リストリー・ノーツ

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クルキ・タリナ② 噓つきミッコ・下(1087-1107)

 

現在のフィンランド、スウェーデン、ノルウェーとデンマークの一部にまたがるバルト海沿岸地域に、かつて巨大な帝国が存在していた。

土着の信仰をベースとした統一の宗教体制と、フィン語を中心とした複数の言語によって統治された大帝国。

これを成り立たせていたのがクルキという名の一族。

特にその史実において実在が確実視されている二人目の人物、ミッコ・クルキこそが、大帝国の礎を築いた人物であった。

 

今回はそんな太祖ミッコの、人生における後半生を物語っていく。

果たして彼はどのようにして、かの巨大なる帝国を築き上げたのか。その先に待ち受ける、運命とは――。

 

目次

 

Ver.1.12.5(Scythe)

使用DLC

  • The Northern Lords
  • The Royal Court
  • The Fate of Iberia
  • Firends and Foes
  • Tours and Tournaments
  • Wards and Wardens
  • Legacy of Perisia
  • Legends of the Dead

使用MOD

特殊ゲームルール

  • 難易度:Extreme
  • ランダムな凶事の対象:プレイヤー含め誰でも

 

前回はこちらから

suzutamaki.hatenadiary.jp

 

外交劇

初代フィンランド王ミッコは、幼い頃に父の外交的理由により、今は臣下となっているオウル族長カレヴァの娘・タルヴィッキと1080年に結婚している。

しかしミッコはとある理由によって彼女と夜を過ごすことに積極的ではなく、とはいえ一族の継承のために、と思って事を成してはいたものの、なかなか結果に恵まれることはなかった。

1083年の冬には待望の第一子。しかしこれは女子であり、1087年の2月になってようやく最初の男子を産むこととなった。

だが、タルヴィッキの父の名を取ってカレヴァと名付けられたその子には生まれて間もなく、異常が見つかる。

結局、彼は1年も保つことはなかった。その年の暮れ、タルヴィッキとその周辺の賢明な祈りも空しく、彼は一人先にトゥオネラに旅立ってしまったのである。

この事実が決定的となり、ミッコの妻タルヴィッキに対する態度はより一層冷たいものとなった。

代わりに側室のトゥアリエが産んだ男子を自身の後継者であると指名し、その子に自身の父と同じ――すなわちクルキ家の始祖たる存在であるアンリの名を与えた。

元はと言えば征服した部族の長の妻であったのを無理やり側室にしたのがこのトゥアリエであり、やはりミッコにとっては一族を遺すためだけに必要な存在として決して愛が向けられていなかったのは同じ。

どちらかと言えばその愛が向けられていたのは、彼がその武勇に惚れ込んで自身の護衛かつ「叙勲騎士」に任命した屈強なるカレヴィ・シュダンマー

盟友サタヤルカ亡き後、その心の隙間を埋めるかの如く、ミッコは常に彼と共に居り、誰よりも多くの時間を過ごしていたという。

 

 

もう一人、ミッコが依存した人物がいる。

愛の行く先がカレヴィだとすれば、信頼の行く先は、この男であった。

アートス・アントネン。外交・軍事・財政すべてにおいて高い水準を持つ万能人であり、その実力は誰もが認めるものであったが、サタヤルカ亡き後はより一層ミッコの決定の全てにその影が関わるようになりつつあった。

