リストリー・ノーツ

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クルキ・タリナ① 噓つきミッコ・上(1066-1087)

 

現在ではフィンランド、スウェーデン、ノルウェーと呼ばれているバルト海沿岸地域には、かつてクルキ家と呼ばれる一族によって支配された大帝国が築かれていた。

今となってはその面影も殆どないものの、この地には確かに14世紀末のデンマーク人による侵略までは独自の信仰を維持し、ある程度統一された言語が話されていたことが分かっている。

では、その大帝国はいかにして成立し、そして失われていったのか。

そしてこれを実現させたクルキの一族の運命とは果たしてどのようなものだったのか。

 

今回はこれを、語っていこうと思う。

 

 

目次

 

Ver.1.12.5(Scythe)

使用DLC

  • The Northern Lords
  • The Royal Court
  • The Fate of Iberia
  • Firends and Foes
  • Tours and Tournaments
  • Wards and Wardens
  • Legacy of Perisia
  • Legends of the Dead

使用MOD

特殊ゲームルール

  • 難易度:Extreme
  • ランダムな凶事の対象:プレイヤー含め誰でも

 

第2回以降はこちらから

クルキ・タリナ② 噓つきミッコ・下(1087-1107) - リストリー・ノーツ

クルキ・タリナ③ 寛容なるアンリ・上(1107-1127) - リストリー・ノーツ

クルキ・タリナ④ 寛容なるアンリ・下(1127-1145) - リストリー・ノーツ

クルキ・タリナ⑤ 危機の時代(1145-1164) - リストリー・ノーツ

クルキ・タリナ⑥ 聡明なるラウリ・上(1164-1178) - リストリー・ノーツ

クルキ・タリナ⑦(最終回) 聡明なるラウリ・下(1178-1194) - リストリー・ノーツ

 

始祖アンリについて

偉大なるスカンディナヴィア帝国を創りあげたクルキ族について、現在その存在が確実視される最古の人物は11世紀の半ば頃にウルヴィラを中心とした領域を支配していたアンリという男であった。

彼は勇敢野心的、そして軍事的才能に溢れた男であり、多くの男たちに支持されていたが、その周囲は自身よりも遥かに強大な勢力に囲まれ、いつ消滅させられてもおかしくはない勢力であった。

周辺部族の兵力データ。難易度extremeゆえに最初期は周りは2倍近い兵力を持っている勢力ばかり。

 

しかしアンリはその中の1つであるオウル族の族長・カレヴァの娘と自身の息子のミッコとを婚約させ、同盟を締結。

その兵を借り、隣接する強大なニューランド族長ミエルスに攻撃を仕掛け、1068年3月17日のサタクンタの戦いにて彼を捕らえることに成功する。

ミエルスは降伏を受け入れ、嫡男を人質に出すと共にそのニューランドタヴァストの土地をアンリに割譲。

アンリは6州にまたがる勢力へと成長したのである。

そして、今度は同盟を結んだオウル族長が、隣接するサヴォ大族長ミエルスに対して宣戦布告。

アンリにも援軍を要請し、先の協力への返礼として、アンリももちろんこれを承諾した。

アンリに匹敵する軍略の才を持つパーヴォに軍を率いさせ、アンリ自身は拡大した国内の巡歴を開始する。

施設を建てるにも兵を増やすにも兵を維持するにもとにかく大量の威信を必要とする部族制国家。逆に資金は余りやすいので、「威厳ある巡歴」を実施して大量に威信を確保したい。グランドツアーの割と定石となっている「徴税のための巡歴」は部族制では実施不可。

 

パーヴォが率いるフィンランド軍は早速サヴォ軍を壊滅させる。

だがそれと時を同じくし、旅の途中で狩りに興じていたあったアンリは、その勇敢さが仇となり、悲劇を引き起こすこととなる。

大地に叩きつけられたアンリは、呻き声一つ上げることもできぬままただ流れる血の温かさを感じていた。

従者たちがすぐさま駆け寄り、主君の身体を抱え医者のいる近くの城にまで運び込もうとする。

だが、このときの傷が原因で、アンリは1069年11月25日にこの世を去る。わずか28歳という若さであった。

後を継いだのは、このときまだわずか12歳であった嫡男のミッコ

そして、このミッコこそが、歴史に残る巨大なるバルト海イタメリ帝国を築き上げる礎となった人物である。

 

 

幼少期

1070年冬。

厳しい寒さと強い雪風に晒されながら、パーヴォ率いる屈強なるフィンランド軍は、サヴォ族の住むピエリネン村を制圧。これを焼き払っていた。

サヴォ族は同時にシュスマ族(先の戦いでアンリたちに敗れた元ニューランド族)にも攻め込まれ、オラヴィンリンナの村も同様に制圧されており、逃げ場所を失ったサヴォ大族長ミエルスは降伏し、土地を持たぬ流浪の民となった。

