにもいかない。フランシスコが心からの思いで告げていることはルイスも理解しているし、その言い分も尤もであった。何かが起きてからでは遅いのだ。

「陛下には私から話をします。何とか説得してみましょう」

「ありがとうございます。帝国の永遠の繁栄を必ずや我々の手で成し遂げましょう」

満足した顔で部屋を出ていくフランシスコ。外務大臣のペドロもその後について出て行った。

一人残されたルイスは革張りの椅子に腰掛けながらため息を吐く。

そしてしばらくのち、彼は意を決した表情で立ち上がり、皇帝の執務室へと足を運んだ。

 

「ーー以上がフランシスコからの提案となります。私としては、秘密警察のような組織を帝国内に用意することは決して望ましいものではないと思いますが、今後の帝国の安定がためには必要不可欠というその意見には納得できるものもあり、サラマンカ学派には適切に説明を行いつつ、納得してもらう他ないと考えます」

ルイスは早口で説明をしながら陛下の様子を窺う。彼はデスクに積まれたルイスの報告書に目を通しながら何かを思案していたようだが、やがてルイスに視線を向けて優しく微笑む。

「ーー分かった。報告ありがとう。お前がそうするべきと判断するならば、私はそれを信頼しよう。進めてくれ」

世界を東西において支配する偉大なるスペイン帝国の皇帝カルロス5世は、その聡明さと慈愛に満ちた表情をルイスに向ける。ルイスはその顔で見つめられる度に、自らの中にある現実主義という名の悪の存在に気がつかされる思いであった。

「申し訳ありません、陛下。私がもう少し適切な選択を考えつくことができれば良かったのですが・・・フェリペ殿下は特にサラマンカ学派との繋がりも深く、この決定は殿下にとっても望ましからぬものとなるかと思いますが・・」

「構わぬ。フェリペには私から言っておこう。それ以上に、私はいつもお前に助けられている。お前がいるからこそ、私はいつだって非現実的な理想を語り続けられるのだ。

 私はこの世界を統べる帝国の最高権力者として、帝国臣民の平等なる幸福を求めてきた。人種の差別をなくし、性別の差別をなくし、言論統制をなくし、子どもの教育を最優先にするような、そんな理想社会の実現を夢見てきた」

この世界のスペイン皇帝の持つ「啓蒙王党派」イデオロギー。多文化主義、言論の保護、女性参政権、初等義務教育を支持するまさに理想主義者である。そしてスペイン帝国は初期状態で多文化主義が制定されている。

 

「しかしそんな理想ばかりでは国が成り立たぬことは私も理解している。そんな空想家の私の夢見事を、現実の政治と調整し、適切に実現していって行けているのは、ルイス、お前のおかげなのだ」

「畏れ多いお言葉です。私は、そんな陛下の理想が実に誇らしく、少しでもその実現のお助けができることこそが、この生涯における最大の幸福です」

「ありがとう、そう言ってくれて。まずは帝国の安定だ。そのためにはーー不穏は未然に防ぐ必要もある。その先に、平穏さを取り戻した帝国に、少しずつ理想を組み立てていこう。我が息子フェリペの代には、そんな下地が作られることを期待している」

「承知致しました」ルイスは深々と頭を下げる。「私の生涯を賭けて、お支え致しましょう」

 

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1837年3月。北西イタリア、サンレモ

フランスとの国境にも近いこの町で、苦しい生活を続ける農村民と労働者たちを中心に、武力闘争をも辞さない勢いの革命運動が巻き起こる。

運動が反対する法律の制定を進めようとすると一気に急進性(Activism)が上昇し、革命運動へと繋がる。制定後もしばらくはほぼ同じレベルの急進性上昇が残り続ける。

 

これは世界的な動きでもあった。プロイセンでも、スイスでも、オーストリアでも、同様の騒乱は巻き起こり、各国政府は対応に追われていた。

急進主義の台頭

ヨーロッパ中に広がる革命感情に刺激されて、急進派運動はスペインでも広がりつつあります。私たちがそれを支持するか反対するかに関わらず、これは大きな変化と反動の時代の到来を告げています。

「スペイン国民は、世襲権力を独占する王や貴族の支配から解放され、自らを統治する権利を持っている。我々は要求を明確にしており、それが満たされるか、あるいは街頭に出ることになるだろう。必要ならば殉教者の血で自由を勝ち取るだろう」

 