「――さて、次なる目標である聖地ヒーウマーを擁するリヴォニア族ですが」

「恐るべきことに、南方の大平原地帯を支配する巨大帝国クマンの王の娘と婚姻し、同盟を結んでいるようです」

アートスの言葉に、陣営内で誰もが恐れ戦いた声を挙げる。その中でアートスと主君ミッコのみが冷静な表情を浮かべていた。

「当然、我々単独のみで立ち向かうにはあまりにも強大な相手です。すでに同盟を結んでいるヴォログダ族がいても不足するでしょう。同盟を増やしていく必要があります」

「その通りだな。しかし、どうやって?」

ミッコの疑問に、アートスはすぐさま答える。

「ちょうど、ビャルミア族の族長サラクの家臣の結婚式が、ビャルミアの地で開かれており、その招待状が我々のもとにも届いております」

「ここには周辺の有力な部族の長たちも集まってきているということで、リヴォニア攻略における同盟相手を見つけるにはもってこいの外交舞台となるでしょう」

「――成程な」

ミッコは納得し、すぐさま出立の準備を家臣たちに指示する。

かくして、1089年末、外交を主目的とした結婚式へと参加したミッコ。その最初の標的を、フィンランド北東部、コラ半島に位置するグオラダト族の長ニョーラに定めた。

「私は夜も眠れないんだ。あらゆる影の中に、敵が見えるような気がしてね」

何気なくそうニョーラが口にした次の瞬間、ミッコは目を鋭く細め、威圧的な響きで彼に告げた。

「誰かがそれを利用したとしたら、残念ですね?」

すでにグオラダト族は、フィンランドがギェマヨフカ族を一瞬にして滅ぼした事実を目の当たりにしており、次は自分たちの番だという恐れから、自ら人質を差し出すようなことさえしていた。

そんな中で告げられたミッコの言葉は、ニョーラに自らの立場を再確認させるのには十分すぎる効果を発揮した。

「――改めて、我々の団結を力強いものにしましょう。そして、共に大いなる脅威へと共同して立ち向かうのです」

当然ニョーラに拒否権などなかった。

こうしてまずは一つ目の「外交」を成功裡に収めたミッコは、次なる手へと進めていく。

次なる標的は主催者の主君たるビャルミア大族長サラク。総兵力2,000弱の彼の軍勢もまた、クマンとの戦いにおいては重要なピースとなるだろう。

とは言え、共通点は正直少ない相手。まずは、その材料となるものを集めるべく、部屋の向こうで良い感じに酔っぱらって上機嫌になっている彼の妻カットの姿を見つけ出した。

カットとの会話で糸口を見つけたミッコは、すぐさま部屋の中央で多くの家臣たちに囲まれて大酒を口にしているサラクに近づいて、声を掛けた。

この地域には珍しく、武力ではなく策謀によって多くのライバルたちを蹴落とし、現在の地位を手に入れることに成功していた「残酷なる」サラク。

そしてミッコもまた、幼い頃から嘘と陰謀の狭間に塗れてきており、その経歴と素質が醸し出す後ろ昏い雰囲気を、サラクもまた感じ取ったようだ。

彼はミッコのことを(これまでそういう対象が一人たりとて存在しなかった彼にとって初めての)心から信頼できる存在であると認識したようだ。運命を共にする同盟相手として、何の抵抗もなくそれを受け入れることとなった。

これで2つ目の同盟が完成した。

そして元々存在した3つ目の同盟をより強固なものとすべく、ヴォログダ族長パウリとも多くの時間を共有し、友情を深めることとなった。

そして1090年夏。

いよいよ、全ての準備は整った。

平原の帝国の王を擁する敵同盟との、サーミ戦争を超える規模の正面衝突を成し遂げることとなるのである。

 

 

ウッコの擁護者

戦いの最初の一年は、何事もなくフィンランド連合側がその支配領域を広げるに至った。

元よりリヴォニア族は開戦の一年前から内乱に陥っていた。先達ての競技大会を主催した屈強なるヴィハヴァルドが、その所領を剥奪させられそうになったことに反抗し、蜂起していたのである。

最終的にヴィハヴァルドは敗北し、処刑されてもいるが、このことにより、リヴォニア族の軍事力は大幅に減衰。

この直後にフィンランド軍に攻め込まれたとき、彼らは疲弊しきっており、クマンの兵らが到着するまでは抵抗などできるはずもない状況であった。

しかし開戦からおよそ1年。1091年の7月に、いよいよその騎馬軍団の姿が、フィンランド軍のすぐ近くにまでやったきたことが報告された。

「敵の総数は6,000超。本来であれば恐るべき相手ではあるものの、今回は色々と事情が異なる」

部隊長たちを集めた作戦会議で、元帥マルサルカユヴベンは一同に告げる。

「まず奴らは、長い遠征の結果、随分と疲弊している。本来であれば支払われるべき報酬も、主君自体無理が祟って困窮しているようで支払われておらず、士気は低い」

「そして我らはこの森の中のリガの地で奴らを迎え撃つこととなる。奴らの最も脅威となる弓騎兵はここでは役に立たず、逆に我々の精鋭たる弓兵たちが、愚かなる侵略者たちを恐怖に陥れることとなるだろう*1

「恐るる必要はない。全部隊、その死力を尽くし、フィンランドスオミ軍の強さを世界に轟かすのだ」

 

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1091年7月22日。リヴォニア大族長国首都のリガが位置するメッツェポーレにて、北の森の守護者フィンランド及びその同盟国たちの軍と、南の平原の覇者クマンの激突が開始される。

