異端なる物語はいよいよ佳境へと差し掛かっていく。畿内に舞い降りたその微かなる異物は、やがて瞬く間に巨大化し、畿内の諸勢力を飲み込んでいく。
この動きに危機感を抱いた天下人・織田信長は、これを打倒するための軍を挙げるも、天正9年(1581年)10月26日に突如、不審な死を遂げる。
さらにその一年後には嫡男・信忠も同様に命を落とし、大混乱に陥る織田家は壮絶なる内紛を巻き起こすこととなる。
そして天正15年(1587年)1月22日。この織田家による畿内支配を終わらせるべく、今度は鯖布家から織田家に対し宣戦布告。
最終的には当主・三法師の身柄誘拐という形で天正17年(1589年)7月9日にこれを終結せしめ、畿内の大半を鯖布家という異端の存在が支配する結果となった。
この事態を、今までは傍観していた諸大名も、いよいよ警戒心を抱き始めることとなる。
果たして、この異端が異端として歴史の表舞台から排斥されることとなるのか、それともこれを新たな正統として、ハサンは自身の信仰の新たな基盤を守り抜くことができるのか。
ハサン・サッバーフ。その異質なる旅の物語も、いよいよ終着点へと突き進んでいく。
目次
※ゲーム上の兵数を10倍にした数を物語上の兵数として表記しております(より史実に近づけるため)。
Ver.1.13.1.2(Basileus)
Shogunate Ver.0.8.6.3(紅葉賀)
使用DLC
- The Northern Lords
- The Royal Court
- The Fate of Iberia
- Firends and Foes
- Tours and Tournaments
- Wards and Wardens
- Legacy of Perisia
- Legends of the Dead
- Roads to Power
使用MOD
- Japanese Language Mod
- Shogunate(Japanese version)
- Japanese Font Old-Style
- Historical Figure for Shogunate Japanese
- Nameplates
- Big Battle View
- Battleground Commanders
- Personage
- Extended Outliner
前回はこちら
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信仰への道
天正19年(1591年)4月。
天正丁亥の乱と呼ばれた、鯖布家と織田家との激しい争いの終結から2年。
鯖布家の勢力はさらに拡大し、紀伊そして近江をも飲み込み、畿内のほぼ全域に手中に収めることに成功していた。
「――統治の具合はどうだ?」
「問題ございません。巴算様の教えに従い、正しい信仰に帰依する官僚たちを中心とした行政を行うことで、着実に安定した統治を実行することができております」
「それは私の近江だけでなく、秋山殿の治める大和国、そして徳川殿の治める紀伊国においても同様です」
「それぞれの土地で少しずつ正しき信仰を広める努力も継続しており、やがて畿内全域に安定した状況をもたらすことができるようになるでしょう」
「但し、その過程において――変化を嫌う勢力が噴き上がること避けられないでしょう」
「構わぬ」と、三成の言葉を巴算は薄い笑みを浮かべながら即座に返す。「むしろ、獅子身中に巣食う不穏分子を炙り出す好機となるだろう。我々を邪魔立てする者は誰一人容赦なく、対処せよ」
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4月23日。
三成の危惧した通り、鯖布家の領内に巣食う神道の信者たちが一斉に蜂起を開始。
畿内各地にて兵が立ち上がり、その総勢は10万にも達する勢いであったという。
しかし巴算は決して慌てることなく、直ちに秋山や徳川など、配下の将を従えて6万弱の兵力を確保。
兵数で劣るとは言え、その質の差は歴然であり、しかも数だけは多いが連携は取れていない敵反乱軍を各個撃破していく鯖布軍。
