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【CK3】裏切り者の一族 第四話(最終回) 緋色生まれのミカエル(1224-1231)

 

ビザンツ帝国、またの名を東ローマ帝国と呼ぶその国は、かつて地中海世界の全てを支配していた人類最高の帝国、ローマの残滓とも言える存在であった。

4世紀のゲルマン民族の大移動により混乱に陥ったローマ帝国は、その100年後にローマを中心とした西ローマ帝国が滅亡。コンスタンティノープルを中心とした東ローマ帝国はその後も長く生き存える続けるものの、ユスティニアヌス大帝の時代のわずかな領土回復の瞬間を除けば、殆どが異教徒と異民族たちによる侵攻、そして繰り返される内乱による領土の縮小と衰退の一途を辿り続けていた。

 

言わば、ビザンツ帝国とは、敗北し続けるだけの鈍重な巨象であった。

しかし、この運命に抗う姿勢を見せた一族がいる。それが、タルカネイオテス家であった。

 

かつて、自らの裏切りにより、帝国の半身とも言えるアナトリア半島の大半を異教徒らに奪われる結果を招いた彼らは、その100年後、まるでその雪辱を雪ぐためであるかのように、帝国内で謀略を重ね、ついには帝位の継承を確実なものとするところにまで上り詰めた。

そして彼らは悲願のアナトリア奪還を果たし、次期皇帝を自身の一族に誕生させ、帝国の全土を掌握する最高の一族へと昇華していった。

だが、その栄誉を成し遂げていった「寛大なるヨハネス」は、その治世の半ばにて命を落とす。

 

遺された緋色生まれのポルフュロゲネトスタルカネイオテス家後継、「タルカネイオテス朝」初代皇帝となるミカエル8世は、祖父、父が作り上げてきた名誉を真の完成に至らしめることができるのか。

 

帝国の命運を握りし一族の、もう1つの物語。その最終章が幕を開ける。

 

目次

 

Ver.1.14.2.2(Traverse)

使用DLC

  • The Northern Lords
  • The Royal Court
  • The Fate of Iberia
  • Firends and Foes
  • Tours and Tournaments
  • Wards and Wardens
  • Legacy of Perisia
  • Legends of the Dead
  • Roads to Power
  • Wandering Nobles

使用MOD

 

前回はこちらから 

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皇帝戦争

タルカネイオテス朝初代皇帝ミカエル8世、両親の姓を取ってミカエル・コントステファノス・タルカネイオテスと名乗る彼は、父が何者かによって暗殺されたと知るとすぐ、その犯人を探るために動き出した。

犯人はすぐに明らかとなった。コムネノス=テルメッソス家の当主である「誇り高きエイレーネー」。

かつて、コムネノス家の皇帝マヌエル1世の後継者と目されながらも、タルカネイオテス家の策略によりその道を阻まれたキビュライオタイ軍管区長官イサキオスの娘である。

コムネノス家本流がミカエル8世の妃になるなどタルカネイオテス家の支配に服そうとする中、コムネノス王朝の誇りを取り戻すべく、タルカネイオテス家との血の確執を深めていったというわけだ。

この事実を掴んだ以上、彼女を野放しにするわけにはいかない。彼女の殺人は今や帝国内の周知の事実となったものの、それを理由に逮捕を試みようとしても当然、素直に従うはずもない。

そして無理やり彼女を捕らえようと軍を差し向ければ、それはすなわち、帝国を二分する大内乱となり兼ねない。そのことはまだ若いミカエルにもよく理解できていた。共同皇帝を務めていた偉大なる父は今はなく、彼がまだあまりにも権力基盤が緩い。

「ーー今は、その基盤をまずは固めるべき時です」

と、妻のエライオドラが告げる。元皇帝アンドロニコスの娘でもあり、対立していたコムネノス宗家とタルカネイオテス家との和解を象徴する婚約の相手であったが、ミカエルにとっては心より許せる最愛の相手であり、友であり、助言者でもあった。かつて病によりその目の光は失われつつも、それが故にかあらゆる人間の心の中の闇を見抜き、世界に広がる多様な知識と知恵をミカエルに与えてくれる。

「陛下がこの帝国を治むるに値する正統なる君主であることを明確に示し、これを血で穢そうとする輩がいかに愚かであり、与するに値しないと思わせるだけのものを作るのです。それまでの間、陛下を害しようと試みはすべて、私が責任を持って防いでみせます」