最初、数的劣勢に陥っていたユヴベン率いる先発隊も、森を得意とするフィンランド弓兵たちによるゲリラ戦術によって敵を翻弄。

平原地帯では無敵の様相を見せるクマンの弓騎兵たちも、成す術もなくその数を減らしていく一方であった。

そうこうしているうちに、フィンランド軍の同盟国たちの兵も少しずつ集結してくる。

兵力差においてもその差は覆り始め、やがて戦闘開始から1ヶ月が経つ頃には、敵軍は完全に劣勢へと追い込まれつつあった。

そして8月27日。ついにこのメッツェポーレの戦いは終結。敵指揮官であるグザク・キスクンサグもフィンランド軍によって囚われの身となる。

頼みの綱としていたクマン人戦士たちが大敗を喫したことで、リヴォニア大族長カレヴも抵抗の意思を削がれる。

1091年9月23日。彼は悔しさに顔を歪めながら敗北を認め、彼らの持つ聖地ヒースマーとその周辺の領地をフィンランド王国へ割譲することを認めたのである。

 

だが、その獲得した領地を巡り、この後、少しばかり混乱が生じた。

発端は、獲得した聖地の管理を、ミッコがアートスに任せたことである。

これを受けて納得できないのが、今回のメッツェポーレの戦いにおいても武功第一に輝いていた巨人アイモである。かつてその武勇を認められシュスマの領地を与えられていたが、それ以上の拡大がない中、今回ばかりはきっと加増を期待できると思い込んでいたのに、それが叶わなかった。ばかりか、宮廷でぬくぬくと過ごしていた文官風情に、その権利をすべて奪われたのである。

ミッコからしてみれば、より財政管理に長け、土地を富ませる才があるアートスに多くの土地を与えることは、統治者としての理に適ってはいることであった。

アートスは「建築家」の特性を持っている他、「建築者」としての性格も併せ持っている。これは、より積極的に建造物を建設し、所領を開発しようとする特性であり、この性格を持つ内政屋に領地を持たせることで、国力は必然的に高まることとなるだろう。

 

しかし、統治者の理など、余人からしてみれば関係ない。その采配は、サタヤルカ死後このアートスという新参者がすべてを奪ってしまいかねないという妬みと疑いとを呼び起こすには十分すぎるものであった。

そして実際にアートス自身も、意図的にミッコを誘導し、権益を拡大させたのは間違いないことであった。今回得たヴィープリクレサーレの二都市は、バルト海イタメリ東部フィンランド湾スオメンラフティにおける、入口と出口を担う重要拠点であったのだから。

ゆえに、アイモが主君に疑いをかけており、そしてやがてそれは謀反に発展しかねないという噂が、真実はどうあれ十分な信憑性をもってミッコの耳に届いたとして、何らおかしくはなかった。

その後、ミッコがこれをどう考え、そしてアートスと共に何を話し合ったかは、一切の記録に残ってはいない。

ただ事実としてあるのは、翌年6月24日の夜、シュスマにあるアイモの居住地に火がかけられ、朝になったときにはそこに横たわる黒焦げの巨体が発見されたということだけだ。

 

しかしそれでも、神は見ているのだろうか。

かつて、パーヴォがその命を落としたときと同様、疫病という名の呪いが、ミッコとその家族を襲ったのである。

 

1093年3月。

それは二度目となるペルミへの巡礼からの帰り道。その途上にて、広く「赤痢」の症状が広がり始めていた。

まずは王妃タルヴィッキ、そしてミッコ自身に、嫡男のアンリまでーー。

この災厄はミッコの家族のみならず、隣国ノヴゴロドの君主ムスチスラフ、そしてサタヤルカ死後、王国の元帥の地位を得て活躍していたユヴベンの魂すらも奪い取っていった。

 

だが、悲劇はそこまでであった。

激しい熱と苦しみを味わう日々は続いたものの、6月にはアンリが、翌月にはミッコも無事、回復。

かつてのように彼の一族の命運を奪い尽くすようなことはなかったのである。

 

この一連の出来事を、ミッコは逆に利用した。

神は確かに我々に試練を与えたが、それはミッコの勇気と信仰心によって乗り越えられた。そして神はミッコを祝福し、彼の家族の命さえも救ったのである、と。

そして彼は、自らを神に愛され、そして神を愛する存在であると規定し、新たなる称号として「ウッコの擁護者ウコン・プオルスタヤ」を名乗ることとなった。

 