最終的に熊野に逃れていた反乱軍首領・生駒長直を捕らえたことで、半年も経たぬうちにこの反乱軍は完全に鎮圧させられることとなった。
そして反乱者たちに対する徹底した調査の末に、ある一つの事実が浮かび上がることとなる。
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報せを聞いて慌てて堺の巴算邸地下牢へとやってきた半蔵は、その中に腰かけている「相棒」の姿を見て絶句する。彼女はそんな半蔵の表情を見て、どこか愉し気に笑みを浮かべた。
「――なぜ、こんなことを」
半蔵の問いかけに、女は笑みを絶やすことなく応える。
「言っただろう? アタシの生き甲斐は、この世で最も権力のある男をこの手で殺すことだって」
「しかしーー」半蔵は反論しようとする。ハサンは彼らにとっての希望であると。権力に迫害され続けてきた自分たちにとって希望となる新世界を作ってくれる存在なのだと・・・しかし、彼は次の言葉を口に出そうとして、できなかった。
「アンタも分かってるんだろう?」ナミは笑みを消し、真剣な眼差しで半蔵を見上げる。「本当に、大将はアタシたちを守ってくれるのか。大将の目指す新世界において、アタシたちの希望が本当にあるのか」
半蔵は沈黙する。それは彼自身もまた、薄々と勘づいていた。次第に増える、理解し難い信仰を持つ同輩たちの姿。いつものハサンから与えられるミッションをこなそうとする中でも、彼らの存在感は確かに増えていき、国内でもその新たな信仰の持ち主が占める割合が増えてきている。
ハサンは半蔵やナミに、その新しい信仰を強要することはなかった。しかしそれが故に、その心の距離はかつてよりずっと離れているような気がしていた。
彼もまた、俺たちをいつか切り捨てるのではないか。
「しかし、だからと言って、こんな無謀なことをーー」
「無謀ではないさ」
ナミは再び優しい笑みを浮かべながら応える。
「無謀というのが、目的が達成させる見込みがないにも関わらず動くことを言うのであれば、そうじゃない。アタシは自由を求めて戦うことを選んだ。そして今、アタシはそれを確かに手に入れた。アタシの精神は誰にも囚われることなく、自由なままこの世を飛び立とうとしているのだから」
もはや、半蔵に言えることは何もなかった。
悲しさ、後悔、羞恥、あるいは怒りーーあらゆる感情のラベルも、今の彼の内から湧き上がる衝動につけるには相応しいものではなかった。
「・・・じゃあな」
半蔵の力ない言葉に、ナミは微笑を浮かべたまま無言で頷いた。
半蔵はそれを見届けると踵を返し、牢屋を後にした。
その翌日、巴算の暗殺を企てたとして罪に問われたナミの処刑が密かに決行される。
その最期は安らかなものであったと、半蔵は伝え聴くこととなった。
その数日後。
巴算の前に、半蔵が頭髪を切り落とした姿で姿を現した。
「大将、申し訳ないが・・・暇を頂きたく、願い申し上げる」
半蔵の言葉を巴算は無表情に沈黙したまま受け止めている。
傍らに仕える石田三成もその緊張感で思わず唾を呑み込みかけるも、半蔵は動揺することもなく毅然とした様子で巴算を見据え、言葉を続ける。
「暫しの間、旅に出て自らの気持ちの整理をつけたいと思っている。遠く奥州、あるいはその先の蝦夷と呼ばれる地にでも・・・少なくとも今の迷いある心のまま大将の傍にいては、力になれない許りか、誤った判断をし兼ねない。どうか、お許しを」
半蔵の直裁な物言いにハラハラしつつ、三成は主君の顔を覗き見る。
巴算はわずかの間沈黙を保っていたが、やがて口元を緩めながら答えた。
「そうか。分かった。・・・ナミのことは、私も心苦しい判断であった。お前の気持ちは、十分に理解している。
出立の前に、ささやかながらも饗宴の場を設けさせてほしい。久方ぶりに、思い出話でも、させてもらえると幸いだ」
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「ーーこれで良い。我が信仰と正義を成し遂げるため・・・この異国の地で、正しき信仰の道を創り上げる為に、これは必要な犠牲となる。
