11世紀後半、フィンランド族をバルト海を囲む巨大国家へと成長させた太祖ミッコ・クルキは、1107年に唐突にこの世を去った。
ミッコが築いた巨大王国は、ミッコの長男のアンリ、次男のヴォイット、そして三男のクーティによって三分割されるが、直後の長い内乱に悩まされることとなったアンリは、再び一人の王の下にこの三王国を束ねる必要性を実感していた。
まずはクーティの治めるサプミ王国について、その家臣と共謀し、内乱を起こさせてこれを簒奪。
続いてヴォイットについても、非情なる暗殺という手段をもってこれを排除。
若きその息子リクが継承したスウェーデン王国を、1124年に侵攻し、獲得する。
その直前には、亡き父が果たせなかったノルウェーの征服も実現し、バルト海を囲む四王国すべてを傘下に収める大帝国を築き上げたのである。
これらの功績をもって、アンリはついに宣言した。
バルト海世界全域を支配する巨大なる帝国、「スカンディナヴィア帝国」を創設することを。
そして、彼はその初代皇帝として、君臨するに至った。
あらゆる犠牲を厭わず、バルト海世界に空前絶後の大帝国を築き上げた皇帝アンリ。
しかしその栄光はやがて来る、大いなる混沌の時代の序章でしかなかったのかもしれない。
目次
Ver.1.12.5(Scythe)
使用DLC
- The Northern Lords
- The Royal Court
- The Fate of Iberia
- Firends and Foes
- Tours and Tournaments
- Wards and Wardens
- Legacy of Perisia
- Legends of the Dead
使用MOD
- Japanese Language Mod
- Historical Figure Japanese
- Nameplates
- Big Battle View
- Invisible Opinion(Japanese version)
- Personage
- Dynamic and Improved Title Name
- Dynamic and Improved Nickname
- Hard Difficulties
特殊ゲームルール
- 難易度:Extreme
- ランダムな凶事の対象:プレイヤー含め誰でも
前回はこちらから
皇帝として
1129年冬。
神聖ローマ帝国帝都クリンゲンベルク。
この地で皇帝コンラート2世は、彼が最も信頼する宰相たるランベルト司教からの報告を受け取っていた。
「――かくして、スウェーデン王国とノルウェー王国は滅ぼされ、異教徒たちによる巨大王国が築かれました」
「その王たるアンリという名の男は、自らをケイサリと名乗っております。これは明らかに皇帝を意識したものでしょう。我々に対する挑発とも見做せる、畏れ多いことです」
「――かと言って、これを打ち倒せる手立てがあるわけでもないのだろう?」
コンラートの言葉に、ランベルト司教は神妙な面持ちで頷く。
「仰る通りです。奴らは帝国辺境に住まう別の異教徒であるルティチ族とも手を結び、厄介な軍事力を有しております」
「事実、彼らによってデンマーク王国も攻撃を受け、スコーネ地方及びその首都のあったシェラン島を奪われております」
「このデンマーク戦争ではテンプル騎士団も動員されましたが、敵いませんでした。フィンヴェデーンの森で行われた会戦では、数的優位を保っていたデンマーク軍が、2倍以上の損害を出して大敗北を喫しているほどに」
「今や、この北の海の異教徒たちの軍に敵う存在は、キリスト教世界には存在しえないのかもしれません」
「フン・・・」
コンラートは鼻を鳴らす。
「図体ばかりがでかい帝国など、やがて内部から崩れ落ちることになるだろう。内側に強い存在が保たれている間は何とかなったとしても、それが先に腐り落ちてしまったあとは、な。
我々も、他国に構っている場合ではない。直接的な悪影響が及ぶまでは、捨て置く他あるまい」
