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クルキ・タリナ⑦(最終回) 聡明なるラウリ・下(1178-1194)

 

11世紀初頭、現在のフィンランドの一地域を支配していたクルキ家は、その後、約1世紀にわたりその勢力を次第に拡大させていき、「太祖」ミッコの代にはキリスト教国家のスウェーデンまで征服し、バルト海イタメリを囲む大領域を支配した。

ミッコの子アンリはさらにノルウェー、そしてデンマークの一部をも征服し、自らを皇帝ケイサリとする「スカンディナヴィア帝国」の創設を宣言。

同地域における史上最大の国家を建設するに至ったが、アンリの死後、帝国は20年間で4人の皇帝が入れ替わる混乱時代へと突入することに。

最終的に安定を取り戻したのは、アンリの子で第二代皇帝ヨハネスの弟でもある「聡明なるアルカスラウリ」。

一度はその帝位を甥のウプーランド公子オラヴィに奪われるも、1178年にこれを奪還。

再び帝国の頂点に立ったラウリだが、その直後、仇敵たるデンマーク王に、彼こそが先代皇帝ボルクウァルドを暗殺した犯人であるということを暴露されてしまう。

ラウリはこの行いをもって「残酷帝ユルマ・ケイサリ」と称されるようになるが、しかしその権力はもはやその程度では揺るぎないほどのものとなりつつあった。



クルキ家の支配は、このまま永遠のものとなるのか。

その運命の最終章を、お届けしよう。

 

 

目次

 

Ver.1.12.5(Scythe)

使用DLC

  • The Northern Lords
  • The Royal Court
  • The Fate of Iberia
  • Firends and Foes
  • Tours and Tournaments
  • Wards and Wardens
  • Legacy of Perisia
  • Legends of the Dead

使用MOD

特殊ゲームルール

  • 難易度:Extreme
  • ランダムな凶事の対象:プレイヤー含め誰でも

 

前回はこちらから

suzutamaki.hatenadiary.jp

 

デンマーク戦争

1181年7月。

デンマーク王ヴァレンティンは悩みに悩みぬいていた。

彼にとって、隣国のスカンディナヴィア皇帝アンリは仇敵中の仇敵であった。15年前には彼によって自国の領土を奪われたばかりか、前后アリスさえも奪われるという男にとっては屈辱中の屈辱さえも与えられている。

ヴァレンティンは執念深い。密偵長に命じ、多くのラウリ家臣を買収し、ついにはその「前帝暗殺」の秘密を握り、意気揚々とこれをネタに脅迫をした。

しかし、奴は聞き入れなかった。

腹いせにその悪逆非道なる殺人の秘密を暴露して見せたのだが、奴はそれを全く気にする素振りを見せることなく、逆にヴァレンティン自身が隠してきた母との禁断の関係を暴き立てられてしまった!

もはや、許すわけにはいかぬ。

この生涯を賭けて、スカンディナヴィア皇帝に復讐をせなばならぬし、そのための準備はすでにある程度整ってきている。

あとは、皇帝のもとに人質として奪われている我が息子オラフの身柄だけが気がかりだ。何とかして彼だけでも取り戻すか、あるいは彼の命を犠牲にしてでも――。

と、考えを巡らせていたところで、家臣の一人が喜色を浮かべてヴァレンティンのもとにやってきた。

「陛下、お慶び下さい!」

家臣は昂奮した様子で、王の返答を待つことなく言葉を続ける。

「御子息様が、お戻りになられました! スカンディナヴィア皇帝が、唐突に彼を返還すると決めたようなのです!」

その報告を受け、家臣の表情とは対照的に、ヴァレンティンの顔は真っ青な色を見せた。

「ば、馬鹿者――それが意味するところは、ただ・・・ただ、一つだ!」

 

 