圧倒的勝利を掲げ、パーヴォは首都ウルヴィラへと凱旋。

しかしそこで待っていたのは、彼が敬愛し王と認めていたフィンランド大族長アンリの死の報せであった。

 

「よくぞお帰りくださいました、パーヴォ様。見事なる勝利、フィンランドスオミ族の英雄に相応しき振る舞いにて、亡き我が夫も誉れ高く感じ入っていることでしょう」

兵士や従者たちがずらりと並び、帰還したパーヴォとその部下たちを歓待する。その先頭に立つのはアンリ王の妻であったアーム。その美しさは、パーヴォが密かに恋焦がれていたものであった。

「うむ・・・此度の報、実に無念なる思いなれど、王の遺志は必ずや我が受け継ぎ、この部族をさらに巨大にしてみせようぞ」

差し出された酒を次々と口にし、酩酊し始めていたパーヴォは自信満々に告げる。その言葉に従者たちは少し慌てたような表情を見せるが、アームは気にした様子をおくびにも出さず、ニコニコと笑顔を保ったまま一人の少年を紹介する。

「パーヴォ様。こちらがアンリ様の御子息たるミッコで御座います。まだ幼いながらも、父に似た明晰な頭脳の持ち主で、時折熟練の指揮官さながらの鋭い指示で従者たちを驚かせる、有望なる男子で御座います」

「ふむ・・・」

酒の器を口元に運びながら、パーヴォはどこか値踏みするように少年を見やる。少年はそんな偉丈夫をどこか疑わし気な目つきで見つめ返す。

「パーヴォ様。まだ幼いなれど、アンリ様に匹敵する器量を持ち合わせていること間違いなしの男子で御座います。何卒、これからもその武勇でもってミッコとこの部族とを御守り下さい」

アームの言葉には応えず、パーヴォは立ち上がる。

そのままアームに近づき、その頬に触れる。

「アーム殿、儂はアンリ様の揺るぎなき信念と勇気、そして実力に惚れ、その命を捧げた。その御子息を護れと申されればそのようにしたいとは思うが、しかし貴女のその言葉が真にアンリ様の御意志に叶うものかどうかは、しっかりと夜を通して確認させていただく必要がある」

酒臭い息を吐きかけられ、思わず顔を顰めようとするのをかろうじて押し留めたアームは、笑顔を崩さぬままパーヴォの言葉に頷いた。彼女は死の間際、亡き夫との間の子を宿していたものの、それを理由に断ることさえできる立場ではなかった。

この遣り取りを、幼いミッコはしっかりと目に焼き付けていた。そして、尊敬する聡明なる母が、野獣のような男に連れられて別の部屋へと姿を消す後ろ姿を、彼はじっと見つめていた。

彼の教育役に任命され、その従者として任ぜられていたサタヤルカは、幼きミッコのこの横顔をゾッとする思いで眺めていた。

この少年は確かに、あの勇猛なるアンリ様の血を受け継いでいる。

いやむしろある意味ではそれ以上に――王として必要などこか底深い恐ろしさを、幼くして彼は持ち合わせているようにさえ思えたのである。

 

一週間後、ニューランドの東に住むカミサルキ族が、そのさらに東方を支配する強大なカレリア族に攻められているとの報せがウルヴィラにもたらされる。

これを受け、パーヴォはこのカミサルキ族の背を襲い、その領地を奪おうと兵を率いてウルヴィラを出立。

一週間にわたり暴虐の限りを尽くし、食糧や女をひたすら食い荒らしていたパーヴォとその粗野な部下たちに辟易していたウルヴィラの住民は、この出立を涙を流す勢いで喜んでいた。

「アーム様・・・なぜあのような男に好き勝手され、黙っておられるのですか・・・我らが一族の母たるアーム様のお言葉あれば、我々は命を賭してあの男を討つ覚悟を決めております」

若く血気盛んで忠義厚き闘士たちの中には、そう言ってアームに決起の許しを頂こうとする者たちも現れた。

しかしアームは首を振る。「それでもあの御方はアンリ様が信頼し、そしてそれに応えるだけの勝利を我々にもたらしてくれた英雄です。今はアンリ様の死に心乱れ、粗暴なところを見せるところもあるかもしれませんが、我々にはなくてはならぬ存在なのです」