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スカンディナヴィア半島の先端に位置する、半島の名の由来にもなったと言われるスコーネ地方。その中心に位置するルンドは、帝国の新たなる首都として王宮が移され、多くの市場が立ち並ぶバルト海最大の都となりつつあった。
もちろん、平地の城であり、沿岸にも近く、防衛には実に不向きなところである。しかしそれでもここに遷都することを決めたことは、帝国が今後、これ以上の拡張にではなく、この地を基点とした広域バルト海貿易による平和的な発展を目指していることの宣言でもあった。
「接収したスウェーデン王国の資料精査が完了しました」
アンリのもとに、宰相のカラショーカ伯がやってきて報告を行う。
「ヴォイット様は宮廷の言語としてノルド語を採用し、積極的にキリスト教徒たちの持つ先進技術を取り入れようとしていたようです」
「ノルド語を使える優秀な官僚の下、実に整理された各種の技術がフィン語に翻訳され、分析されていました」
「さすがだな、我が弟は」
カラショーカ伯の報告に、アンリも満足気に呟く。
「この最先端の技術をもとに、我々フィン人の文化は更なる発展を遂げることでしょう。もはや、未開の部族のそれではなく、新しい時代を作り上げる新たな文化ーースカンディナヴィア文化として」
「一方、国内には不穏な動きもあります」
神妙な顔つきでカラショーカ伯は告げる。
「陛下の後継者の件で、諸侯らが異論を唱えているようです」
「ああ・・・中心にいるのは、カレリア公だろう?」
アンリの言葉に、カラショーカ伯は頷く。
アンリには正妻のピヒラとの間に6人の子どもが儲けられていたが、いずれも女子ばかりであり、何かしらの呪いにでも罹っているのではないかとさえ噂されていた。
そんな中、彼が側室にしていたギリシャ人、エウスタシアとの間に、1122年に待望の男子が産まれることに。当然、アンリはこれをすぐさま後継者として指名することとなる。
これを面白く思わないのは、ピヒラの弟である現カレリア公のトゥオッコ。かつてクルキ家に仕え、多大な貢献をしてきたアートス・アントネンの子だけに、アンリの選択は彼にとっては裏切りのように思えたのである。
「少し面倒なのは」
と、カラショーカ伯は周りを窺いつつ声を顰めて告げる。
「カレリア公が、ヨハネス様の出生の秘密を何やら掴んでいるようだということ」
「ああーー」
アンリは嘆息する。
実は、ヨハネスはアンリの子ではなかった。彼を産んだ側室のエウスタシアは、密かにアンリの弟であるヴォイットと関係を持っており、ヨハネスもまた、彼の子であることが明らかになっていたのだ。
しかし、アンリは特に気にしていなかった。むしろ、自らが愛し、そしてその手にかけざるを得なかった弟の子であるという事実が、アンリのヨハネスに対する思いをより一層強めることとなったのである。もしも、エウスタシアがアンリとの間に男子を産んでいたとしても、もしかしたら彼はヨハネスを後継者に指名していたかもしれない。
もちろん、そんなことを表立って言うわけにはいかない。
「そんなものは根も葉もない噂であると伝えよ。それに、エウスタシアはギリシャのブルガリア王の血を継ぐ由緒正しき家柄だ。それに文句を言うつもりであれば、ピヒラもろとも、フィンランドの地を引き剥がしてしまうぞ、と脅しをかけろ」
威圧的に告げたアンリの様子にアラショーカ伯は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに気を取り直してそそくさとその場を辞した。
ふう、とため息を吐いて、アンリは玉座に体重を預けた。
亡き父の遺志を継ぎ、帝国の創建には成功した。
新たな都を整備し、バルト海交易の発展も順調に進んでいる。
しかし、まだ足りない。
まだ、偉大なる父の後継者として、彼は成すべきことが遥かに多く残っていると感じていた。
彼は玉座から立ち上がる。
そして、何かに急かされるようにして、無表情のまま扉へと向かって歩いていった。