「――では、いくか。愚かなる我が仇敵よ。その挑発の代償を支払ってもらうぞ」

1181年7月31日。

スカンディナヴィア皇帝ラウリは、過去幾度となく争ってはその領土を奪い取り続けてきたデンマーク王国対する新たなる開戦を宣言。

直後にタルムの地で敵軍主力を打ち破り、12月にはその首都ヴィボーを包囲するなど、スカンディナヴィア軍は順調に侵略を進めていった。

だが年明けとほぼ時を同じくし、デンマーク王がイースラント連邦のゴージと手を結んだとの報せが届けられる。

かつて帝国が混乱の時代に陥っていたとき、帝都ルンドを包囲されたこともある憎き相手である。

1182年春。

デンマーク沖にこのイースラント連邦の兵とテンプル騎士団も含めた総勢1万4千名の部隊が姿を現す。

そして6月4日。

ヴィボーの戦いが開幕する。

太陽が東に顔を出してから西に沈むまでの間続いたその激戦は、最終的にはスカンディナヴィア帝国側が勝利。

この戦いでもまた、「巨人ヤッティライネンインゲマル」が圧倒的な戦果を叩きだすなど、類稀なる活躍を見せてくれた。

直後にヴィボーは陥落。

ヴァレンティンはすべてを諦め、降伏を受け入れるに至った。

これで、もはやこの世に生き永らえる意味を喪ったからだろうか。

そのわずか2年後、

この敗北でヴァレンティンはその命を存える意味を喪失してしまったのだろうか。わずか2年後に彼は病気でこの世を去ることとなった。最後にはデンマーク王位さえも失い、哀しい結末であったという。

 

仇敵も滅ぼし、更なる権力確保に成功したラウリ。

その野心はさらなる高まりを見せつつあった。

 

 

最後の戦い

1188年。

先のデンマーク戦争から6年。

その間、スカンディナヴィア帝国は平穏の時を過ごしていた。

オラヴィから取り戻したルンドは再びこの巨大な帝国の首都として輝かしい発展を遂げ始め、対岸に位置し勢力を拡大させているキリスト教国家リトアニアからは人質をもらい受け、互いに平和な関係を築くことに成功している。

かつてウコヌスコの聖地を奪ったエストニア族はリヴォニア族をも呑み込み、隣国のベラルーシ王国とも盟を結ぶなどして更なる強大化を図ろうとしていたが、スカンディナヴィア帝国側もビャルマランド王国との再同盟化と今回のリトアニア王国の「中立化」によりこれを牽制。

混乱の時代を経つつも、再びバルト海イタメリは「帝国の内海」と化しつつあった。

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「――さて、次はいかなる策をお考えですか? 陛下」

宰相の「天才」スヴェルケルが陰湿な笑みを浮かべながらラウリに問いかける。すでにかつての宰相カレリア公も摂政イェムトランド公もこの世から去っており、新たな世代の閣僚たちがラウリを支えていた。

「先達ての巡歴により、再び財政は豊かなものとなっております。ここは家令のポフヤンマー公に任せ、首都の開発や新たな建設の促進など、更なる内政の強化を図るのが適策かと思料しますが」

「いや」

と、ラウリは否定する。その口元には笑みが広がっており、スヴェルケルはこの主君がまた、良からぬことを考えついたのだろうと期待を広げる。

「重装騎兵の購入を進めよ。およそ200体ほど」

「ほう――確かにそれらは単体では強力ではあるものの、我らが主戦場とするバルト海イタメリ周辺の地では森も多く、彼らが活躍できる機会は多くありません。また馬は寒さにも弱く、その意味でも力を発揮することは難しいでしょう」

スヴェルケルは形式通りの反対意見を述べる。だが、彼にはすでに主君が何を考えているのかの見当はついていた。

「ああ。今まで通りバルト海周辺のみを戦場とするならば、不要であろう。だが、次に我々が狙うのは、南だ。

 すなわち――神聖ローマ帝国フハ・ケイサリクンタ

それは、あまりにも非合理な選択であると、スヴェルケルは理解していた。

一方で、それを為し得るにも関わらず為さぬことへの不合理をこそ、この主君が嫌うことも。

この男は愉しんでいるのだ。ずっと。

自らの手中にある駒を元手に、どこまで進めるのかという戦いチェスゲームを、常に、ずっと。

で、あれば、忠実なる臣下にできることは唯一つ。

主君のその夢を叶えるために、尽力すること。

例えその先に、どんな結末が待っていようとも――。

 

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1188年10月2日。

スカンディナヴィア帝国皇帝ラウリは、突如として神聖ローマ帝国皇帝コンラート3世に対して宣戦布告。

このときコンラートはフランスやイギリスなどと共にイスパニアのイスラーム軍との大聖戦に身を投じていた他、足元ではブルグント王国とサルデーニャ・エ・コルシカ王国からの攻撃に見舞われるなど、苦境に立たされていた。