アームにそう言われてしまっては、抜きかけた刀も仕舞わざるを得ない。

しかし、と若者たちの中から歩み出る男が一人。ミッコの教育役に任ぜられているサタヤルカだ。

「もしもパーヴォ様が一線を超えたとき・・・すなわち、アンリ様の御子息たるミッコ様を蔑ろにし、このフィンランドスオミの王の座を奪わんとしたとき、我々は我々の信念においてことをなすこと、このことはお認め下さいませ」

アームはその若者の忠義に満ちた目に圧倒され、ただ頷く他なかった。

 

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パーヴォは確かにアームの言う通り、フィンランド族の拡大になくてはならない存在であったように思う。彼は瞬く間にカミサルキ族の兵を蹴散らし、さらに近づいてきたカレリア族の大軍勢も、森の中で防備を固めるパーヴォの部隊を前にして、踵を返し撤退するほどであった。

翌年2月にはカミサルキ族は降伏し、その西端の領土であったヴィープリはフィンランド族に、東端の領土であったソルタヴァラはカレリア族に奪われることとなった。

そしてこの新たに獲得したヴィープリの地も、パーヴォはミッコとその摂政のアームに確認することもなく勝手に自らのものとし、その権勢を高めるのに用いたのである。

「良いのですか、パーヴォ様。ミッコ様やアーム様に確認を取らずして半ば占領するような形でこの地を領有して」

部下の不安そうな言葉にも、パーヴォは酒を片手に豪快に笑いながら応える。

「構わぬ、構わぬ。あの幼き子どもに、アンリ様の後を継ぐ器量など何もない。話によれば、奴は宰相の鞄を奪い取ろうとして捕まえられたとき、口から出まかせで言い逃れしようとするなど、とにかくろくでもない性格をしているって噂なのだからな!」

「言わば、『嘘つきヴァレヘテリアミッコ』だ。そんな愚者が、かの英雄の後継者である者か! すぐにこの俺が、アーム様との間の子を作ってやろう。そうすれば我らフィンランドスオミ族も安泰だ!」

パーヴォの言葉に、部下たちは一様に手を挙げ、彼らの主君を讃える。

サタヤルカが危惧した通り、フィンランド族の支配権は次第にこの「最強の男」の手中に収まらんとしていたのである。

 

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1071年春。

ミッコの教育役であるサタヤルカは、唐突にミッコから「チェスの誘い」を受ける。

この戦争を擬した盤上の遊戯はスラヴ人たちからフィンランドにも伝わっており、パーヴォのような荒くれ者たちには軟弱な手遊びと不評だったものの、より広い視野で戦略について学べるものとしてアンリ王も時折遊び、またサタヤルカもそれに付き合い手合わせすることも多々あった。

しかしミッコがそれをやっているところは見たことがなかった。サタヤルカは何の気なしにその提案を受け、教えながら対局するくらいのつもりでいた。

しかしミッコの口からは思わぬ言葉が出てくる。

「サタヤルカ、この勝負、負けた方は勝った方の言うことを何でも1つ、聞くことにしよう」

「ミッコ様、私はあなたの従者です。元よりどんな言うことも聞くつもりですよ」

ミッコはそれには応えず、黙々と駒を進めていく。

最初は手加減していたサタヤルカも、次第にその打ち手の鋭さに余裕を失っていく。気が付けば彼はこの幼き君主の策に取り囲まれ、身動きが取れないほどに追い詰められていたのである。

最後には彼も完全な敗北を認めざるを得なくなった。

一体、いつどこで誰と練習してこれほどの腕前に?とサタヤルカが尋ねると、「一人でいるときはいつもこれで遊んでいたんだ」とミッコは答える。

「さて、約束通り、1つ言うことを聞いてもらうよ」

ミッコの言葉に、サタヤルカも姿勢を正す。

彼自身の強さを見せつけてからのその命令は、彼が一人の子どもとしてではなく、このフィンランドの大族長であり英雄アンリの正統なる後継者であることを踏まえた上での指令であるということだ。

そしてミッコは口を開く。

 

「我らが国を簒奪し、穢そうとする者を排除してほしい。我が父アンリの栄光に、翳りを残さないために」

 

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1073年3月。

フィンランド族最強の武人で数々の勝利をもたらしてきたパーヴォが、突如心不全によって倒れ、還らぬ人となった。

族長ミッコはこのことを大いに悲しみ、アンリに次ぐ英傑としてこれを讃え、その武威を遺された者たちがしっかりと受け継ぐことを約束した。

そして、子のいなかったパーヴォの遺領のうち、東のヴィープリはミッコが直轄領として抑え、西のニューランドはパーヴォに次ぐ武人として若き兵士たちの間で評判の高かったサタヤルカが継承。