「ーー反乱軍の様子はどうですか?」

皇帝第一秘書ルイス・デ・ラ・クルスの問いかけに、国務大臣を務めるアレハンドロ・ボルハは疲れた様子で回答する。

「カラブリアでは兵舎ごと反乱軍の手の中に落ちそうではあったが、当地を管轄する古テルシオ軍団の説得でこれを回避した」

隠された扇動

革命の支持者たちはカラブリアの兵舎で反政府運動を開始した。

「国家はあなたたちの流血を命じる権利をすべて放棄した。あなたたちはこのことを自覚しなければならない。カラブリア州以外でも、あなたや私のような人々がこの悪夢の終結を求めて組織化している」

「そしてそれはあなたと私から始まります! 私たち一般兵士は、彼らの意志を信頼して行動する者たちです…ついに誰も彼らの後ろに立ってくれないと分かったとき、何が起こるでしょうか?」

「軍隊は何よりも国家に忠誠を誓わなければならない」

 

「古テルシオ軍団はディエゴ殿下の配下でしたね。さすが聡明なる陛下の弟君、まだ若いながらも見事な対応です」

「ああ。それからピエモンテでは反乱軍に協力する医者を摘発し、そこから彼らの隠されたネットワークを見つけ出し、複数の検挙者を出している」

反逆者の医師

ピエモンテの医師が、負傷した反体制派や革命家を助けているところを捕まった。彼の援助は患者を助けているだけでなく、反乱運動全体を勇気づけている。

医師の弁護士は、軽い頭痛に悩まされながら、後ろにもたれかかった。この医師は、一緒に仕事をするのが不可能であることがわかった。彼の弁護の試みは、彼自身の穴をさらに深く掘るだけだった。彼の優柔不断な態度は痛ましく、弁護士や親族さえも信用しなかったことで、軽い判決を受けるチャンスを台無しにした。彼の執拗な否定は、彼の名誉を傷つけるだけだった。

ピエモンテ州の医療関係者を調査して奴に同情する者を洗い出せ。

 

「さらにポート・オブ・チャイナでも反乱の兆しが見られた。調べてみると同地の海軍司令官を務めていたパスカル・フォルク提督が反乱勢力と結びついていたことが発覚。すぐさまこれを逮捕し、ことなきを得たがね」

曖昧な革命

革命に参加するサラマンカ学派の一員であるフォルク・デ・カルドナ提督は、自分の信念に多少の疑問を抱いていることで知られている。そのためらいを政府に有利に利用することは可能かもしれない。

「友よ! 反乱が起きてほしくないわけじゃない、心配しているんだ。つまり、私は、ええと・・・良い立場にいる、ただ・・・ああ、どうすればいい? どうすればいい?」

パスカル・フォルク提督は信頼できない。奴を逮捕しろ!

 

「ありがとうございます、閣下。しかし中国ですか・・・彼らの思想はそんなところにまで」

「全く、帝国が広すぎるのも考えものだな」

アレハンドロは苦笑した様子で告げた後、急に真剣な眼差しをルイスに向けた。

「ルイス殿、一つ、気になる事件が」

「気になる事件?」

アレハンドロのただならぬ様子にルイスは緊張する。

「先達てサラマンカ学派の中心人物の一人であったアロンソ・メンドーサが、突如前触れもなく消息を絶った。彼は秘密警察の制定に強硬に反対していた人物でもある」

不気味な失踪

サラマンカ学派のアロンソ・メンドーサの失踪は、彼が最近秘密警察に反対していたことを考えると、エリート層の間で深刻な懸念を引き起こしている。

「彼の家族が当局に報告したのは正午を過ぎてからだった。アロンソ・メンドーサは一晩中行方不明で、警告もメモも残されていなかった。親族は数日前に小さなナイフが玄関に置かれていたため、秘密警察に反対するという彼の主張が原因ではないかと懸念を表明しており、彼らはそれを脅迫と解釈している」

 

「何ですってーー」ルイスは信じられないという風に目を丸くする。「まだ見つかっていないのですか?」

「ああ。そして警察はこの件に関しこれ以上調査するものは何もないと結論付け、早々に捜査を打ち切っている。警察組織が軍部と深い繋がりがあることは知っているだろう?」

「つまりはーー」

そこまで言いかけて、ルイスは口を噤んだ。アレハンドロも何も言わず、沈黙のまま静かに頷いた。

「――このことは、陛下の耳には入れないようお願い致します」

「ああ、もちろんだ」

ルイスは眉間に皺を寄せ、ため息を一つつきながら呟く。

「これが逆効果にならければよいですが・・・」

 

