1078年にイングランド王位を再びアングロ・サクソンの手に取り戻したモルカル王は、1092年に狩猟中の事故により唐突に命を落とした。
あとに残されたのは当時わずか9歳の息子エルヴガルであり、これを受けてこれまでモルカルの支配下に置かれていたノルマン人諸侯や、王位請求権を「奪われた」形となっていたマーシア公エドガーなどが次々と蜂起。
エルヴガルとこれを補佐するランカスター公エアドリックは首都エオヴォルウィーチを一次陥落させられるなど、窮地に陥っていた。
しかし、1095年春に行われたランカスター平原の戦いで国王軍が勝利したことによって形勢は逆転。
その年の11月にマーシア公の居城ウォリックが陥落し、妻子が囚われの身となったことでついに降伏へと追い込まれた。
その後は残りの反乱軍も鎮圧し、エルヴガルは危機を脱出。
さらに反乱首謀者たちへの処罰を最低限のものとし、かつ直後の全国行脚により彼らと親睦を深めるというエルヴガルの宥和政策によって、王国は再び安定を取り戻すこととなった。
その後スコットランド王の娘エマとの「グランドウェディング」を開催し、イングランド王としての威厳を内外に見せつけることも成功。
苦難に満ちた10代を経つつ、エルヴガルはイングランド王として確かに成長しつつあった。
そして1100年2月6日。
即位時から常にエルヴガルの傍に仕え、その苦難を救け続けてくれていた忠臣ランカスター公がついに没する。
ここからが、エルヴガルの本当の治世の始まり。
彼はランカスター公に誓った通り「偉大な王」となることはできるのか。
それとも・・・。
Ver.1.9.0.4(Lance)
使用DLC
- The Northern Lords
- The Royal Court
- The Fate of Iberia
- Firends and Foes
- Tours and Tournaments
使用MOD
- Japanese Language Mod
目次
第3回はこちらから
過去のCrusader Kings Ⅲプレイレポート/AARはこちらから
Victoria3プレイレポートはこちらから
虹の旗の下で 喜望峰百年物語:ケープ植民地編。完全「物語」形式。
パクス・ネーエルランディカ:オランダで「大蘭帝国」成立を目指す。
強AI設定で遊ぶプロイセンプレイ:AI経済強化MOD「Abeeld's Revision of AI」導入&「プレイヤーへのAIの態度」を「無情」、「AIの好戦性」を「高い」に設定
金の国 教皇領非戦経済:「人頭課税」「戦争による拡張なし」縛り
Victoria3プレイレポートの人気投票や気軽な感想はこちらから
承前:ウィッチェ朝第2代イングランド王エルヴガル1世の治世(1100年〜1119年)
世界から偉大なる魂が消えた年、冬の嵐の海の上でぼくは生まれた。
それはランカスター公を亡くした父エルヴガルが、神聖ローマ帝国皇帝ハインリヒ4世の誘いに応じ、アングリア公主催のトーナメントへと向かう旅の途上であった。
父はそのトーナメント会場で、一人の女性騎士と出会った。
彼女の名はアンナ。ランカスター公ほどではないながらも、当時の王国のあらゆる騎士を凌ぐ武勇の高さに父は惹かれ、早速彼女を自らの騎士として宮廷に招き入れた。
アンナの実力が確かなものであることはすぐに知れ渡った。
そして彼女は強いだけでなく、この上なく勇敢で、戦場においては常に先陣を切って敵陣に切り込み、誰よりも多くの敵を屠ってみせた。
それはまさに亡きランカスター公そのものであり、次第に父は彼女に惹かれ、その関係は主君と騎士という関係以上のものに変わっていく。
当然、その「隠し事」が永遠のものとなるはずもなく、やがてイングランド王の「不義」は公然の秘密として世の中に広がっていくこととなる。
それで父が反省したかといえば、そんなことはなかった。
彼はむしろより独善的となり、彼の求めるもの、欲するものをすべて我がものにしないと気が済まない男となっていった。
その極め付けが、6年前の徴税ツアーであった。
自身の評判が悪くなるに連れ、父は疑心暗鬼になっていき、自らの身の安全を固めることに執着するようになっていった。かつて幼い頃、反乱軍によって首都を攻め落とされ、命からがらに逃げ出した経験が、父のトラウマとなっていたようだった。
領国には砦を増やし、身辺には屈強な常備軍を配備する。
そのためには豊富な資金が必要で、その資金を集めるべく、彼は領国を周り追加の徴税の機会を探し求め始めたのである。
たとえば最初に訪れた弟のノーサンブリア公リャドウルフの所では、窓税なる新たな税金を創設し、搾り取れるだけ搾り取ろうと画策した。
さらに訪問のたびに追加の課税支払いを要求。それを拒否すれば罪に問うと脅しつけられたことで、諸侯はこれに従わざるを得なくなった。