サタヤルカはさらにパーヴォが就いていた元帥マルサルカの地位も継承するが、パーヴォの元部下たちはこれに反発し、蜂起の構えさえ見せる。

が、これを察知したサタヤルカはすぐさま手勢を率いてこれを鎮圧。フィンランド族内の軍部の統制を握ることに成功したのである。

 

ミッコ、そしてサタヤルカ。二人は結託し、アンリ死後の国内の混乱の火種を摘むことに成功した。

だが、直後に混乱も巻き起こる。同年の夏に、首都ウルヴィラを中心に「フィンランド炎」と呼ばれた麻疹が流行してしまうのだ。

ミッコ自身もこれに罹患するも、侍医も務めていた聡明なる母が調合してくれたポーションにより回復。

一方でミッコの弟のヤロ、そしてアンリ死後に母が産んだ妹のアイノも次々と麻疹にかかり、夭折。

ミッコは幼くして兄弟を皆喪うという悲劇を味わうこととなったのである。

 

これは無念の死を遂げたパーヴォの呪いであるとまことしやかに噂された。その呪いがなぜミッコとその兄弟を襲うのだ? と言う質問に対し、純粋な者はパーヴォの忠誠心ゆえに、共にトゥオネラへ行きたがったと答えるし、訳知り顔の者はそれが彼の死の真実の全てさ、と肩をすくめる。

ただいずれにせよ、ミッコがその「呪い」から生き残ったことは、彼の権威と正統性を高める役には立った。

そしてミッコはついに成人を迎え、正式にフィンランド族の大族長として多くの民に認められるほどの男となったのである。

 

その頃には、フィンランド周辺の地図も状況に変化が見られつつあった。

ニューランド(シュスマ)、オラヴィンリンナ(サヴォ)、カミサルキといった部族が消滅ないし縮小する一方、これらを飲み込んで拡大したオウルカレリア、そしてフィンランドがこの地域を支配する三大勢力として台頭。

そのうちのオウルとフィンランドが同盟を結んでいることは、この後のこの地域の趨勢を決める重要な鍵となっていた。

そして1074年1月。カレリアが隣国のビャルミアに攻め込んだのを機に、ミッコはサタヤルカに兵を率いさせ、オウル族の支援を得ながらカレリアの背中を攻撃した。

6月にはオラヴィンリンナの土地を占拠し、カレリア族長カレヴィの嫡男を捕らえることに成功。

これを受けてカレヴィは敗北を認め、かつてサヴォ族から奪い取ったオラヴィンリンナの土地をフィンランド族に譲渡することとなったのである。

 

フィンランド地域最大の部族と看做されていたカレリア族を打ち破ったことはミッコとその右腕サタヤルカの権威を高め、ミッコは「正当なる者」として認められることに。

これを受け、ミッコはついに、この地域全体の王であることを宣言。

正統性レベルを上げることによって、称号の創設に必要な領土の割合を少なくすることができる。ここでいえば本来は10伯爵領以上必要なところを、15%の割引がついて7伯爵領以上で王国を創設することができるようになっている。

 

ここに、「フィンランド王国スオメン・ヴァルタクンタ」が創設され、ミッコは初代フィンランド王スオメン・クニンガスとして名乗りを上げることとなった。

 

偉大なる帝国の礎を築き上げた男の物語は、ここから本格的に幕を開ける。

 

 

青年期

この地域全体の王として宣言したミッコのもとに、兼ねてよりの同盟関係でその娘をミッコと婚約させているカレヴァ率いるオウル族、そして三大勢力に押され存続の危機に立たされていたピエタルサーリ族が次々と臣従を表明。

このフィンランド地域においては今や、フィンランド王国とカレリア族の二大勢力が鎬を削る形となった。

そして1077年には両国に挟まれたカミサルキを併合。

さらに1079年にはカレリア族に対する宣戦布告を果たし、翌1080年の7月にこれを降伏させる。

これでフィンランド地域全土が、ミッコ率いるフィンランド族のもとで統一されることとなった。

 

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「またフィンランド人フィンスキーの襲撃があったのか」

フィンランドの南方に位置するノヴゴロド公国。この地を治めるムスチスラフはその報告を聞き、顔を歪める。

「ええ。奴らは国境沿いのニェンを荒らした後、そのまま我らが首都ノヴゴロドも略奪」

「その後チフヴィンをも襲撃しているところを我々の正規兵軍団が討伐にかかりますが、恥ずべきことにこれも撃退されてしまいました」

「数の上では我らが上回っていたと聞くが、そんなにも奴らは強いのか」

「ええ・・・奴らは深い森をまるで自分たちの庭であるかのように巧みに用い、ゲリラ戦を展開。統率の取れたスラヴの兵とはまったく異なる、神出鬼没の狂戦士たちに随分と手を焼いているようです」