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「ーー政府はあろうことか我々の同志を卑劣な手段でもって排除する道を選んだ。そして今なお、その事実を認めようとしない。私たちサラマンカ学派は、今回の騒乱において中立の立場を取ることを望んでおりましたが、こうなってしまってはそれも難しい」

トリノの地で高らかに演説し、集まった民衆の熱狂的な声援に囲まれているのはマリア・クリスティーナ。史実では同時代のスペイン王フェルナンド7世の4番目の妃であり、のちにスペイン女王となるイサベル2世の生母でもある人物だ。

この世界ではもちろん、そのような運命を辿ってはいない。しかしイサベル2世を擁立する自由主義者たちと共にカルリスタ戦争を勝ち抜いたその性質はこの世界でも反映されており、自由主義を希求する革命的存在として今、帝国の急進主義運動の中心に立つことになったのだ。

「今ここに、我々もみなさんと共にこの政権に立ち向かうことを宣言します! 我々は力づくでも現在の政権を打倒し、聡明なる我らが皇帝陛下に、正しき道の存在を気づかせねばなりません」

「私たちは皆さんと共にあります! 我々はこの偉大なる帝国の誇り高き国民であり、我々は我々自身の手でこの帝国を正しく変えていく責務があります!」

 

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「ーールイス殿、良い報せが御座います」

陸軍大臣フランシスコは入室するなり、喜色を浮かべて告げる。

「先刻、帝国内で活動するフランスのスパイを捕らえました。我が国の急進主義者共もこれに関係していたようで、この事実を公表し不安を煽ることで、秘密警察制定に向けた国民の理解も得やすくなるでしょう」

秘密警察制定に向けた偶然

政府が秘密警察法の成立を準備する一方で、我が国の諜報員がフランスのスパイを捕らえ、政府に対する既に弱まった信頼をさらに損なわせている。

「我々の将軍とその家族全員のリスト、我々の兵舎と港の状態に関する記録、我々の輸入、輸出、生産、港に関する予測、すべてです! 彼らが我々のお気に入りのワインの在庫を入手しなかったことにも驚きました!」

我が国民たちはこの事実を知るべきだろう!

 

「――そうかもしれませんが、フランシスコ殿。このまま法律の制定を断行すれば、急進派の蜂起は決定的なものとなるでしょう。大丈夫なのですか?」

「勿論です」フランシスコは真剣な表情で応える。「すでに反乱軍の規模の想定はついております。帝国各地での蜂起はあり得るでしょうが、多く見積もって4万人程度。対する我ら帝国軍はその反乱勢力が離脱したとしても15万人近く残っておりますので、全く問題ありません」

「むしろ、このまま中途半端に妥協しては、奴らもつけ上がります。その要求は幾重にもエスカレートすることでしょう。

 ここで徹底的に叩き潰すことが必要なのです」

門を叩く急進主義者たち

急進的な運動は人気を博し、制御不能かつ暴力的になりつつある。革命を求める声が街頭に響き渡る。極端な手段が必要になるかもしれない。

「盲目で無知な愚か者たち。彼らは平等に扱われることを望んでいるが、実際はそうではない。彼らが自分の立場を受け入れればずっと楽なのに、彼らは役に立たないプライドにしがみつき、頑固な主張を訴えて街頭に繰り出している。彼らが暴力を行使し続けるなら、我々はそれに応じるしかない」

秘密警察だけがこの問題の解決策となる。

 

「分かりました」

ルイスは覚悟を決めた。今更、後戻りはできない。何かがあれば、自分が責任を取るほかない。

今は、帝国の安定のため、苛烈な決断を下さざるを得ないのだ。

「進めて下さい。そして、帝国に平和を」

「もちろんです。平和は、圧倒的な力の前にこそ成し遂げられます。わずか30年前、我々がナポレオンに対して行ったように」

 

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1838年4月17日。秘密警察法が成立。すぐさま過激派の取り締まりに向けた動きを開始する。

これを受け、3日後の4月20日。ついに急進派勢力が一斉に蜂起。

その勢力はピエモンテ州を中心としたイタリア北西部、イタリア南部のカラブリア、北アフリカ、そしてマドリードにもほど近いイベリア半島北西部のガリシア・アストゥリアスなど広範囲にわたった。