必ず、成し遂げねばならぬ・・・この地を、正しき信仰の理想郷とすることを。
どんな邪魔立てがこれ以上あろうとも、もはや何も恐れることはない」
そして、最後の戦いが始まる。
西国の巨人
慶長2年(1597年)末。
九州地方をほぼ統一していた島津家当主・島津義弘*1は、西中国を巡る毛利家との戦いに勝利し、その領地の大半を手中に収めることとなった。
この戦いの中で毛利家当主・毛利輝元は居城の落城と共に切腹し亡くなっており、後を継いだのはその幼き嫡男の毛利信元。
当然、この事態に毛利家内では内乱が相次ぎ、まずは大叔父の毛利元政を新たな当主として擁立する吉川元春の反乱が勃発。
さらに従叔父の小早川元続*2もまた、山陽地方での独立を画策。
この戦争は最終的に慶長4年(1599年)10月に吉川元春の勝利で終結。毛利家当主は元政の手に渡る。
だがこの結果、求めていた独立を不意にされた小早川元続は不満をため込んでおり、そこに巴算が接触。
最終的に元続は巴算の下に降ることを受け入れ、鯖府側へと「寝返」る。
さらに慶長5年(1600年)5月、新政権での主導権を巡り不和が生じていたのか、毛利元政を擁立していた吉川元長がこちらは逆に島津側に寝返った。
この結果、中国地方における雄であった毛利家は実質的に滅亡し、鯖布家と島津家とが直接国境を接し対立する、そんな状況に陥っていた。
鯖布軍の総兵力7万に対し、島津家のそれは12万近くに達する。
真正面から彼らとぶつかり合うことは望ましくないーーそう理解している巴算は、島津家に対する懐柔策を模索することになる。
その一つの方法が、彼の次男である鯖布高満と、服部正成の娘で、3年前に急死していた彼の後を継ぎ河内の女大首長となっていた紫との盛大なる結婚式の開催である。
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京・堺の珍物を揃え、異国風の貴重な品々も取り揃えたその饗宴は来客者たちを一様に喜ばしているようで、それは義弘においても例外ではなかった。
そして、巴算と義弘とは二人きりで話し合う。互いに冗談を言い合い、気を許し合うような会話を続ける。巴算にとって義弘は一回り年上の存在であるはずだったが、そこに共通する野心、政治への興味、そして――この先の日ノ本における統治について、彼らは心行くまで話し合うことができた。
「――貴殿が、この国にはない異国の教えを奉じていることは承知している。しかし、元より信仰というのはそれ自体何か問題になるものではない。九州にも異国の教えは多く広がっていたが、人と人との繋がりが、それで阻害されるものであると感じたことはない」
義弘は酒を口にしつつ、穏やかな表情で語る。「大事なのは、互いが互いの領域を理解し合い、侵害することなく、それぞれの国の発展を願うことだ」
「同意する、少将殿」巴算も水を口に運びつつ、しっかりと頷く。「私たちは信仰は違えど、決して利害を異にするものではない。それぞれがそれぞれの守るべき土地と民を持っており、これを不可侵にすることが最善だ。共に子女同士の婚姻を結ぶことが最善だろうが――少しばかり我々の距離は遠く、難しいようだな」
「で、あれば我々は友となろう。信義と共に、この国におけるそれぞれの民の幸福が為に――」
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「状況はどうだ」
「ええ――東国では武田領内で大規模な反乱を行わせ、上杉と全面戦争中だった彼らはこれに対応することができず、独立を認めざるを得ない事態に。その上杉家も武田に敗北した上、同様に我々の方で扇動した反乱者による内紛が勃発中で、我らの動きを気にすることなど、できるはずもない状況となっております」
「そして織田家に対しても内部工作を進めていった結果、美濃の地を奪い取ることに成功。尾張一国に押し込められた彼らはもはや抵抗する余力は残っていないと言えるでしょう」