ぼくはそんな父を見ながら育った。
王とはどのようなものか。それは苛烈で、暴力的で、そして・・・孤独なものであると。
ぼくはそんな王の後継者として育てられ、そして1819年の夏、イースト・アングリア女公エイヴリンとの結婚式を迎える。
猜疑心に陥った父はイングランド諸侯をすべてウィッチェ家の者で揃えようとしており、その一環としての婚姻であった。
今や、皇帝やフランス王に継ぐ家格となったイングランド王家の結婚式ということでその盛大さは目を見張るものとなり、内外への強烈なアピールとしてそれは執り行われた。
披露宴の最中、二人きりになった父は完全に泥酔した状態でぼくに話しかけてきた。
俺は、ランカスター公に約束した偉大な王となれただろうか。
今やその名声は世界に広がり、武力においても誰も対抗できるものはいない。
世界中に同盟を作り、やがて一族の血も誉高いものとなるだろう。
俺は偉大な王として、父やランカスター公のもとへと向かうことができるだろうか。
――言っている意味は分からなかったが、ぼくは父に笑顔で応えた。
「ええ、もちろん。父上は世界で最も偉大な王であり、それは誰もが認めることです」
父はその言葉に安心し、席の向こうへと消えていった。
それが、ぼくが見た父の最後の姿であった。
第4次イングランド王位継承戦争
ダンモウの戦い
王太子ガマルとイースト・アングリア女公エイヴリンとの結婚式中に巻き起こったイングランド王エルヴガル1世の突然の死は、イングランドの30年間の平和を打ち破るには十分すぎる衝撃であった。
結婚式に出席していた外国の要人たちは身の安全を最優先とし、すぐさまイングランドから離れることを選んだ。
イングランド国内の有力諸侯らもそそくさとエオヴォルウィーチを離れ、それぞれの領国で次なる動きに備える構え。
残されたガマルのもとにはマーシア公など一部の諸侯と身内しか残らず、その中で細々とエルヴガル王の葬儀、そしてガマルの戴冠式が行われ、その静謐さはこの先に備える混乱の予兆とも言える不気味さを伴っていた。
そして、11月3日。
それは、前王エルヴガルの弟であり、ガマルにとっては叔父にあたるノーサンブリア公リャドウルフによって宣言された。
曰く、「暴君」エルヴガルの治世を刷新し、新しい時代を築くため、自らが新たな王として即位するというもの。
そしてこのリャドウルフの宣言に対しては、元イングランド王のエセックス公ロバート2世、その従兄弟のノルマンディー公ヘンリー、ケント公ギルバート2世、ヘレフォードシャー女伯マウド、コーンウォール伯フェルヴェルディン、バークシャー女伯アドラ、オックスフォードシャー伯ジョン2世など、国内の最有力諸侯ら8諸侯が連名で賛同を表明した。
その総兵力は実に1万8千超。
その大義名分においても戦力においても、新王ガマルは絶対的に不利な地位に置かれていたのは間違いがなかった。
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「いやあ、大ピンチだね」
エオヴォルウィーチの王宮の玉座に座る若き王ガマルは、そんな風にして呑気な感想を述べた。
「それで、貴方は向こう側につかないんですか、マーシア公。先だっての父王の即位のときには、誰よりも強大な反乱軍を率いたというのに」
ガマルの言葉に、家臣団の先頭に控えるマーシア公は顔色ひとつ変えず応える。
「確かにかつて私は主君に剣を向けました。しかしそれに対し、エルヴガル様は慈悲をお返し頂いたのです。私にできることはただ、忠義でもってかつての借りをお返しするのみです」
「それは心強い限りだ。ここに残っている他の人たちも皆、正直この劣勢の中ついてきてくれるのは単なる損得勘定からではないだろう。心から感謝するよ」
そう言ってガマルが見渡した先には、マーシア公以外の有力諸侯が軒並みノーサンブリア公側についた中で、それでも「泥舟」に乗ることを覚悟した、真の忠臣たちであった。
「まさか、貴方も私の側についてくれるとは思っておりませんでしたよ。てっきり、お兄さんの方についていかれると思っていました」
そう言ってガマルが視線を送ったのは、エルヴガルの末弟であるウェスト・ライディング伯ベオルンリャド。27にして妻も娶らぬ変わり者だが、その武勇は本物であり、領国の統治よりも戦争を好む武人であった。
「実際、兄からは誘いはあった」
ベオルンリャドは不敵に笑う。
「しかし、お前の方についていった方が色々と楽しめそうだったからな。期待してるぞ」
ガマルは苦笑し、改めて一同を見渡した。
各諸侯の背後には、所領こそ持たぬもののその腕一本で名声を上げてきた誉れ高き騎士たちも並んでいた。
元イングランド王ハロルド2世の嫡男にして、今や王国最強の誉れ高いハロルド・オブ・ゴドウィン。