「兵士たちのみならず、これを統率するフィンランド人の族長ミッコは恐るべき存在です。征服した部族の長の妻を無理やり妾にする、カトリックの旅人が宮廷を訪れればこれを投獄し、公開処刑する。一度は民が税の免除を申し出たときには、右腕たるサタヤルカなる軍の責任者と共にこの村を焼き払い略奪さえしたとの噂」

「これらの悪名の数々から、ミッコは悪魔の遣い、神の敵、堕落せし蛮族の王、そして堕落王パドシー・コロルとまで呼ばれています」

 

「――堕落王、北方の蛮族、か」

その報告を聞き、ミッコは苦笑する。それを見て、宮廷を訪れていたヴェプス人の商人は大仰な仕草でそれを否定する。

「とんでもないことです。陛下ほど、叡智に優れた聡明なる王は西方にも居られないでしょう。貴方の知恵と勇気はこの北の大地を豊かにし、人々の心をも温かくさせます。あらゆる世界を周り見聞してきた私だからこそ言えますが、遠い南方の地においてすら、貴方の名は尊敬と共に語られております」

このヴェプス人商人のやり過ぎなくらいな世辞と追従の嵐にはミッコも随分と慣れていたつもりであったが、さすがの言い回しにこちらはこちらで苦笑いを浮かべる。

「何だ、それでその、南方のなんちゃらとかいうものを売りつけるつもりか?」

「さすがのお察しの良さ。本日ご紹介したいものはこちらになります」

そう言って商人は黒い肌の従者から受け取った長物を差し出し、これを包んでいた布を剥ぎ取る。そこには光輝く見事な得物が掲げられていた。

「遠き南方の地、インドインティアと呼ばれる地域には実に豊かな土地が広がっており、そこでは巨大な国々が常に覇権を巡り相争っております。これはそこに住むカンナダ人と呼ばれる人々の王朝で造られた実に見事な剣で御座います」

ミッコは差し出された剣を手に取り、しげしげと眺める。商人の言うことをすべて信じているわけでは全くない。実際にバルト海イタメリシェクスナ川を通して西方やスラヴの国々を巡ることはあっても、彼自身がそのインドとかいうあるかどうかすら分からない異国の地にまで足を踏み入れたとは思えない。そこには人間の作るどんな建築物よりも巨大な怪物が歩き回っており、インドの民はそれに乗って戦争をするなどという荒唐無稽な話すらこの男は平気でするのだから。

しかしそれはそれとして、目の前の剣は確かに素晴らしい出来栄えであり、その鋭さは本物であることは間違いなかった。

「確かにこれは良い物ですね。王に相応しいかと」

傍らのサタヤルカも認めたことが決め手となり、ミッコはそれを購入することに決めた。ただし商人が提示した金額はずっと値引きさせた上で。

「毎度ありがとうございます。

 ――そうそう、陛下。本日はもう1人、紹介したい方がおります」

そう言って商人が連れてきたのは西方の異教徒であった。

彼は聞き慣れぬ言葉で何事かを商人に囁き、商人はそれをフィン人の言葉に翻訳してこちらに伝える。

「彼は遠き西方のエスパニアなる処から流れ着いたものとなります。元々はその地域の有力な領主の一族でしたが、戦争で敗れたのちに国を追われ、一族は散り散りとなったのです」

「しかし彼は見事な金属細工の技術を持っており、彼に投資することで、陛下は実用的なメイルを手に入れることができるでしょう」

「なるほど」

ミッコは値踏みするようにその西方人の姿を見やる。メイル自体はノルマン人を通していくつか手にしたことはあるが、重い割には質が悪く、フィンランド人たちの間の激しい闘争にはあまり向かないと感じていた。しかし、この男は古代ローマの精巧な技術を蘇らせられると豪語しているという。ローマが何かは分からぬが、商人は表現こそ大仰で話半分に聞く必要があっても、期待に応えるものを用意する点においてはミッコは信頼を置いていた。

「良いだろう。存分に投資してやる」

ミッコの回答を商人が西方人に伝えると、彼は表情をパッと明るくさせ、ミッコに対して深々と頭を下げる。

「先ほどは確かに大袈裟には言いましたが、実際ミッコ様のその、外来のものに対する恐れのなさ、真に価値を理解して受け入れる器量、開明的な姿勢については、我々商人連中にとって最も手を結ぶべき御方であると認識しております」

真剣な表情で告げる商人の言葉に、ミッコは頷く。

「陛下はこの地を統一し、周辺の大国とも肩を並べうる王国を築き上げました。この先、どのようにお考えで?」

「そうだな」

ミッコは口元に手を当て、暫し考え込む。幼き頃にサタヤルカと共に部族を掌握し、瞬く間に勢力を拡大させた。第一は部族の者たちの安寧と繁栄。それは交易所を整備し、バルト海を通じた交易と異教徒に対する掠奪を通し、ある程度実現できている。