エライオドラの言葉はミカエルを心の底から安心させる。突然の「独り立ち」は言いようのない不安を彼にもたらしていたが、今はもう、責任を持ってそこに立ち向かうべき覚悟が出来ていた。

「ーーこれでタルカネイオテスの血脈を、栄光を、終わらせるわけにはいかぬ。そしてこの帝国からあらゆる混乱と対立を取り除いてみせるーー父が望み、そして成し得なかったその夢を実現させるために」

 

そんなミカエルのもとに、ある意味で好機とも言える出来事が訪れる。

すなわち、ドイツの皇帝、神聖ローマ帝国皇帝によるビザンツ帝国に対する「宣戦布告」である。

 

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当時の神聖ローマ帝国皇帝はプシェミスル家のインジフ6世。16年前、エティション=バーデン朝の皇帝フリードリヒ2世が没したとき、わずか6歳の女子しか遺さなかった彼の家系の代わりに、当時58歳という高齢で「中継ぎの皇帝」として即位したボヘミア王。

しかし彼はそこから現在に至るまで衰えることを知らず、その聡明さと人徳から「学者皇帝」と称され、敬愛された。

すでに皇帝の家臣たちは彼に対する絶大な信頼を抱いており、この16年間、帝国の統治は実に安定したものとなっていた。

しかしそんな彼もさすがにあと数年も生き残ることは難しいだろう。

そうなったとき、今でこそ共同皇帝として次期皇帝の座を確実なものとしているとはいえ、息子のヴラティスラフが即位後に強固な権力を握れるか不安になってきてもいた。

ただでさえ「学者皇帝」の後継者であるのだ。そんなインジフ以上に軍事の才が欠如していると思われつつある息子の権威を自らが生きている間に示すべく――インジフ6世は、ここで生涯最後の賭けに出たのである。

即ち、前皇帝の暗殺による若き新皇帝の即位直後という帝国の混乱期を狙った、国境紛争を理由とした意味もない「ギリシャ人への侵攻」。

互いにローマの後継者であることを自称する東西の皇帝同士が激突する「皇帝戦争」が、ここに幕を開けた。

 

その報せをコンスタンティノープルで受け取ったミカエルの行動は素早かった。

彼はすぐさま軍隊に招集をかけ、自らもその先頭に立ってコンスタンティノープルを発ち、殆ど休む間もなくバルカン半島を駆け抜けてクロアチアの地にまでやってきたのだ。

そして彼は同時に、宰相でもあるアレクシオス2世*1に命じ、とある「外交交渉」を行わせてもいた。

その結果は、ミカエルがクニンの街に到着したと同時に届けられることとなった。

「陛下、無事に成功致しました。

 ドイツに隣接するポーランドの王、カジミェシュ2世の娘とアンドロニコス様との婚約が結ばれ、両国の間には明確な同盟が締結されることとなりました」

「同時にポーランド王は今回のドイツ王の侵攻に対し、我々の側に立って参戦することを決め、その1万5千の援軍を直ちにクロアチアへと向けてくれることを約定致しました」

「――よくやった、アレクシオス。これで兵数では逆転できる。

 目の前で我が帝国の領土が荒らされていくのをこれ以上黙って見ているわけにはいかぬ。

 全軍、ポーランド軍と挟み撃ちにする形でリーカへと突撃せよ。侵入者共に、フランク人の僭称者共に、我らが帝国の真の実力を見せつけてやるのだ」

 

1226年6月25日。

神聖ローマ帝国・ビザンツ帝国の東西二大帝国の国境に位置するリーカの街にて、両軍の総兵力が激突する巨大な戦いが繰り広げられた。

最初は拮抗していた戦力も、ポーランド軍の援軍が到着したことで一気に形勢逆転。最後は潰走する敵軍を、ポーランド軍の軽騎兵部隊コーニやギリシャの重騎兵部隊カタフラクトイが容赦ない追撃を食らわせ、敵軍は総勢3万超の全兵力の半数近くを屍に変えるという大敗北を喫することとなった。

後はもう、一方的な戦いであった。間も無く何度かの戦いに勝利し、神聖ローマ帝国領の国境沿いの街をいくつか逆侵攻し略奪を食らわせたところで「学者皇帝」インジフ6世は降伏を受け入れ。