「素晴らしいな。引き続き東国に透っ波を送り続け、情報収集と内部攪乱を継続し続けろ。間も無く、畿内の統一も完成する。その上で島津との不可侵関係を継続することで、我らにとっての障害は完全に廃されるだろう」
「御意――我らが真なる信仰が為、全力をもって尽くしまする」
「さて――それでは、最後の仕上げと行こう。
対するは、大坂に位置する本願寺」
「並の大名を超える武力と資金力を有するこの異教徒の本拠地が畿内に残り続けていることは、我らの統治の安定を望む上では大きな障害となっていることは間違いない。我々は数年前から彼らに対し平和的に大坂を退去することを求め続けてきたが、今だにそれは叶われておらず、それどころか国内における一向宗の叛乱さえも唆しているという話も聞く」
「と、なればもはや、方法はあるまい。
――力づくで、執行させてもらうほか、あるまい」
慶長7年(1602年)11月13日。
畿内から山陽・美濃に至るまでを広く支配する鯖布家は、本願寺勢力に対し大坂からの退去を求め宣戦布告。直ちにこれを包囲する。
さらに別動隊で本願寺勢力の拠点がある桑名、そして加賀国へも攻め込み、これを制圧していく。
このまま順調に、何の問題もなく本願寺戦を終えられる、と思っていたが――
「――殿」
青褪めた顔で、三成が報告に来る。
「・・・大変、申し上げにくいことが御座います。
――島津が、裏切りました。西国で兵を挙げ、本願寺勢力に与すると、宣言したのです」
「何だと――」
これまでどんな危機にもその冷静さを失うことのなかった鯖布巴算が、このときばかりは言葉を失い、暫くの間、何も言えずに口元を押さえることしかできなかった。
いよいよ、彼にとっての最後の試練が、目の前に立ちはだかることとなったのである。
神の意志
「状況は」
「は」
巴算の言葉に、外交関係を取り仕切る徳川家康が説明を開始する。かつて、武田にその領地を奪われた際の傷が原因で両目の光を失っているが、それが故に卓越した耳と明晰な頭脳でもって、あらゆる外交関係を取り仕切る最強の取次となっていた。故地を失い、放浪していたところを巴算に救われ、「真の信仰」を得た後、彼に忠誠を誓う存在となっていた。
「これまでの本願寺勢力のみであれば、問題はなかったでしょう。しかしここに、山陰から西中国、そして九州全土に至るまでを支配する大国・島津が参戦したことで形勢は一気に逆転」
「その総兵力は16万にも及び、我々の2倍以上にあたります」
「まともにぶつかれば敵う相手ではないな・・・長宗我部家あたりを味方につけられれば互角にも持っていけそうだが」
「試みましたが、拒否されております。我らの信仰に対する疑義、そして我らが天下を牛耳る正統性にも欠けるとの回答」
「――フン、日和見主義者め。我らの次は自分たちが飲み込まれる側だと理解していないようだな。
政経、暗殺の手立ては?」
「試してはおりますが・・・敵方の警戒も厳しく、波殿、半蔵殿がおられぬ中ですと、露見されずに確実に事を成すには障害が多く困難が伴います」
「そうか・・・」
不意に出てきた名前に少しだけ動揺を見せつつも、ハサンは口元に手を当てつつ思案する。
「政経は引き続き、突破口を探れ。
三成、大坂はどうなっている」
巴算の呼びかけに、傍らに控えていた石田三成が回答する。
「陥落は間近では御座いましたが、その前に島津軍12万が近づいてきた故、致し方なく撤退を命じております」
「それで良い。引き際こそ肝要だ。しかしもちろん、奴等をそのまま畿内に置いておくわけにはいかぬ。
ありったけの金銀を費やして構わぬ。島津軍を撃退できるだけの兵を集めるのだ」
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巴算の言葉を受け、石田三成は早速、畿内の有力な傭兵団に声を掛ける。その中で特に、雑賀衆と伊賀衆の二勢力が、安価かつ強力な兵を用意し、かつ畿内にも近い位置から招集できるということで選定されることとなった。
これらをすべて合わせ総勢12万。数の上で島津軍を超えることに成功した鯖府軍は、堺へと向かおうとする島津軍の背後に一気に襲い掛かった!