だが、それだけではいけないとも思っている。西方はもちろん、略奪対象たるスラヴの街々を見ても、そこに広がる都市の豊かさ、統治の洗練さは、その日暮らしを礎とする現状のフィンランドの体制とは次元の異なる強固さを感じさせる。

もしもミッコが、自身の王国をその子孫に至るまで繁栄させ続けようと考えるのであれば、大いなる改革は決して欠かせぬものとなるだろう。

「マルティンと言ったか? 召し抱えるが故、西方の事情を色々学ばせてもらおう。我々の更なる発展の為に」

商人がマルティンに確認し、彼も頷き同意を示す。商人からも西方の言葉を知る者を通訳として貸してもらい、ミッコは王国の改革に向けて動き出すこととなる。

 

マルティンを通し西方について深く学ぶにつれ、ミッコはまず政治体制の改革が必要だと理解した。

現在のように部族の王を抱きつつも、実力が全てを支配する部族制体制を脱ぎ捨て、王の権威と権力をより高いものとする制度へ。

しかしそのためには、フィンランド王ミッコがそれに相応しい、常人を遥かに超えた存在であることを示す必要があった。

そのために最も必要なことは宗教改革であった。今、フィン人たちが進行するウコヌスコ信仰は、天空神ウッコを主神と定めつつも、その教義の体系化は行われていない精霊信仰に近いものであり、これでは神を権威の源泉に起き統治や民族の統一に利用することができない。

マルティンやスラヴ事情に詳しい商人パンテレイから伝え聞く西方の信仰やスラヴ人の信仰のような体系化を行うべく、このウコヌスコ信仰を大胆に改革する必要がある。しかし、その為には、ミッコが真に神に愛された選ばれたものであり、まさに主神ウッコの生まれ変わりであるかの如くこの北方の民に認識させる必要があるのだ。

改革のためには莫大な信仰力を必要とする。なお、正教会に改宗することで改革の手間を省けすぐに封建制化を進められる気もするが、それはあまりロマンがないのでここでは採用しない。

 

そのために必要なこととして、ミッコは3つの方法を考え出した。

1つ目は、ウコヌスコの民が聖地として認める場所への巡礼を通し、ミッコがその改革者として相応しいと認めさせること。

特にウコヌスコ信仰の中心地たるフィンランドから最も遠く、ウコヌスコの民にとって最も尊敬に値する地たるペルミへの巡礼は、危険も多い一方、その敬意を集めるには十分なものであった。

 

2つ目として、聖地の一つであるヒーウマーのすぐ近くに位置するラーネマーにて開催された競技会に出席し、その武勇を見せつけること。

パンテレイから購入したカンナダの剣、そしてマルティンが鋳造した特製のメイルを着用し、万全の体制で「決闘」種目に参加する。

緒戦となるエストニア人の仮面の男イハレンブに対しては危なげなく勝利。

二回戦では主催者でもあるラーネマー族長ヴィハヴァルドとの対戦。その武勇はバルト海中に広がっており、今大会最大の優勝候補と目されてもいた。

だが、戦闘中、ヴィハヴァルドは足を引き摺る様子を見せており――これはチャンスか!?

――やはり、それはハッタリだったようだ。

だが、そうとは知らないかのように振舞ったミッコの一撃に、カウンターを仕掛けようとするヴィハヴァルド。しかし次の瞬間、それが「誘われた一撃」だったことに気付いた彼は驚愕に表情を染める。

「ハッタリで俺に勝とうなど、千年早い。俺の名は、嘘つきヴァレヘテリアミッコだぞ」


最大の優勝候補であったヴィハヴァルドを倒したことで、誰もがミッコの優勝を期待するようになった。

そして迎える決勝戦。相手は、ノヴゴロド公の臣下の一人であるスラヴ人のヴラディスラフ

それはすなわち、彼にとって、日々略奪により自分たちの生活を脅かす憎き敵を目の前にしたことを意味する。彼は憤怒の形相でミッコを睨みつけた。
「忌まわしき蛮族の王よ。随分と良い気になっているようだが、気を付けておいた方が良いぞ。勢い余って、ぶち殺してしまいかねないからな」

「そちらこそ、気を付けろよ。ただでさえ、未開の蛮族に一騎打ちで負けたなんて恥ずかしいお土産を持ち帰るんだから、それで手足を折りでもしたら散々だ。手加減はしてやるから安心しろ」