皇帝はビザンツ帝国に対し、莫大な賠償金を支払う必要に迫られることとなった。

そして、この莫大な富を帝都コンスタンティノープルに持ち帰ったミカエル8世は、ただちにこれを用いて壮大なる凱旋式を開くことを決断する。

その終点はもちろん、帝国臣民と最も近き場所、競馬場ヒッポドローム

そこでミカエル8世は先の勝利の最も「分かりやすい形」として、人々に戦利品の一部を分け与え、皇帝としての威厳と影響力、そして正当性を獲得するに至った。

そして、それによって、臣民はまたしてもなだめられた。私の力と権力の正当性が再確認されたのだ。
競馬場ヒッポドロームを去ろうとすると、人々の歓声が空気中に響き渡り、歴代の皇帝の栄光を目撃してきた古代の石に反響した。コンスタンティノープルの人々の目が皇帝に向けられ、歴史の重みを感じ入った。
今日、沈みゆく太陽の輝きの下で、私の勝利は単なる祝賀ではなく、帝国の不朽の精神と力の証となるだろう。
常に卓越せよアイエン・アリステウェイン」と、私は囁いた。

 

これでミカエル8世は「真なる者」として認められ、国内における権力基盤を確固たるものとすることに成功。

同じタイミングで、密偵頭が宮廷内で怪しい動きをしていた者を捕える。

それは、彼の母ゼノビアが属していたコントステファノス家のマカリオス*2。何者にもなれぬ現状の原因をタルカネイオテス家に定め復讐心を蓄えながらも、何もなし得ぬ現実を酒で忘れようとし続けていた彼にとって、同じ境遇とさえ言えるエイレーネーの誘いは天命のようにさえ映ったのだろう。

囚われ、命乞いをするマカリオスに対し、ミカエルは助命の引き換えに協力を強要。

1227年3月20日。コムネノス=テルメッソス家のエイレーネーは何者かによってその命が絶たれるが、このことでもはやミカエル8世を非難する言説が流れることはなかった。

復讐は果たした。

そして帝国の安定も、間違いなく確立させている。

ミカエル8世は即位後わずか3年で、この帝国を完全に掌握しきったかのように思えていた。

 

しかしそんなミカエルのもとに、とある報告が舞い込んでくる。

 

「ーー陛下、西方のラテン人たちのもとへと忍び込ませていた密偵団からの確かな情報です。

 ・・・ラテン人たちが、良くない動きを我々に向けようとしているとの情報です」

 

ミカエル8世にとっての、最大の危機が今、目前に迫っていた。

 

十字軍の暴走

「ーー彼らが擁立しているのは神聖ローマ帝国の前皇帝フリードリヒ2世の遺児ベルタです」

「神聖ローマ皇帝位こそプシェミスル家に奪われている彼女ですが、代わりにコンスタンティノープルを支配し、より真なる姿に近い『ローマ皇帝』の地位を求めて今回の陰謀を進めようとしている、というわけです」

かつてルーム・セルジューク朝に仕えていたペルシア人ジャラルッディーン・ルーミーが、ミカエルに説明する。異教徒でありながら公平な視点と豊富な知識、そして類稀なる聡明さを有するこの男をミカエルはすぐに気に入り、自らの側近として傍に置くことにしていた。

「もちろん彼女が自らの意思でこの動きを進めているわけではないでしょう。その背後には二つの大きな存在があります。

 まず一つ目は、フランス王ルイ8世。『強壮王』もしくは『獅子王』の名で呼ばれる武勇に優れた王ですが、一度弟のユーグに王位を奪われながらも、つい先日これを再び取り戻すなど、西方で最も力を持った王と言えるでしょう」

「そしてもう1つの存在が、ヴェネツィア共和国とその総督フェデリーゴです」

「彼らの海軍力と経済力は十字軍そのものにとっても欠かせない存在となるわけですが、その彼らが十字軍への協力の見返りとして、より大きな獲物を求めてフランス王とベルタに近づいた、と言うのが今回の動きの最も大きな理由かと思われます」