戦力は2万vs2万の互角。

しかし二つの戦争に兵力を奪われている神聖帝国軍の反撃はほぼなく、スカンディナヴィア帝国軍は一気に北ドイツ各都市の包囲占領を進めていく。

そして1191年春。

開戦からすでに3年近くが経過し、スカンディナヴィア帝国軍は順調にその支配圏を広げていく。

そしてついに現れる、神聖帝国軍。

これを率いるのは、チュートン騎士団の総長にして稀代の戦術家「仮面のマッシミリアーノ」。

ヴェルペの街を陥落させたコッリ・クノッペ率いる第3軍は、突如として現れたこの襲撃から逃れようと試みるも、叶わずに壊滅寸前にまで追いやられる。

だがもちろん、そうはさせない。スカンディナヴィア帝国軍は同盟国たちと共にただちに全軍このヴェルペの街に集結し、神聖帝国軍を撃退するべく逆包囲していく。

あらゆる劣勢も優勢に。

それはラウリという男のこれまでの生きざま、そのものであった。

 

だがその過程で流れる血のことを、「残酷帝ユルマ・ケイサリ」は決して気にしない。

そして、そこを憂うる者たちの思いも――。

 

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「いよいよ、我々が立ち上がるべき時がきた」

一同を見渡し、声を張り上げたのは、ラウリの閣僚の一人であったはずのポフヤンマー女公。

「これは叛逆にあらず。これは不忠にあらず。唯々、この『帝国』の行く末を憂うるが為」

ポフヤンマー女公の言葉に、一同は頷く。そこには、クルキ家と共に、その覇道を歩んできた歴々の名家たちが揃っていた。

「この長きに渡る戦争を終わらせ、そして諸民族が再びそれぞれの生き方を選べる体制へと引き戻す。
 その為に――我々は、この『帝国』を破壊する」

その報せを受け取ったラウリは、実に愉しそうに笑った。
「――それでこそだ。どうか俺を愉しませてくれよ」

 

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余裕に満ちた様子のラウリとは対照的に、将兵たちはそうはいかない。

ただでさえ異国の地で何年間も戦場に立たされている上に、母国で反乱が巻き起こったとなっては、徴兵された兵卒たちも皆すぐにでも反乱を起こしかねない雰囲気に満ち、これを抑える将軍たちもまた、目の前の神聖帝国との戦いに集中できる状態ではなかった。

それゆえか、先のヴェルペの戦いで一度敗北した神聖帝国軍が立て直し、ハノーファーにて再戦を挑んできた際は、完全に不意を突かれる形で大敗北を喫してしまう。

これ以上、神聖帝国との戦いを継続していても、益はない。

ラウリは皇帝との白紙和平を決断し、1191年11月21日にそれは結ばれる。

ラウリはすぐさま全軍をスカンディナヴィアに向けて反転。

まずは帝都に近い位置にあるシェラン島の反乱軍たちを制圧していく。

その間に更なる反乱が発生。亡きカレリア公の息子が、グラシングスラグ公やヴィンゲルマルク伯ら8諸侯を味方につけ、劣勢の皇帝から権利を奪い取ろうと兵を挙げる。

だがこの追加の反乱軍は必ずしもラウリにとっての不利とはならなかった。

特にフィンランド北部地域では、せっかくポフヤンマー公らが落とした都市をカレリア公たちが落とし返すなど、互いに足を引っ張り合うような姿も見られることに。

カレリア公らとしては皇帝から権利を奪い取ることを目的としつつも、帝国自体が崩壊することまでは望まないというのが本音であった。

ポフヤンマー女公側の都市アッケルを包囲するカレリア公。

 

その隙に皇帝軍は、同盟国軍の力を借りながら両者の諸州を着実に攻略していく。

1194年春時点では、追い詰められるどころかむしろ押しているような状況。

時間はかかれど、この調子なら最終的には勝利を掴むことができる――そう、思っていた。

 

 