そしていよいよ、彼の改革は最終段階へと至らんとしていた。

 

 

改革の実現とその先

「喜ばしいことに、陛下の威光は着実にウッコの信仰を持つ者たちの間に広がり、北方でも次々と諸部族が王国への臣従を表明。その勢力範囲を拡大させております」

ミッコはアートスの説明を聞きながら、尋ねる。

「それで、信仰の体系化にはまだ時間を要するのか」

「ええ、スオメヌスコに関する各神話、伝承を纏めるだけでも時間がかかりましたが、そこに万民が納得するだけの物語と体系を、クルキ家の伝承と合わせ整えていく柔軟な作業には、既存のノアイデたちのみでは中々に力不足では御座います。

 しかし、光明はあります。先達て、ノヴゴロド略奪時に捕らえたグリゴリーという名のスラヴ人司祭に対し、ミッコ様の大望とウコヌスコ信仰の可能性について語ることで、考えを改めさせ改宗させることに成功しました」

「彼はスラヴ人司祭の中でも特に聡明な人物のようで、キリスト教についても精通した彼が体系化作業に加わることで、進捗は大きな成果を出すことになるでしょう」

学識29という驚異の高さを持っていたスラヴ人司祭。早速改宗し、フィンランド王国の司祭(ノアイデ)に任命し、大量の信仰点を産ませることにする。

 

「その間に、ミッコ様にはもう1つ、その偉大さを喧伝するための大事業を、成し遂げて頂きたく」

アートスは言いながらにやりと笑う。彼がそのような顔をするときはいつも、国を揺るがす大事業を成し遂げようとするときであった。先のクマン人たちとの戦いを決めたときも、その前のサーミ人たちとの戦いを決めたときも。

今回もまた、無茶をさせるつもりか、とミッコは苦笑しながら、彼の言葉の続きを待った。

「このフィンランドスオミの西、バルト海イタメリの入り口を北から塞ぐ形で存在するスウェーデンルオチ王国。キリスト教国家ではあるものの活発に交易を行い、西方の文物を取り入れることのできる先として友好な関係を築いてきました。

 しかし、前王ハルステーンの死後、後を継いだ幼いステンキル2世の統治を認めようとしない国内の有力諸侯が、ステンキルの従姉にあたるクリスティーナを擁立し反乱を起こすなど、その国内は今や荒れに荒れております」

「このままでは我らの経済を支えるバルト海交易に支障が出るだけでなく、キリスト教徒の難民が大挙して我らが領域に入り込むことで、せっかく体系化を進めている我らの信仰が揺るがされ、混乱させられる恐れが御座います。

 陛下、今我々はここに介入すべきときです。武力で持ってこれを抑え込み、バルト海に安定をもたらすのです」

もっともらしいことを熱量たっぷりに語るアートス。もちろん、その建前を掲げつつも、彼が持っているバルト海交易の権益を保護したいというのがその本音の中心であることはミッコにもよく分かっていた。

その上で、彼の語る建前が紛れもなく事実であることも。

 

そして1102年2月。

ミッコは新たな元帥マルサルカとして登用したサーミ人の将軍エオアッヴァー・ユラークに8,000弱の兵を率いさせ、スウェーデン領北部から軍を侵入させる。

この異教徒の侵入に対し、速やかに対立を終わらせるべきであった反乱軍も王国軍も中々矛を収めることはできず、ようやく両者が和解・休戦を結んだのは翌1103年の2月になってから。

その時にはすでにフィンランド軍が王都シグチューナを包囲しており、3月にはこれを陥落。国王ステンキルの身柄は確保され、国王軍は戦意を喪失することとなった。

エステルイェートランド公を始めとした反乱諸侯らもクリスティーナも抵抗を諦め、ステンキルの追放と新たな王の推戴に同意。ここに、フィンランド王国領スウェーデンが誕生。

ミッコは次男のヴォイットにこの地域一帯の支配権を渡し、彼の母であるトゥアリエをその摂政として付けた。

さらにこのヴォイットと、スウェーデン地域最大の有力者であるベルグスラーゲン女公アールフリドの娘グートルンとの婚約を結ばせる。

異教徒ばかりが住まう異邦の地を治めさせることは反乱のリスクを負うことに繋がる。最も強い勢力と同盟を結ばさせることで、少なくともその勢力は反乱に加わらないため、随分と楽にはなるだろう。

 