12万対11万。総勢20万を超える大激戦は、「鬼島津」と呼ばれた島津義弘の巧みな軍略によって島津方が何とか持ちこたえようと粘るものの、2万を超える鉄砲兵を主力とする鯖府方が着実に敵兵を血の海に沈めていくこととなる。
最終的には慶長8年(1603年)9月27日、勝敗は決し、多大な犠牲を払いながらも何とか島津軍を敗走させることに成功する。
しかし、これで島津軍を壊滅させたわけでは全くない。むしろ、更なる障害が巴算の前に立ちはだかる――
蟻地獄のような、永遠の闘争の中に身を置き続けざるを得なくなりつつあった鯖府軍だが、そこで転機が訪れることとなる。
「――殿、準備が出来ました」
「此度、弱みを握ったのは、島津義弘の住持にして侍医も務める人物――警戒心の強い奴も、こればかりはその運命を逃れることはできないでしょう」
「――良し。それでは実行せよ。我々『山の民』を敵に回せばどうなるか、奴等に思い知らせてやれ」
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「――当主の急死を受け、島津家は混乱が止まりませぬ。密かに我々が援助していた吉川元長を中心に大勢力による反乱が巻き起こっており、もはや島津は鯖府家との戦争どころではないでしょう」
「――先達ての堺での戦役でも、本願寺軍に対し圧勝を遂げ、幹部級の武将ら数名の捕縛にも成功しております」
「我々の勝利です――殿」
三成の言葉を受け、巴算も安堵の吐息を漏らした。
決して楽な戦いではなかった。一手を間違えれば、あるいは何かに躊躇い行動に遅れが生じれば、あっという間に挽回不可能な局面に陥ったとしてもおかしくはない状況であった。
しかし、ハサンは勝利した。彼のこの世界の運命における、最後にして最大の戦いに。
「神の意志は成し遂げられた。そして、我が使命も――」
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慶長19年(1614年)。
無名の牢人から身を起こした鯖布巴算も、今やその身体を癌で侵され、その生涯の終着点を迎えようとしつつあった。
彼が教え説いた不可思議な信仰は今や畿内全域に広がり、確かな秩序を築き始めていた。それはこの男がかつての世界においては成し遂げられなかった理想の実現に近い姿と言えるだろう。
後継者となる「高満」も、巴算の才能を確かに受け継いだ人物であると同時に、「謙虚で公正」という、平和な時代の指導者に相応しい人徳を兼ね揃えた人物でもあった。
使命は果たされた。かつての世界の死における心残りは全て、この世界において成し遂げられることとなった。
そう確信したハサンは、遥か長き闘争を経て、ようやく「平穏」を見つけることができたのである。例えその罪に対する報いがあろうとも、彼は決して後悔することはないだろう。
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瞼を開けると、その目の前に広がっていたのは見慣れたアラムート城砦の内壁であった。それは見慣れているはずなのに、どこかひどく懐かしい風景のように感じた。
「導師、目覚められましたか」
彼の視界に覗き込むようにして現れたのは、見知った弟子の姿であった。気がつけば横たわる彼の周りに、数多くの弟子が立ち並び、不安気な様子で彼を見つめていた。
「祈りを止めるな」と、彼は告げた。その声は掠れ、風のような微かな響きでしかなかったが、弟子たちはすぐさま祈りを再開した。「フサイン、窓の外の様子はどうだ」
「はい。遠くの山々は未だ雪を戴きつつも、その麓には色とりどりの花が咲き乱れ、風に揺れる姿は完璧な調和を保っております」