「その獲物というのが、このコンスタンティノープルというわけか」

ミカエルはため息をつく。

「サラセン人たちを相手にするよりも楽だと思われたわけだ。実に心外だな」

「俗っぽい理由ゆえに、分かりやすく、結束力は高いと言えます。国王級の参加が見込めない本来の十字軍と比べても、フランスとヴェネツィアという大きな柱が存在することで、明確な脅威となるでしょう。

 奴らが本格的に攻撃を開始するよりも先に、準備を整える必要があります」

「ふむ」ミカエルはルーミーの表情を見て気づく。「何か考えがあるようだな」

「ええ」ルーミーは頷く。「かつてイスラム教徒との戦いにおいても何度か使用され続けたこの国の秘密兵器ーーギリシアの火デュロモイと呼ばれるものの復活を実現して見せようと思っております」

ギリシアの火ーーかつてサラセン人たちとの戦いで使用され、何度も帝国の危機を救った帝国の秘密兵器であるが、時の流れと共にそれは忘れ去られつつあった。

その復活を成し遂げるべく、ミカエルはそのためのプロジェクトチームを結成した。

中心となるのがイスラームのそれも含んだ豊富な知識を持つルーミー。そこに全地総主教ガブリエルやエライオドラの人脈を用いて資金と優秀な人材を投入。さらには西方からやってきたこれもまた聡明な若き知識人も取り込み、多方面からの開発を進めていった。

ナフサ、生石灰…そして大胆さ

バシレウスとして、私は帝都の水域の絶対的な支配者でなければならない。これは神によって与えられた権利であり、天国からの炎の制御、液体の火の制御によって包囲と攻撃から守られている。
コンスタンティノープルを守るためには、我々の港には無力な商船以上のものを収容しなければならない!

私の素早いドロモンはどこにいるのか? 私の船の船首に火花を散らす巨大な火炎放射器を鍛造する、ヘリオポリスのカリニコスのような賢い職人はどこにいるのか?

急ピッチで進められたその開発と整備だが、何とかラテン人たちが陰謀を行動に移すよりも先に、その完成を実現させることができた。

ギリシャの火のドロモンの準備:成功
埃っぽい地下室の奥深くに、私のエンジニアたちは最後の液体火薬の樽を保管している。一方、ブーコレオン宮殿では恐ろしい演習が行われている。戦争をしているライオンと雄牛の巨大な像の下で、誇り高い軍艦が液体火薬を噴出しているのだ。
そして、殺人的な炎はいつまで踊るのだろう! 私の敵は、ヨーロッパとアナトリアの間の静かな海域を避けるのが賢明だろう。

 

そして、1228年6月20日。

ついに、奴らが動き始めたことが報告される。

「ーー敵は総勢5万2千。帝国軍3万6千を明確に上回る数字で御座います」

ルーミーは淡々と主君に報告する。

「先達てよりポーランド王へ、もしもの際の参戦を打診しておりましたが、王自身の体調不良とそれに伴う国内の不安定化を理由に、これが難しい旨の回答が来ております」

当てにしていたポーランド王の参戦は不可能となっていた。合わせてイングランド王とも同盟を結んでいたが同様に。理由は「彼の主君や封臣に対する戦争に同盟者として参戦要請することはできません」とのことだが、確かに今回の第4回十字軍のメンバーの中には「ポーランド大司教」や「イングランド大司教」が参戦している。大多数の諸侯が参戦するこの第4回十字軍に対し、実質的にカトリックの君主は当てにできないということなのかもしれない。

 

「仕方あるまい。此度は我々だけで何とかするほかない。――緊急動員布告の発令は可能か?」

ミカエルの言葉にルーミーは頷く。

「現在宰相に準備をさせています。帝国内前軍管区の独自軍総兵力は2万6,400名。この全てを動員できずとも、ブルガリアやテッサロニカを中心にバルカン半島側の軍管区軍をある程度は動員できるでしょう。ここまで陛下が蓄積されてこられた政治的影響力を使い果たす勢いで準備致します」

影響力を消費し、配下の軍管区所属の軍を自由に使える状態にすることができる。すべて常備軍のため、見た目の数以上に強力だ。

 

「これらの軍と合わせ、最終的なビザンツ帝国軍の総数は4万3千。ラテン人たちの総数にはまだ及びませんが、これに食い下がれるだけの数と質とを確保することは可能でしょう」