こうして、ウコヌスコ信仰を持つ部族たちの中で力を見せつけるだけでなく、異教徒が支配する強大な王国すらも打ち破ったことで、ミッコの権威は頂点に達した。

そしてついにグリゴリーらがその信仰の体系化を完了させたことで、いよいよ宗教改革を実現。

そして、政治体制もキリスト教国家に倣った封建制度に切り替え、ミッコの一族を頂点とする絶対的な体制が確立したのである。

 

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1103年冬。

フィンランド王国首都ウルヴィラで、ミッコの嫡男アンリと、その婚約者であったピヒラとの盛大な結婚式が開かれていた。ピヒラは王国の大宰相アートスの娘であり、この結婚はフィンランドの王とその最側近との結びつきをより強くするものとなった。

すでにアートスはフィンランド内最大の勢力となっており、アンリが次期フィンランド王になった時に最大の反抗勢力となる恐れもあることから、それを牽制するための同盟でもある。

 

この式典には拡大した王国各地から有力者たちが招かれ、歓待された。

ミッコは新たに臣下に就いた者たちに対し、その信仰や文化によって差別することなく、彼らを重用することを宣言した。

そして今後、フィンランドの地は長男のアンリがアートスの補佐を受け統治し、新たに獲得したスウェーデンの地は次男ヴォイットが義母となるベルグスラーゲン女公アールフリドとの二人三脚で統治すること、さらに両国の北に位置するサプミ(サーミ)の地は三男のクーティが、当地の最大の有力者である、元元帥ユヴベンの嫡男アラユオクサの娘との婚約を通じ、彼の補佐を受けて統治することが宣言された。

では、ミッコは?

その当然の疑問に答えるが如く、彼は居並ぶ封臣たちに向け、高らかに宣言した。

 

「此度、大いなる戦いにおいて我々ウコヌスコの民はスウェーデンルオチの地を解放し、バルト海イタメリを実質的に我々の内海とした。

 しかし、その外側にも未だ、多くの敵が存在する。スウェーデンに隣接する形で横たわる大国ノルウェーノルヤ、そしてスウェーデン南岸と海峡を挟んだ先にある半島を中心に支配するデンマークタンスカ

「いずれも強大なキリスト教国家であり、貿易においては尊重すべき盟友であると共に、常に潜在的な脅威となりうる存在でもある。

 そして、その一角ノルウェーが今、すでに7年間も続いている内乱で混乱状態が続いている」

「さらにこの混乱に乗じ、デンマーク王がこのノルウェーの征服を目指し兵を出しているという」

「もしも強大なるデンマークがノルウェーの地まで手に入れるとなれば、我々にとってはさらに恐るべき脅威となるのは間違いないであろう。

 よって、近日中に兵を揃え、この地域の安定と真のウコヌスコの拡大の為に、この地の紛争に介入することとする。

 そしてこの大征服の暁には、このスカンディナヴィアの地を全て掌握し、私はここに、ウコヌスコの民と北方民族たちによる巨大なスカンディナヴィア帝国の建国を実現させる」

 

欧州辺境の未開の部族の一首領に過ぎなかったミッコの、わずか一代による大帝国の建設の宣言は、それだけを聞いた者からすればあまりにも一笑に伏すべし大言壮語と捉えられたであろうが、そこに集う錚々たる面々にとっては何も意外でもなく当然のもののようにさえ思えた。

今や、ミッコは天空神ウッコと同一視されるほどの権威を持ち、その示す先に不可能などないように思えた。

 

そして宣言通り、1107年4月、フィンランド王国は各地の精鋭たちを揃えた3,000超の軍勢を発出させ、ノルウェー王国へと進軍させる。

すでに長きにわたる大乱に疲れたノルウェーの地では抵抗らしい抵抗を受けることなく、二つに分けたフィンランド軍はそれぞれ元帥エオアッヴォーや「独眼竜」と綽名される猛将ソイニなど、勇猛な将軍たちに率いられ次々と敵城を解放していった。

そしてその戦況を、ミッコはファレネにあるベルグスラーゲン女公の宮廷にて陣を構え、監督していた。その傍には嫡男アンリの姿もあった。

「戦いは順調に進んでいるようですね」

アンリの言葉に、ミッコは頷く。

「ああ。特に新たに戦線に投入したグザクの活躍は目覚ましいものがある。元々クマン人との戦いの末にの捕虜にし、その実力を買って傘下に加えた男であったが、その力もさることながら、その忠義心の高さと責任感は、北方の民にはない素質と言えるな」