そこにはもう、アンリという一人の人間の意思など存在しないかのように。
伝説の主
先のデンマークとの勝利に象徴されるように、今やこのスカンディナヴィア帝国の外に敵はいなかった。ビャルミア族との同盟関係も継続しており、周囲の諸国家諸部族も、帝国とは争いではなく交易によって和を結ぶことのメリットを感じさせられていた。
問題は国内であった。先の後継者問題に関する諸侯らの不満は何とか抑え込めているものの、主にノルウェー地域を中心に、カトリックの残党が常に独立の動きを見せようと蠢いている。
これらを都度、踏み潰すことは造作もない。しかし何度叩いても懲りずに出てくるのを放置するのも面倒である。
よって、アンリは祭祀長のアクセリに命じ、「ウッコの擁護者」たる父ミッコを主人公とした「伝説」の作成を開始した。
美しき歌声を持つエウスタシアに、かつて敬虔な正教徒であった彼女がいかにしてウッコの信仰に目覚め、幸福に満ちた生を送っているのかを歌わせる。
首都ルンドで盛大な饗宴を開き、そこでもまた、客人たちに伝説を伝え、その伝道者として故国で広めさせることもした。
さらに同じくルンドにて、盛大な競技大会を開催。帝国内のみならず、リヴォニアやエストニアなど、隣接する諸外国からも賓客を招き入れ、新たに伝説を広めていく機会を得る。
さらに気まぐれで参加した独唱競技ではまさかの優勝を成し遂げることに。
このことは彼の伝説の拡大に更なる貢献をもたらし、ヴェレティアやリュティツィアの諸侯たちもまた、母国にてこの異教徒の伝説を積極的に広め始めたのである。
これらの努力を経て、ついに1138年に「伝説」が完成。
この伝説をもとに、アンリはウコヌスコの信仰の帝国全土への伝播を成功させる。
帝国は、今や揺るぎない安定と平和の時代を迎えようとしていた。
かのように、思われていたのだが。
1138年末から翌1139年春にかけて、バルト海を挟んでルンドの対岸に位置するヴェレティア公国から広がり始めた結核が、ルンド周辺の帝国中心部にて大々的に広がり始めた。
アンリ、そして後継者ヨハネスは罹りはしたものの後に回復を果たすも、ヨハネスの母エウスタシア、そしてアンリの正妻でカレリア公の姉にあたるピヒラが次々と命を落とす。
アンリはこれらの悲劇を特に気に留めることはなかった。
しかしピヒラがようやく産んでいた男子アズルも同様に喪われたことに、側近たちは不安を覚えていた。
「陛下。さすがに男子の後継者候補がヨハネス様のみというのは、些か不安があります。万が一のために、新たな妻を娶り、子を儲ける必要もあるかと」
宰相のカラショーカ伯の言葉に、アンリはあまり関心がなさそうに答える。
「分かった。そうしたら適当な女を見繕っておけ。そうだな、できれば身分よりもその才能において優れた者を用意せよ」
主君のそのリクエストに応える形で用意されたのは、ソグン伯に仕えていたカトリックの平民、ソーラ。
ウコヌスコの信仰を強烈に広めた身でありながら彼女がキリスト教徒であるということには特に抵抗はなさそうで、むしろその聡明で機知に富んだソーラとのやり取りをアンリはすっかりと気に入り、彼女との結婚を即座に決めた。
だが、異教徒のしかも平民との結婚を選んだアンリに対し、民衆からの反応は冷ややかであった。これは彼の、正当なるウコヌスコ信仰の帝国の主としての威厳を失わせる結果にも繋がったのである。
繁栄を築きし偉大なる皇帝。
しかし人々の間にはやがて、不穏な唄が流行ることになる。
皇帝アンリは寛容なるお方
異教徒も卑しい身分も皆許される
きっと、その、忌まわしき弟殺しの罪さえも
皇帝アンリの治世は、少しずつその歯車を乱し始める。
解放の時
1140年2月。
アンリは弟クーティの危篤の報せを受け、彼の居城であるクンガヘッラへと駆けつけた。
かつてサプミ王であった彼はその後アンリにこれを奪われたものの、改めてアンリからいくつかの土地を与えられていたのである。
「クーティ、無事か」