しかし軍部はこの動きをすべて察知していた。イタリア北西部のピエモンテ州には南ネーデルラントのフランデス軍および王弟ディエゴ殿下率いる古テルシオ軍が南北から対応。

イタリア南部のカラブリア戦線にはギリシャ駐屯軍であるアテネス軍が派遣される。

そして敵本拠地のあるガリシア方面にはフランシスコ元帥率いるマドリードの国王近衛隊(Guardia Real)が直接進軍。

瞬く間に各地で帝国軍精鋭部隊が反乱軍を蹂躙し、壊滅させていくことになる。

そして1839年1月27日。アルプスの奥地にまで逃げ込んでいた者まですべて駆逐したことで、蜂起から1年も経たずしてこの反乱は完全に鎮圧されることとなった。

フランス革命の忌まわしき残滓、自由主義という名の愚かなる思想は、その理念と共に血と瓦礫の下敷きとなって潰えたのである。

 

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「何とか事なきを得たな」

国務大臣アレハンドロ・ボルハの言葉に、ルイスは頷く。

「全くです。これで少しは国内も安定してくれれば良いのですが・・・」

そう言いかけた瞬間、執務室の扉がノックされる。

「失礼致します。外務大臣ペドロ・ハネル様より緊急の連絡です。

 イギリス東インド会社がビルマに宣戦布告。宗主国イギリスもこれに加わる形で、15年前に続く第二次英緬戦争が開始されました!」

 

「ーーなるほど」

ルイスは報告を聞き、表情を強張らせる。

「国内の安定が図られたこのタイミングでの発生は幸運と言えるかもしれませんね。

 我らの覇権を脅かし得る最大の宿敵、英国イングラテッラにアジアでの拡大を許すわけにはいかないでしょう。すぐさまフランシスコ大臣も招集して下さい。緊急会議を開きます!」

 

世界の覇権国たるスペインに安定など許されることはない。

帝国は更なる波乱へと巻き込まれていく。

 

 

第二次英緬戦争

「ーー状況を教えてください」

ルイスの言葉に外務大臣ペドロ・ハネルは頷き、説明を開始する。

「1822年のビルマ・コンバウン王朝軍によるベンガル侵攻をきっかけに始まった 第一次英緬戦争はビルマの大敗に終わり、アラカン及びテナセリムを英国に割譲する結果となった。

 そして今回、今度は英国の側からビルマに対して宣戦布告。今回はビルマ南部の ペグー、その北部のザガインといったビルマの中心的地域の割譲を求めており、これが達成させられれば英国によるビルマ支配がほぼ完成させられると見てよいだろう」

「それを許すわけにはいきませんね」

ルイスは毅然とした様子で告げる。

「英国は近年の産業革命により、急速な発展を遂げております。我々は新大陸の広大な土地と資源によりこの三百年間覇権を握り続けてきましたが、北米東部と何よりもインドという莫大な富の源泉を効率的に搾取し、活用する技術と組織に恵まれている英国の成長速度には敵いません。このままアジアでの拡大を許せば、早晩覇権国家としての地位は逆転されることでしょう」

「その通りだ」

と、珍しく列席していた大スペイン帝国皇帝カルロス5世は威厳を持って告げる。

「何よりも、アジアの民をこれ以上、彼らの過酷な統治によって苦しめるべきではない。インドの統治の過酷さは私も伝え聞いている。内戦直後の疲弊している時期ではあるが、すぐさま帝国軍を派遣し、ビルマを救うべきと考えるが、陸軍大臣、それは可能か?」

皇帝の言葉に、これを敬愛する陸軍大臣フランシスコ・アルバレス・デ・トレドは直立のまま威勢よく告げる。

「は! 勿論であります。すでに古テルシオ軍、アテネス軍、カタルーニャ陸軍、それから先の内戦に備えてアフリカの植民地に駐留させていたポート・オブ・チャイナ防衛軍にはそれぞれビルマへの移動を命じております」

「しかし、何分インドは遠方にて・・・全軍の到着には4ヶ月近い時間を必要とします」

「また、英本国軍および東インド会社軍のみならず、インドの各藩王国軍も動員した敵軍の総数は60万を超えております。その大半が時代遅れの装備しか持たぬ後進国とはいえ、3倍近い敵を相手にするのはさすがに骨が折れるものと思います」