「あとは、皇帝陛下の御意志と戦略、戦場における有能な指揮官の選定次第で御座います」

ルーミーの言葉と眼差しを、ミカエルは受け止める。

祖父ミカエルは、一族の復権が為に、謀略の末に政権転覆の挙兵の決断を果たした。

父ヨハネスは、内外から攻め立てられた帝国の危機を、果敢な決断と外交でもって乗り越えた。

今、自分にも試されている。

タルカネイオテスの名を、唯の無能な簒奪者で終わらせるのか、それとも帝国の危機を繰り返し救い、その永遠の繁栄を約束する英雄の一族のものとするか。

「ーー良し、行こう。我が一族の名誉のため、そして何よりも、帝国臣民の未来のため・・・史上最も偉大なる帝国の皇帝として、私はこの最後の戦いへの号令を発する。全力で以て愚かなる偽りの十字軍を打ち払い、帝国に勝利をもたらすのだ!」

 

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開戦と同時にヴェネツィア軍は動き出し、まずはラヴェンナの地にあるビザンツ帝国領へと攻撃を仕掛けた。

ユスティニアヌス大帝によって6世紀半ばに東ローマ帝国領とされ、8世紀半ばに再び奪われたこの地は、1220年にペトラリファス家のデュラキオン軍管区長官アレクシオスによって征服され、再びビザンツの手中に収まっていたが、100を超えるトレビュシェットの大軍によって瞬く間に征服されていった。

当然、この地からの救援要請はミカエルの元にも届く。しかし、ミカエルはすぐには動かなかった。敵の懐に入るに等しいこの地へ総力戦を仕掛けても、返り討ちにされる恐れが強い。

ミカエルは帝国軍を先の神聖ローマ帝国軍との戦いの舞台にもなったクロアチア方面に移動させつつも、そこであらゆる情報を閉ざし、山中に兵を隠すような形で沈黙した。

やがて、ラヴェンナ全土がラテン人たちの支配下に置かれた後、彼らはアドリア海を渡り、イストリア半島の付け根に位置するリエカの街へと上陸を試みる。

西方と東方の境目に位置し、古くから両勢力ーー東ゴート、東ローマ、ロンゴバルド、アヴァール、フランク、クロアチア、マジャルーーの支配に服し続けてきたこの港町。

ここにラテン人たちが降り立ったと聞きつけたと同時に、ダルマチア地方の丘陵地帯に身を隠していたビザンツ帝国軍が一斉にこの街に向かい進軍する。

 

「ーー敵軍は皆上陸したばかりで体制が整っていない。兵数で勝る敵の本隊を一網打尽にするには、最大の好機と言える。

 義父殿、我が軍の総指揮を、貴殿に任せます。失敗は許されぬ局面なれど、なればこそ、私は貴殿をこそ信頼し、お任せできるものと思います」

ミカエルの言葉に、その男ーーアンドロニコス・コムネノスは深く頷く。ミカエルの妻エライオドラの父にして、かつて皇帝にさえなった男である。

「畏れ多き役割、しかと拝命致す」

アンドロニコスはやや芝居がかった様子で恭しく頭を下げつつも、再びそれを上げたときにはその口元に笑みが浮かんでいた。

「これで俺が見事敵軍を撃退すれば、再び帝位に着く機会が頂けるかも知れぬしな」

周りの将兵が反応に困るようなことを告げるアンドロニコスに、ミカエルも穏やかな微笑を返す。

若くして帝位に着き、何も成し遂げられぬうちにこれを追われたアンドロニコスは、その運命をもたらしたタルカネイオテス家に対する怨みを抱いていても何らおかしくはなかった。

しかし彼は誰もが驚くほどドライに、その後の人生を生きた。そしてタルカネイオテス家のヨハネスの申し出を受け入れ、自らの娘エライオドラをタルカネイオテスの子の妃とすることに同意したのである。

「まーー今の立場の方が余程気楽故、わざわざ捨てる気にはならんがな。帝国の剣として、戦場で勇名を馳せるくらいの方が望ましい。どうしてもというならば、パンヒュペルセバストスの称号くらいは、貰っても良いかもしれんが」