もちろん、実力でいえばヴィハヴァルド以下でしかない上に、頭が血が上っているような相手は、ミッコにとっては敵ではなかった。

見事、優勝。

異教徒たちを力でねじ伏せ、自らの力で華麗な勝利を重ねていった若き王の姿を、ウコヌスコ信仰の民は確かにその目に焼き付けることとなった。

すなわち、この男こそが、偉大なるウッコの化身であり、小部族たちが相争うバルト海東岸の民を纏め上げ、巨大なる帝国をも築き上げるほどの器の持ち主であると――そのように、認めようとする人たちもまた、次第に増え始めてきたのである。

しかしもちろん、この動きをよしとしない者たちもいた。

そしてミッコにとって、その勢力との対決こそが、改革のために必要な第三の鍵であり、避けては通れないものであった。

 

 

サーミ戦争

1086年の冬。凍り付いたポジャンラティから吹く強い風が、ウルヴィラの石造りの城壁に勢いよく叩き付ける中、ミッコとその側近たちとは額を突き合わせ、その決戦に向けた討議の最終局面に至っていた。

その討議を仕切るのは、元カレリア族長の配下であり、その才を見込んでミッコが幕下に加えたアートス・アントネン。外交においても国内の財務管理においてもフィンランド随一の才を持ち、軍略においてもサタヤルカが認める見識の持ち主とされる万能人である。

野良で登場してきたキャラクターだがとにかく各能力がバランスよく高い。

 

「先達て商人パンテレイの仲介により、陛下の御息女様とヴォログダのヴェプス人族長パウリの息子との婚約が成立し、同盟が無事、締結されました」

「これで我らの兵力は合計で8,000弱を見込むことができるようになりました。が、北方のギェマヨフカ族は単体で4,000弱の兵力を持ち、さらに同じサーミ人のドゥオルトノセアヌ族イナリ族とも手を組んでおり、その総兵力は8,000を超えるほど。未だ数の上では劣勢となります」

「奴らは実際、侮り難い存在だ」

と、サーミ人の闘士ユヴベンが語る。ギェマヨフカから逃れてきたというこの男は数年前にウルヴィラを訪れるが、その武威に惚れ込んだミッコは彼に土地を与え、配下に加えていた。

「戦うのであれば、相応の犠牲を覚悟する必要があるだろう」

「望むところだ」

ミッコはユヴベンの言葉に、不敵な笑みを浮かべる。

「たとえどれだけ強大であろうと、倒すべき相手であれば、手段を選ばずこれを打ち倒してきた。そうだろう、サタヤルカ?」

ミッコに振られたサタヤルカは力強く頷く。10年前、パーヴォにより乗っ取られかけていたこの国を、彼は危険な橋を渡り主君の手へと取り戻した。その功績ゆえに今の地位があり、それ故に彼は、主君の為にさらに命をかけることを厭うつもりはなかった。

「仰る通りです、陛下」と、アートスも頷き、続ける。「陛下の目指す改革を実現するためには、同じウコヌスコの信仰を持つ勢力の中に、我らと匹敵する勢力の存在を許すわけにはいきません。このサーミ人同盟は必ずや敗北せしめる必要があるでしょう。

 そして、ギェマヨフカ内に位置する聖地アッケルを確保することも、改革には必須となるでしょう」

「戦いは避けられません。北方の強大なるサーミ同盟に対し、勇気をもって戦いを仕掛けましょう」

 

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1086年3月13日。フィンランド王ミッコは北方のサーミ人ギェマヨフカ族へ宣戦布告。

大義名分は、6年前に彼らがフィンランドの土地を略奪したことを受け、今後の安全保障のため、そしてウコヌスコの聖地を蛮族から保護するため、この地を平定する、というものである。

開戦と同時に国境線から一気にギェマヨフカ族領内へと侵入するフィンランド軍。その先にはギェマヨフカ族3,700の兵が待ち構えているが、数的には有意な状態だ。

もちろん、ギェマヨフカ族としても、これと正面からやり合うのは危険と判断し、退却。その間にフィンランド軍は、ギェマヨフカ族の本拠地であるギエンパの包囲に取り掛かる。

そうこうしているうちに、ヴォログダ族の援軍がやってくる。東西からギェマヨフカ族の兵を挟み撃ちにし、壊滅させたいところ。

そこに、わずか900弱の兵のみで構成された少数部隊が現れる。どうやらギェマヨフカ族長が雇用した傭兵団のようだ。

先にこちらから壊滅させてやる!