しかし、1194年7月8日。

更なる反乱が巻き起こる。

今度は、クルキ=イェヴレ家の末裔のスウェーデン王が主導し、かつて敗北せしウプーランド公オラヴィを再び皇帝に復位させるための反乱を引き起こしたのである。

もはや、帝国の全域で反乱の火の手が上がる状況に。

その過程でオウルが陥落し、息子を含めた重要な親族たちの身柄も拘束される。

これでポフヤンマー女公に対して一度は作れていた優勢も逆転し、戦いは振り出しより前に戻る事態となってしまう。

そして大量にあった資金も、1188年から続く戦争の連続に耐え兼ね、限界が見えつつある。

このまま続けていても、例え最後に勝ったとしても、残るものは何もないだろう。

 

「――俺の敗けチェックメイト、だな」

ラウリは決断し、そして傍らのスヴェルケルに伝えた。

1194年11月4日。スカンディナヴィア帝国はポフヤンマー女公の要求通り、解体されることが決定した。

 

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「さて」

と、ラウリは呟き、出立の準備を整える。その傍らには息子のペトリの姿があった。

「御父上、本当に行くのですか?」

不安気に父を見やるペトリに、ラウリはいつもの何も気にしていないような気軽さで応える。
「ああ――私はもう、何者でもない。すべてを手に入れ、そしてすべてを喪った。結果として随分と小さくなった我が領国を息子に押し付けて、私は『名無しのアノニミ』ラウリとして、この国を歩き回ってみようと思うよ」

それは、贖罪ですか?と問おうとして、ペトリは止める。

この父が、そのような殊勝なことを考えるはずもない。単純に、彼はそれが『やりたい』からやるのだ。

その息子の思いを読み取ったかのように、ラウリは不敵な笑みを浮かべる。

「フィンランドの森は、子供の頃からずっと見続けてきた。とくに雪の森の記憶は豊かでそこには、すべてを飲み込むほどの静寂さと、孤独とに満ち溢れている。

 当時は書物の中にだけしかなかった無限の海も、果てのない平原も、この両眼にいやというほど焼き付けてきたが、その上で、私はまだこの森の果てを見尽くしてはいなかったと気が付いた。

 それは我々の信仰が生まれた場所であり、そしてやがて還るべき場所でもある。我々も、ウコヌスコの信仰も、スカンディナヴィアという夢も、そしてクルキという一族の歴史も皆――この寂寂たる森の中へ、とな。私はその下見にでもちょっと、行ってくるよ」

 

そんな気軽な言葉を残して、クルキ家の最後の英雄、ラウリ・クルキはフィンランドの美しき森の奥へと消えていった。

 

その後、彼の姿を見たものは誰一人としていなかったという。

 

 

 

そして、クルキの一族もまた、同様に森の奥へと消えていったかのように、やがて歴史の表舞台からは姿を消していく。

 

帝国の消滅によってラウルの子どもたちに分け与えられる形で分割したスカンディナヴィア地域の諸王国だったが、その後内乱などを経て、次第にその所有権が変遷していく。

スウェーデン王ヴォイットの末裔であるクルキ=イェヴレ家が勢力を拡大し、一時はフィンランドやノヴゴロド、そしてポメラニアの地まで支配する拡張を見せたこともあったが、13世紀半ば、その勢力拡大に危機感を抱いたときの教皇クレメンス3世の主導によって「デンマーク王国のための十字軍」が巻き起こることに。

総勢12万の大軍に押し込まれ、6年に及ぶ抵抗虚しくウコヌスコ同盟は敗北。

その後、モンゴル帝国の拡張によってノヴゴロドを奪われたほか、終末的なチフスの流行により一族の者が次々と死に絶える。

スウェーデン国内でも政変が発生しクルキ=イェヴレ家は追放されたことにより、クルキ家は再びフィンランドに押し込められるような形で衰退することとなった。

 

 

やがてそれも、時の流れの中で、暗く深い森の中へと消えていくことになる。

ウコヌスコの信仰と共に、このバルト海イタメリの地にかつてそのような一族による大帝国が築かれていたことは、忘れ去られていったのである。

 

それでも、私はここに記す。

かつて確かに存在した、偉大なる一族と帝国の歴史を。

 

フィンランドの偉大なる英雄の残した確かな物語を。

 

――歴史家、ハンヌ・コルホネン。

 

 

 

クルキ・タリナ  完

 

 

 

 

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