そう言って笑いながら腕を振り回すアンドロニコス。事実、皇帝であることを辞めた後の彼は、軍事的才能をめきめきと見せ、今や帝国内随一の指揮官の座を勝ち得ていた。

「負ける気はせんよ。ここには命を賭けて戦う勇者たちもまた、揃っているからな」

アンドロニコスのその言葉に従い、ミカエルは居並ぶ勇猛果敢な騎士たちを見渡す。

その中の一人が、バシレイオス・コントステファノス。アンドロニコスと同じくかつて皇帝であったステファノス・コントステファノスの遺児である。

彼もまた、タルカネイオテスによってその運命を歪められた男の一人であった。しかし彼はそのようなことを少しも感じさせない毅然さでミカエルの前に立ち、力強く告げる。

「――帝国が為に。必ずや、陛下に勝利を持ち帰ります」

「ああ・・・武運を祈る」

熱く燃えるその瞳をしっかりと見つめ返しながら、ミカエルは頷く。

この男たちであれば、大丈夫だ。

この戦いは、必ずや我々ビザンツが勝利するであろう。

 

ミカエル8世のその確信と共に、東西の命運を決する「リエカの戦い」が幕を開ける。

一進一退の攻防。しかし着実に、敵軍の数は減っていく。想定していたよりもラテン人たちの数が少ないのと、降船直後の不安定な状況への攻撃が、ビザンツ兵たちの有利を作り上げている。

数日間にわたり続いたその激戦は、1229年7月12日についに幕を閉じた。この戦いの中でビザンツ帝国軍の存在はわずか900程度であったのに対し、ハンザ衛兵団長のウィルベルトが率いる「第4回十字軍」側は実に1万3千もの戦死者を出すほどの大敗北。

バシレイオスを含む数多くの勇敢な精鋭近衛隊エテレイアたちの奮闘が、有象無象の敵軍将校らを傷つけ、撤退させていった。

しかし、やはり気になるのは想定よりも少なかった敵軍の数。本来ビザンツ軍よりも多くの兵をラテン人たちは抱えていたはずだったが、今回はほぼ互角、むしろ少し上回っていたほどであった。

ーーでは、この場にいなかった兵はどこへ?

そこに、首都から来た早馬がやってきて、報告する。

「ーー帝都近海に、複数の船団! フランス海軍と彼らの雇用した傭兵団が、コンスタンティノープルに襲い掛かろうとしております!」

――だが、これこそが、ミカエルやルーミーの予期した展開であった。

「デュロモイ艦隊、全軍発進せよ! 愚かなる侵入者共に、地獄とは如何なる所かを思い知らせてみせよ!」

それはまさに驚くべき光景であった。コンスタンティノープルの港を飛び出した無数の二段櫂船たちは、その船首に例外なく異様な機構を備え付けており、フランス軍の船に近づいたかと思えば、そこから恐るべき炎のかたまりが噴き出てきたのである。

火をつけられたフランス軍の艦船はもはや戦いどころではなく、船員たちは次々と海に飛び込んでいく。戦場は混乱し、この艦隊を指揮するベランジュは速やかにコンスタンティノープル攻略を諦め、本国への撤退を決断した。

この報告がミカエルのもとに届く頃には、また別の報せを手にしていた。すなわち、ヴェネツィア総督フェデリーゴやフランス王ルイの死去の報せである。

リエカでの大敗北、コンスタンティノープル沖での悲劇、そしてこの巨大な陰謀の柱とも言うべき2人の死によって、ついにラテン人たちによる「愚かな十字軍」を戦おうとする者たちの意志は絶えた。

ミカエルは宰相アレクシオスをパリに派遣し、ルイ王に代わりフランス王に即位したロバート3世の側近たちと面会。

最終的に1230年1月17日。この「偽りの十字軍」は白紙和平という形で幕を閉じることとなった。

これ以上、この戦いを続けていても何も利益は生まない。

それよりも、フランス王たち抜きで進められていた教皇アナスタシウスによる真の「第4回十字軍」が、イェルサレム奪還のためのアイユーブ朝との戦いを優位に進めつつあることに、ミカエルは注目していた。

これは、ミカエルにとっても好機であった。

すなわち、この十字軍の攻勢に乗じる形で、更なる帝国の悲願――サラセン人たちからの、聖地の奪還――を成し遂げるための最大の好機。

故に、ミカエルはすぐさま兵を取り纏め、帝国の反対側へと向かって一気に兵を差し向ける。

悪しき十字軍を撃退したミカエルはすぐさま兵を取りまとめて帝国の反対側までの大移動を敢行する。

この十字軍に乗じ、さらなる帝国の悲願ーーサラセン人からの領土の奪還を、成し遂げるのである。

 