寝室に通されたアンリを、クーティが出迎える。しかしその表情には兄を嫌悪するような皺が深く刻み込まれていた。
「・・・兄上、随分と心配そうな表情ですね。私が間も無くトゥオネラに旅立つと聞いて、内心ではほくそ笑んでいるでしょうに」
「ーー何を言っている?」
思いがけぬ弟の言葉に、アンリは眉を寄せる。
「白々しいことを。我が兄ヴォイットを殺し、スウェーデン王位を奪った所業は、もはや隠し立てのできぬ事実なのですよ」
アンリは沈黙する。いつもならそれは違う、と薄ら笑いを浮かべながら否定するところを、弟の痛々しい眼差しを前にして凍りついたように顔が動かない。
「皇帝が、帝国が、何だと言うのだ・・・我々はそれぞれの王国で、それぞれの民のために、ただ良き政をするだけで良かったのに・・・」
咳き込むクーティ。アンリは手を伸ばすが、クーティはこれを払い除けた。
「欲深き兄よ。その信ずる処を迷わず行くと良い。だが、その果てには決して、望むべき終焉はないぞーー」
その数日後、元サプミ王クーティは、安らかな面持ちでトゥオネラへと旅立った。
一方でクンガヘッラから帰ってきて以来のアンリの表情は終始暗く、側近たちも彼の癇癪を恐れ、声をかけることさえ出来ずにいた。
定例の平民たちによる謁見は平常通り行われたものの、嘆願に来た農民を前にして恐ろしいことを口走るようなことさえあったという。
元々「悪魔つき」の気があり、衝動的な怒りを発することも多かった彼のその症状はさらに酷くなり、人びとは彼に悪霊が取り憑いたのではないかと噂するほどであった。
このような状況が続けば、国内も自然と不安定になる。
もはや公然の秘密にさえなっている、アンリ王による弟のスウェーデン王ヴォイットの暗殺。
これを非難し、ヴォイットの遺児でありアンリ王に王位を奪われた悲しきリク王を擁立する反乱も巻き起こることに。
総勢1万人近い反乱軍の兵が半島全土に沸き起こるも、アンリはすぐさま妹を嫁がせて同盟を結んでいるビャルマランドの王サラクとヴェレティア公に援軍を要請。
こちらは総勢1万5千を超える兵数でもって、反乱軍を返り討ちにすべく体制を整えた。
この反乱は、アンリ王の敵ではなかった。
彼はすぐさま反乱軍たちを各個撃破し、勝利を重ねていった。
1145年10月28日に反乱は鎮圧され、首謀者たちは皆牢に送られ、その所領を剥奪されたという。
しかし一息つく暇もない。国内にはすでに、さらなる反乱の兆しさえ出てきていた。
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「――これが」
玉座に身を預けるアンリは、誰もいない広間の中で、誰に届くこともない声を吐き出す。
「これが、夢の見果てる先か」
その口元には自嘲気の笑みを浮かべ、その目はどこか遠いところを眺めるかのように揺らめいていた。
「父の後を追い、これを追い越すことが、クルキの名を受け継いだ俺の使命だと思っていた。しかし、一体それを、誰が望んでいると言うのだ?
民も臣下も望んではいない。兄弟でさえも望んでいない。そして――この俺でさえも」
アンリの懊悩は、数か月前に引き起こされた皇妃ソーラと娘ロヴィーサが同時に凶刃に斃れるという事件によって、頂点に達していた。
もはや、彼に望みなどなかった。
世界のすべてが、彼の敵であるかのように感じていた。
彼は心を閉ざし、そしてふとした瞬間にそれを、恐るべき暴力として他者へ解放するようになった。
その「事件」の数日後、彼は突然の発作に見舞われ、絶叫と共に冥界へと旅立った。
彼の最期の言葉は「ようやく解放された!」と言うものだったという。
それはその場にいたあらゆる家臣たちの心の叫びでもあった。
皇帝アンリ、享年60。その統治は40年弱に及び、人々は最初期こそ彼を「寛容なるアンリ」と呼んだ。しかし晩年は寛容とは程遠い、憤怒と狂気に見舞われた生涯であった。
そして帝国は、「危機の時代」を迎えることになる。
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