「それ故に」と、フランシスコの言葉をペドロが引き継ぐ。「新大陸の副王領各位に、その軍隊の動員を命じたいと思っております」

宗主国アクションの1つ、「Enforce Military Access」。従属国の自由への欲求を増やすことと引き換えに、彼らを宗主国の戦争に強制的に参加させる。数多くの従属国を有している場合、一気に自軍の総兵力を増やすことのできる奥の手である。

 

「彼らにとっては海外の戦争に自国の軍を動員することに不満を持つでしょう。そして何よりも、各国の自治を重視する陛下にとっては、望ましい選択ではないかとは思いますが――」

「構わぬ」

とカルロスは即答する。

「先も言ったように、これはアジアを悪しき帝国主義より護るための大義ある戦いだ。そのために、スペイン帝冠領インペリオ・エスパニョールの各国が協力し戦いに赴くことは望ましきことでさえある。もちろん、勝利の暁には各々の軍隊の司令官たちには名誉ある勲章を我自ら授けよう。帝冠領の総力をもって、英国の野望を打ち砕くのだ」

「承知しました」ペドロは頷く。「すでに、我々からの助力についてビルマ政府からは感謝の意が述べられております。今後、我々の勢力圏へと参入することについても前向きに考えているとのことです」

ビルマに助力する際に「恩義(Obligation)」の獲得を要求。この恩義を消費することでビルマに勢力圏の大使館を設置することが可能になり、それによってLeverageを増加させ、やがて勢力圏への勧誘が行えるようになる。

 

「うむ」

カルロスは満足気に頷いた。

「ルイスの言う通り、単純な帝国の力においては、我々は英国の成長に脅かされつつある。しかし、我々はただ強いだけでなく、その理想と価値とを、世界の帝国に広げる義務がある。最後に勝つのは正しさであることを証明せねばならない。

 この戦いは、我々の信念の価値が問われる戦いである。この戦いに勝利し、帝国が不滅であることを証明せよ!」

 

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1841年9月13日。

スペイン軍がビルマに到着するより先に火蓋は切って落とされ、英国軍60万が西のアラカン山脈から、そして南のテナセリムから次々と雪崩れ込んでくる。

スペイン軍が近づいて来ていることを知り、ビルマ軍も懸命に抵抗を続けるものの、数でも質でも大きく勝る英国軍相手に次々と敗退。

開戦からわずか半月で、ビルマはその南北の大部分の領地を占領されてしまったのである。

しかしここでついにスペイン軍が到着。すぐさまその体制を整え、防戦に徹した後、反撃へと挑む。

年が明けて1842年の春が訪れる頃にはビルマの占領地もすべて奪還し、戦線は膠着することとなった。

このタイミングで今度はイベリア半島に近づく英国海軍の姿が。

バレンシアの港より王立海軍ロイヤルネイビーが発進し、これを迎撃。

ナポレオン戦争時代にも活躍した英国海軍の英雄サー・トーマス・バイアム・マーティン提督率いる英国第一艦隊(プリマス艦隊)を壊滅させることに成功したのである。

そしてこの隙に、逆にサント・ドミンゴ副王領を中心としたスペイン植民地軍が一斉にイギリス本国への上陸作戦を展開。1842年10月についにロンドン上陸・包囲を実現させた。

この状況を受け、英国は戦争の継続を断念。1842年11月8日。英国からビルマ両政府に対し「白紙和平」の提案が出されることとなった。

実質的なビルマおよびスペインの勝利という形で「第二次英緬戦争」は幕を閉じたのである。

 

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「ーー実に見事でした。アジアから欧州にかけて、まさに世界の覇権を巡るこの戦いを勝利に導いたこと、我らが帝国軍の精強さを思い知らされました」

「ええ。たとえいかに英国がその成長著しいと言えど、こうして真っ向から向かい合えばその手をひねることなど児戯が如し。引き続きその野心を抑え続けてみせましょうぞ」

ルイスの言葉を受けて得意気な様子で告げるフランシスコ。

「しかし我々がドンパチしている間に、その他の世界も色々と騒がしく動いていたようですな」

「その通りだ」外務大臣ペドロ・ハネスは頷く。「中東では二つの大きな戦いが巻き起こっていた。まずはエジプト・トルコ戦争。オスマン帝国の保護国という立場であったエジプトが独立を求めたこの戦争はエジプト軍の圧勝に終わり、オスマン帝国軍の劣化を印象付ける結果となった。そして同時に巻き起こっていたロシア・ペルシア戦争ではロシアが3度目のペルシアへの勝利を果たし、テヘラン条約によってペルシアはロシアの保護国となることが決定された」