 

エピローグ

すでに十字軍20万の兵の上陸を許していたイスラーム勢力は、その勢いを止めるのに精一杯であり、その領土北端のシリアの地を護るだけの余力は残せていなかった。

その隙を突く形でビザンツ帝国軍が侵攻。まずは聖地アンティオキアを占領し、その後6万の兵を広く展開し、シリア北部を一気に占領していった。

1231年にはその展開を今度はシリア南部にまで広げ、同盟国であったイングランドやポーランドの援軍も駆けつける形で、その支配領域を拡大。

最終的には1231年11月20日、ダマスクス近郊のマルジュ=ラーヒトで行われたイスラーム勢力主力との激戦に辛勝。

これで彼らの抵抗の力は絶え、アイユーブ朝スルタン「健脚のアリー」は降伏を宣言。

聖地アンティオキアは再びキリスト教徒の手に渡り、この報せを受け取ったコンスタンティノープルの臣民たちは皆、喝采と共に皇帝ミカエルの名を讃えたという。

直後に「第4回十字軍」もイスラーム勢力に勝利し、中東の地にイェルサレム王国が復活。中東世界にキリスト教勢力が再び根を下ろすこととなったのである。

 

「ーー実に鮮やかな手際でしたな。中東におけるこの百年の勢力図を一気にひっくり返された」

ルーミーの言葉に、ミカエルは頷く。

「お前にとっては、同じムスリムの同胞を数多く傷つけ、その土地を奪うこととなったこの戦争の推移は、決して望ましいものではなかっただろうがな」

「もちろん、心情的に複雑なものがないわけではありません。しかしそれ以上に、陛下の覇道、その指し示す先にこそ、私は興味が御座います。

 今、歴史は間違いなく大きく動いております。その事実を全てこの目で見、そしてそれを書き記していくことこそが、私の今生きる使命だと感じております」

「――そう言えば、我に関する叙事詩についてはどうだ? 出来上がっているのか?」

「ええ」ルーミーは微笑を浮かべながら頷く。「ほぼ、完成しております。帝国中に数多くの協力者を得、今や北はモルドバの先からコーカサス、南はシリアの先端に至るまで、偉大なるミカエル陛下のご威光が行き渡っておられます」

「ふん――随分と大仰な物語だ。だがまあ、これくらい誇張したものが、この帝国の統治を安定させる上では必要となるだろう。

 この物語を用い、シリアでも正教会の勢力を広げていくのだ」

「神聖な伝説」は、征服地の改宗を一気に進められるため征服プレイでは重宝する。

 

「もちろん、西方教会のように、その信仰を排他的なものとするつもりはない。シリアの地は、キリスト教とイスラームの宥和の中心地にしていきたいと思っている」

「ーーありがとうございます」

ルーミーは深々と頭を下げる。

「理想を実現することは決して簡単ではないでしょうが、最高権力者が理想を語ることは最も重要なことであると理解しております。

 そして宥和こそが、陛下の最も目指されている道であることも――宗教だけではなく、それはこの帝国の宿痾でもあった血族の対立においても」

「ああ」

ミカエルは頷く。

「このシリアの地は、イスラーム勢力のみならず、西方教会勢力とも国境を接する最も重要な地。その支配権を、私は私が最も重要と見做す者たちに任せることにした。

 まずは新設されたホムス軍管区長官として、我が妻エライオドラの弟にして、義父アンドロニコスの嫡男たるコムネノス家のセラピオンに」

「そしてパルミラ総督として我が従兄でもあるイヴァン・アセンを配置した。彼らブルガリア人たちもまた、帝国の長年に渡る『敵』であったが、彼らと一早く宥和する道を選んだ我が祖父の意志を私もしかと継承していこうと思う」

「そして、これも新設されたアレッポ軍管区の長官として、ラテン人との戦い、そして此度のサラセン人たちとの戦いにおいても活躍した《聖戦士》バシレイオス・コントステファノスを任命している」

「タルカネイオテス家は、この帝国の権力を握る過程において、多くの裏切りを果たし、そして血を流してきた。我が父ヨハネスも、その流れを受け、コムネノスの血を引く者によって殺された。