「兵たちもこの仮面の異邦人には恐怖を覚えつつも、同時に神がかった振る舞いと存在感に敬意を抱き、良く統率されていると聞きます」

アンリの的確かつ冷静な分析に、ミッコは満足する思いを感じる。子に対し特別な思いを抱こうとしたことはないが、やはり自身の王国を継ぐ相手に対しての期待は抱かざるを得ない。

有能なアートスの補佐を受けられるとは言え、彼もすでに60。おそらくはミッコよりも先にこの世を去ることになるだろうし、その嫡男のトゥオッコは武勇には才を発揮しそうだが、父のような万能人とは程遠そうな雰囲気を感じており、アンリはある程度自立して王国を運営する能力が必要だと感じていた。

同時にミッコは恐れていた。

愛すべき存在を作ることで、それが万が一失われたときの耐え難い感情に囚われることを。

先達て母の死が訪れた時も、彼は周りにはその感情を悟られぬよういつも通り押し殺しつつ、内面では苦しみの嵐がより一層強く吹き荒れ、それは彼の密かな楽しみの数を増やす結果にもつながっていた。

だから今回のノルウェー戦争においても、前線に立ち戦果を上げたいと逸るアンリを抑えここに留め置かせた上で、彼に今後の統治の行く末について語り、継承の準備を進めていた。

この征服戦争が終われば、いよいよ彼は引退を決めていた。

長きにわたる君主としての地位を捨て、「噓つきヴァレヘテリア」であることを捨て、孫息子を愛でる好々爺として安楽な生活を送れることを夢見て・・・わずか12歳の時からここまで、彼は戦い続けてきたのだ。その人生の最後に、そんな報酬があっても、許されて然るべきだと考えていた。

 

 

「――あまりにも欲張り過ぎだ」

遠くからミッコの様子を眺めていたホストのベルグスラーゲン女公アールフリドは、側近たちと盃を交わしながら、どこか醒めた目で主君を見つめていた。

スウェーデンにおける最大の有力者にして、ミッコがこれを征服した際にいち早く臣従。その息子に娘を嫁がせて同盟を交わし、さらには信仰もすぐさまウコヌスコへと鞍替えするなど、巧みな政治的バランスを有する女傑であった。

兼ねてからの親友のように親密に振る舞うアールフリドとミッコとは、この日のように繰り返し宴を開いては互いの関係を深めていっていた。

女性を真の意味で愛したことのないミッコにとっても、このアールフリドという女性は、ある意味で男性以上に気を許し心を休ませられる心地よさを覚える相手であった。

しかし、この日の彼女の目は、どこかもっと冷たいそれであった。

 

幼い頃から、ごく小さな部族をここまで育ててきた自負もあろうが、その欲深さは、自身のみならず、その周りのあらゆるものをも不幸にさせる。

 そのことの意味をよく理解して行くが良い、我が友人よ」

アールフリドがその手のゴブレットを机に置いたのと同時に、宴席の中央で、その騒ぎは巻き起こった。

 

 

意識が遠のいていくのを、ミッコは明確に感じ取っていた。

それは焦りでも後悔でも悲しみでもなかった。ただ彼はどこか遠くで、運命の波の中に運ばれてトゥオネラへと向かおうとしている我が身を、冷静に眺めているような感覚に陥っていた。

ああ、自分の役目はもう、終わるのだな。

それは寧ろ、安心に近い思いだったのかもしれない。

思い描いていたのとは異なるが、それでも彼はようやく、彼を苦しみ続けてきた嘘と決別できるようになるのだから。

 

あとは頼んだぞ、我が子よ。

我の果たせなかった運命のその先を、遠き地より楽しみに眺めさせてもらうぞ。

 

1107年5月25日。

偉大なる帝国の礎を築いた男、ミッコ・クルキ。

その49年の生涯が、今、幕を閉じた。

 

――かくして、帝国の創設という大義はこの男に託された。

英雄ミッコの嫡男、「寛容なるスヴァイツェヴァイネン」アンリ。

その治世は、激しい混乱と共に幕を開けることとなる。

 

果たしてその人生にはいかなる過程つみ結末ばつが待ち受けているのか。

 

第3話へと続く。

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過去のCrusader Kings Ⅲプレイレポート/AARはこちらから

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*1:なお、森林警備兵という名称はさすがに誤訳じゃないのかと思い言語(Metsänvartija)を調べてみたが、実際に19世紀に生まれたフィンランドの森林警備隊を指す言葉であった。