「そうか」彼は満足そうに笑みを浮かべる。「私にはそれはもはや見えぬ。しかし、私の目の前には確かに、天国の門が開かれている。息子たちよ、決して、自らの信仰を止めることのないように。この世から対立は、争いは、決してなくならない。我らの敵は常に存在し、我々の前に立ちはだかり続ける。
しかし、決して諦める必要はない。我々は我々の信念と共に戦い続け、自らの信じる道を突き進むのだ。それこそが、自由というものの本質だ。
私は間も無くこの世を去る。しかし、その意志は決して絶えぬ。常に、戦い続ける者の傍に在り続けるであろう」
さらばだ、と彼が告げたのち、彼はその双眸を閉じ、そして全身の力を失った。部屋の中には祈りの声が鳴り響き、立ち並ぶ男たちの表情には悲しみも不安も存在しなかった。
決してありえなかった空想の物語が、今、幕を閉じたのである。
戦国ハサン・サッバーフ
完
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過去のCrusader Kings Ⅲプレイレポート/AARはこちらから
異聞戦国伝(1560-1603):Shogunateプレイ第6弾。1560年桶狭間シナリオを織田信長でプレイし、豊臣秀吉、そしてその次の代に至るShogunateならではの戦国最終盤を描く。
クルキ・タリナ(1066-1194):フィンランドの一部族「クルキ家」の物語。
四国の狗鷲(1568-1602):Shogunateプレイ第5弾。1568年信長上洛シナリオで、のちの四国の大名・長宗我部元親でプレイ。四国の統一、そしてその先にある信長との対決の行方は。
アル=マンスールの一族(1066-1141):後ウマイヤ朝崩壊後、タイファ時代と呼ばれる戦国時代に突入したイベリア半島で、「バダホスのアル=マンスール」と呼ばれた男の末裔たちが半島の統一を目指して戦いを始める。
北条高広の野望β ~上杉謙信を3度裏切った男~北条高広の野望β ~上杉謙信を3度裏切った男~(1567-1585):Shogunate Beta版プレイ。単発。
明智光秀の再演(1572-1609):Shogunateプレイ第4弾。信長包囲網シナリオで、坂本城主・明智光秀でプレイ。その策謀の力でもって信長と共に天下の統一を目指すはずが、想像もしていなかった展開の連続で、運命は大きく変化していく。
江戸城の主(1455-1549):Shogunateプレイ第3弾。「享徳の乱」シナリオで関東の雄者太田道灌を中心とし、室町時代末期から戦国時代中期までを駆け巡る。
正義と勇気の信仰(867-897):アッバース朝末期の中東。台頭するペルシア勢力や暗躍する遊牧民たちとの混乱の狭間に、異質なる「ザイド教団」とその指導者ハサンが、恐るべき大望を秘め動き出す。
織田信雄の逆襲(1582-1627):Shogunateプレイ第2弾。本能寺の変直後、分裂する織田家を纏め上げ、父の果たせなかった野望の実現に向け、「暗愚」と称された織田信雄が立ち上がる。
「きつね」の一族の物語(1066-1226):ドイツ東部シュプレーヴァルトに位置する「きつね」の紋章を特徴とした一族、ルナール家。数多もの悲劇を重ねながら七代に渡りその家名を永遠のものとするまでの大河ストーリー。
平家の末裔 in 南北朝時代(1335-1443):Shogunateプレイ第1弾。南北朝時代の越後国に密かに生き残っていた「平家の末裔」による、その復興のための戦い。
イングランドを継ぐもの(1066-1153):ウィリアム・コンクェスト後のイングランド。復讐を誓うノーサンブリア公の戦いが始まる。
モサラベの王国(867-955):9世紀イベリア半島。キリスト教勢力とイスラーム勢力の狭間に息づいていた「モサラベ」の小国が半島の融和を目指して戦う。
ゾーグバディット朝史(1066-1149):北アフリカのベルベル人遊牧民スタートで、東地中海を支配する大帝国になるまで。