 これ以上の確執を継承することを私は望まない。そのために、このシリアの地は、信仰のみならず、この血族の宥和においても、最重要の土地としようと思う」

「ええ――それが望ましいことだと思います」ルーミーは深く頷き、同意する。「その上で、先達ては御子息のアンドロニコス様も共同皇帝として任命することが認められ、タルカネイオテス家の将来に渡る支配も盤石なものとなりましたな」

「先の戦争では対立したヴェネツィア共和国も、後任の総督となった合理主義者ボニファツィオとの間には再び利害関係が結ばれ、貿易も再開し、関係の改善が進められていると聞きます」

「帝国の統治は安泰と言えそうですね」

言いながら、ルーミーの目が言葉ほどには明るくないことに、ミカエルは気が付く。

「何か言いたそうだな」

「ええ、その通りです。盤石に思えるこの帝国ですが、2つほど懸念が御座います」

話せ、とミカエルは促す。ルーミーは頷き、続けた。

「まずはアンドロニコス様の義父にあたるポーランド王カジミェシュ様が、つい先日急死なされました」

「代わって王位についたのは長女のリクサ様でしたが、彼女は隣国ハンガリー王の妃となっており、そしてこのハンガリー王が常に帝国の領地を狙おうとしているのは憂慮すべき事態です」

「ああ――将来においてはこのポーランドとハンガリーの同君連合ができる可能性があるのか。そして奴らは、我々の領地を狙っている。

 確かに、これは厄介だな」

「ええーー場合によっては、アンドロニコス様の妃たるマウゴジャータ様の持つ請求権を利用し、『対処』する必要があるかもしれません」

「それはまあ――検討はしておこう。で、もう1つの懸念というのは?」

「ええ。コーカサスの北に位置する隣国、ザポロージャ・ハン国のゼイハンをご存じで?」

「ああ。グルジア総督やパフラゴニア軍管区長官が何度か領地を巡りやり合っていることは聞いている。勇猛果敢で、真正面からは決して相手にしたくない勇士であると聞いている」

「ええ、そのゼイハンですが――突如襲来してきたモンゴルと呼ばれる騎馬民族たちに敗れ、囚われの身となったと」

「ほう――」

ミカエルは表情を固くする。

「そのまま彼らの土地を全て飲み込んだこのモンゴル帝国は、今やビザンツ帝国と国境を接する存在に」

「彼らは地平線の果てまで続く非常に広大な土地を支配しており、その面積は我らビザンツの2倍、あるいは3倍もあるとさえ噂されております」

「その支配者はテムジンと呼ばれている男。残虐で、地も涙もない恐ろしき君主とのことです」

「そうか・・・」ミカエルは嘆息する。「私が7年前に即位してからずっと、あらゆる侵略者と対峙してきた。しかしまだまだ、休まる時はなさそうだな」

「それが、世界に君臨する偉大なる帝国の主ということです。なにせこの国は、西ローマを滅ぼした異民族の侵入さえも跳ね除け、生き存え続けている不死鳥の如き国なのですから」

そうだな、と呟きながら、ミカエルは眼下に広がる壮麗なる帝都と、その先に広がる広大な地中海へと視線を向けた。

「――そうだな。そして我らがタルカネイオテスは、アナトリアを取り戻し、シリアも取り戻した。私だけでなく、私の後裔たちも含め、いつかやがて、この地中海全てを取り戻し、永遠のローマを再び蘇らせてみせる。

 そのときにはきっと、キリスト教とイスラームの宥和も真に果たされることになるだろう」

「期待しております、陛下」

 

 

黒き鷲の象られた帝国の旗が、遠き中東のダマスクスの空に翻る。

大いなる成功を胸に刻んだ若き皇帝は、希望に満ち溢れた瞳を輝かせ、遥かなる大海を臨む。

その先にあるのは、夢想に終わるだけの束の間の栄華か、それとも永遠を現実のものとする偉大なる歴史の道筋か。

 

かつて裏切り者と呼ばれた一族は、果たして帝国の守護者となりうるのか。

 

それはまた、ここでは語られぬ物語。

いつか来る未来の証人に、きっと語ってもらえるであろう。

 

 

裏切り者の一族  完

 

 

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*1:《公正なるテオドロス》の息子。

*2:ゼノビアの叔父にあたる元アテナイ軍管区長官アンドロニコスの遺児。