かくして10月26日。ケミヤルヴィの戦いが開幕する。

「――とんだ貧乏くじを引かされてしまったようだな、アニキ」

襲い来るフィンランド軍の兵士たちを前にして、傭兵団の闘士の一人、スティルビョルンは嘆息する。

「どうせ敗ける戦いだ。変な勇気見せず、団長を見捨ててさっさとずらかっちまった方がいいんじゃないか?」

スティルビョルンの軽薄な言葉に、アニキと呼ばれた男――シグルビョルンは「そうだな」と、深刻そうな表情で返す。

「だが――そう簡単には帰してはくれなさそうだ。すでに周りを取り囲まれている」

シグルビョルンの言葉通り、傭兵団の周囲にはいつのまにかフィンランド軍が展開しており、逃げ場が残っているようには思えなかった。

彼らにしたって森の中は庭のようなものだと自負していた。イングランドでもフランスでも、彼らの強みを発揮し、多くの戦いで勝利し、金品を巻き上げることに成功していた。

だが、森の中での強さは、フィンランドの男たちがより、優っているようだった。まるで奴らの信仰の通り、森に潜む得体の知れないものが、彼らを護っているかの如く。

「――アニキ、ダメだ、こっちも・・・!」

スティルビョルンは目の前に、屈強なフィンランド兵たちが現れて狼狽する。

「スティルビョルン――もはやこうなれば、生き残ることが最大の収穫だ。死に物狂いで――敵の命を奪え!」

 

目の前に現れた敵兵たちに向けてサタヤルカが指示を出すと、フィンランド兵たちは皆威勢よく声を挙げ、敵の予想もつかない様々な角度から飛び掛かっていく。

多くの敵兵がその中で恐れをなして何もできぬまま逃げ去っていくことが多い中で、そのとき目の前にいた男は迷わずこちらに向かって突進してきたことを、サタヤルカは驚きと共に迎え入れた。

剣を構える。迫る一撃。鋼のぶつかり合う音が響き渡る。

咆哮と共にサタヤルカは剣を振い、男を袈裟に斬り込もうと足を踏み込む。驚いた男は一歩後ずさるも、逃げ遅れた左腕が鮮血と共に宙を舞う。

声にならぬ叫びと共にその場に崩れ落ちようとした男を見て、サタヤルカはあってはならない安堵を感じていた。ゆえに、視界を塞いだ赤い霧の向こうから、もう一人の豪勇が迫ってきていたことに、気づいたときにはもうすべてが遅かった。

「――――」

腹部に感じる熱。喉の奥からこみ上げる鉄の味の塊。

意識が飛びそうになる中で、サタヤルカは自身の生涯を振り返る。

そして彼が護ってきた主君の名を。

 

「――ミッコ様、お元気で・・・トゥオネにて、パーヴォと共にお待ちしております。ゆっくりと、ゆっくりと・・・お越しください。」

 

 

サタヤルカ・コルホネン。

最初のフィンランド王、ミッコ・クルキの栄光の前半生における、最大の右腕であり、心の支えであった男は、36年の短い生涯を戦場にて終える。

 

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「――何だと」

戦場からの報告を、アートスから受け取ったミッコは珍しく狼狽した様子を表情に見せ、その肩を震わせた。

「戦い自体は順調です。その後、オウルの地で繰り広げられた敵主力との決戦においては、敵指揮官のダフゴンを討ち取った上、族長モホックの嫡男であるアイルーの身柄も拘束するという大勝利。もはや勝利は時間の問題と言ってよいでしょう」

「そうか・・・」

アートスの言葉にも、ミッコは心ここにあらずといった様子で返す。

相応の犠牲を覚悟する必要がある、と確かに開戦の前に告げられた。

それに対し、自分は「望むところだ」と言った。

森の悪しき精霊・アヤッタラは、そんな自分の傲慢に応える形で、最大の悲劇をもたらしたのだ。

 

で――あれば。

主君の瞳の色が変わったのを、アートスはすぐさま察した。

「――此度のサタヤルカ様の死の責任、部隊を指揮していたユヴベン様に問うこともできますが」

主君を試すかのように提案したアートスの言葉に、ミッコはすぐさまかぶりを振る。

「そのようなことはせぬ。此度の戦い、その勝利の最大の立役者は間違いなくユヴベンだ。獲得した領土はすべて、奴にくれてやれ」

「全軍は体制を立て直した後、すぐさま次の目標に向けて戦争の準備に入らせろ。次はエストニア地域のヒーウマーだな」

は、とアートスは恭しく頷き、場を辞する。

独りになったミッコは、少しの間だけ、瞼を伏せた。

 

次に目を開けたとき、そこに居たのは、常人とは少し異なる存在であった。

まさに、ウッコの化身であるかの如く。

 

「――俺の名は、噓つきヴァレヘテリアミッコ。

 もう二度と、本音は見せぬ。最後まで、その嘘を吐き続けようじゃないか」

 

 

第二話に続く。

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