「ロシアか・・・彼らもまた、油断ならぬ強国ですね。産業の発達は随分と遅れ、政治体制も抑圧的ではあるものの、その土地は余りにも広く、軍隊もその数においては欧州列強を凌ぐ勢いですからね」

「また、我々がポルトガルの後ろ盾となっていた英国を封じ込めている間にブラジルがそのポルトガルに対する独立を宣言。対応しようと派遣されたポルトガル海軍をナタール沖の海戦で打倒し、独立が達成されたとのことだ」

「なるほど。直接の支援はできなかったが、英国を封じ込めたという意味で間接的な支援は果たされた形となりましたね。

 すぐさま外交官を派遣し、彼らも我らが勢力圏へと加入するよう進めてください。彼らを完全に抱き込むことができれば、南米は帝冠領において統一が果たされます」

「了解した。最後に、我らが隣国フランスだが・・・欧州全土を襲った急進主義の波の直撃を受け、元々不安定であった七月王政は瓦解。第二共和制が成立したとのことだ」

「我が国はもちろん、オーストリアもプロイセンも急進主義者たちの蜂起は失敗に終わったが、フランスはそうではなかったというわけですね。元々は奴らが40年前に世界にもたらした災厄の残り香です。自業自得と言えるでしょう」

「そうだな。しかしある意味で、これでフランスの政治基盤は強国になったとも言える。先の英国との戦争も勝利はしたものの、我が国の人的・経済的損失も決して少なくはない。

 この状況を踏まえ、外交の強化も私の方で進めている。具体的には同じハプスプルク家のオーストリアとの同盟締結、そしてロシア帝国とも、防衛協定という形で同盟の締結を進めようとしている」

「ナポレオン戦争後、一時的に存在していた四国同盟*1の部分的復活ですね。しかし北イタリアを巡って関係悪化していたオーストリアとの関係改善はよく成し遂げられましたね」

「オーストリアから打診のあった相互投資協定の締結の見返りとしてこちらから申し出た形だ。奴らも近年プロイセンとの関係が悪化しているとのことで、我らとの経済的・軍事的な結びつきは最優先事項となったのだろうな」

本的に他国に投資権は与えたくはないのだが、今回は恩義を差し出すという要求。そしてその恩義を使ってオーストリアと同盟を結べるということだったので、了承することにした。

 

「これで欧州における安定はかなり確保できたと言えそうですね。そしてビルマとの関係改善により、アジアでの勢力拡大も順調だ」

「アジアでの勢力拡大と言えば」と、ペドロが思い出したように壁の時計を確認する。「そろそろボルハ殿からの報告が届く頃だな」

「ええ、中国南部における、宣教活動の経過報告ですね。随分と順調に進んでいる一方で、清朝政府との軋轢も高まりつつあるとも聞いておりますが・・・」

ルイスが言いかけたそのとき、執務室の扉が慌ただしくノックされた。

「失礼します。イエズス会からの緊急報告です。中国南部にて拡大を図っておりましたカトリック教徒たちに対し、清朝政府が暴力を伴う苛烈な弾圧を開始。これに抵抗した現地のカトリック教徒たちが、カルロス皇帝を元首として置く漢民族たちのための国家、『中華帝国インペリオ・チーナ』の建国を宣言して一斉に蜂起しました!!」

 

「ーー何と」

「また、慌ただしくなりそうですな」

絶句するルイスに、陸軍大臣フランシスコは冷静な様子で告げる。

「我らが同胞を見捨てるわけにはいきません。すぐさま中国への武力介入を進めます。良いですな?」

フランシスコの言葉を、ルイスは黙って受け入れるほかなかった。

 

騒乱は続く。「太陽の沈まぬ帝国」の名にふさわしく、世界の各地でそれは起こり続ける。平穏のように思われていた新大陸でさえも。

 

次回、「中国戦争」へと続く。

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*1:史実では英露普墺の四カ国で成立。この世界ではスペインが中心となって西露普墺の四カ国で構成されていたが、1822年にスペイン領ロンバルディアにで起きた独立運動への介入にオーストリアが否定的な反応を見せたことで事実上崩壊した。