北イタリアからやってきた勇者トンマーゾ・ダ・ヴェルッキオ。
「イングランド最高の騎士」の称号を与えられしオスベルン・フィッツオズボーン。
そして・・・「罪人」にして、天下無双の女騎士アンナ。
錚々たる顔ぶれが立ち並ぶ中、ガマルは満足気に頷いた。
「君たちがここにいてくれることで、たとえ圧倒的劣勢であっても安心できる。それでは、この不利を挽回してみせようじゃないか。
マーシア公、下知を」
頷いたマーシア公は早速、一同に作戦を伝達する。
まず、現時点で戦力差は、ガマルの母であるスコットランド女王エラの軍を含めても王国軍は総兵力1万5千ちょっと。反乱軍に対して数的には不利な状況にある。
一方で緒戦は烏合の衆である反乱軍は、総数ではこちらを上回っていたとしても実際にはそれらがバラバラに存在。各個撃破していくことが勝利の鍵となる。
南部の諸都市が陥落してしまうのは甘んじて受け入れ、まずは北部で孤立しているノーサンブリア公軍を打ち倒す。
1120年2月16日。
海に逃れ南部の反乱軍と合流しようとするノーサンブリア公軍をホワイトヘヴンの丘陵地帯で捉え、会戦。
キルレシオ10倍以上の大勝利の末に、敵の指揮官であるアンドリュー・ド・キャンヴィルも拘束。
こちらの損害を最小限にしつつ敵方の兵数を着実に削り取っていく。
一方、反乱軍の残りの側も同様の状況に陥らぬよう、できるだけ固まって行動するよう心掛けているようだ。
1120年5月。
包囲された諸都市の解放のため南下してきた王国軍が目の当たりにしたのは、ハンプシャー女伯の領土を燃やし尽くす反乱軍の姿であった。
総勢1万5千弱の主力軍が一堂に会しており、ここに王国軍8,650だけで突っ込んでいくのはあまりにも自殺行為。
かといって、せっかくの同盟国の土地が蹂躙されるのを、ただ眺めているわけにはいかない。それこそが、反乱軍の狙いなのだから。
そこで、マーシア公は一計を案じる。
マーシア公自ら率いる部隊で反乱軍の最大勢力であるエセックス公ロバート2世の本拠地であるロンドンを包囲。
これを無視できないエセックス公の軍が解放のために近づくと、マーシア公は軍を後退させ、エセックス公軍は追撃を開始する。
これこそがマーシア公の狙いであった。
両脇を森で囲まれた隘路へと逃げ込む王国軍。マーシア公の巧みな指揮のもと、その行軍は一糸乱れぬ整然としたものであった。
対するエセックス公軍は統率が取れておらず、追撃すればするほどその隊列がバラバラになっていく有様。
その様子を見てとったマーシア公は合図を送り、それに応じて両脇の森から現れた伏兵がエセックス公軍に一気に襲い掛かった。
一時的な数的有利を手に入れる王国軍。
もちろん、まもなく反乱軍の後詰めが合流してくるものの、その時間差を利用して擬似的な各個撃破を狙っていく。
森の中の隘路という地形を生かしたマーシア公の戦略の前に、反乱軍も少しずつその勢力が削られつつあった。
だが、反乱軍もただやられているばかりではなかった。
ノルマンディー公ヘンリーの臣下である、勇気ある騎士ピーター・フィッツピーターが、少数の手勢を引き連れて混乱する反乱軍の隊列から離れ、森の中を密かに突き進んでいく。
そして太陽が傾きつつある戦闘の終盤戦において、彼らは夕闇に紛れて王国軍の本陣へと突入し、そのまま前線に出て兵士たちを鼓舞していたマーシア公へと襲い掛かった。
指揮官の死は、一気に王国軍を恐慌状態へと陥らせた。
残った指揮官たちが慌てて体制の立て直しを図るも、彼らができる精一杯は、少しでも損害を減らしながら安全に退却することだけであった。
かくして、王国軍による一大反抗作戦となるはずであったダンモウの戦いは、マーシア公の死という思いがけぬアクシデントにより大敗という結果に導かれた。
時は1120年8月11日。
第4次イングランド王位継承戦争はノーサンブリア公有利のまま後半戦へと突入していく。
リンジーの戦い
1120年12月30日。
ダンモウの戦いで大敗を喫した王国軍は、散り散りになった兵士たちを首都エオヴォルウィーチに集め直し、体制の立て直しを図ろうとしていた。
だが、これまでは多くのイングランド人が認める存在であったマーシア勇敢公の忠心の下まとまりを見せていた王国軍も、その支柱が失われた今、それぞれの思惑が入り乱れ意志の統一が図れずにいた。
それこそ最初はガマル支持を表明していたハンプシャー伯やワイト伯も、南部の彼らの所領が反乱軍のなすがままにされている中、その救援にも向かうことのできない王国軍の中に留まり続ける意味を見失いかけていた。
今まさに、ガマルは危機に立たされていた。もはや、叔父ノーサンブリア公への臣従しか、道はないのか?
そんな雰囲気に包まれていたエオヴォルウィーチに、とある来客が訪れる。
それは亡き勇敢公の遺児であり、マーシア公位を継承したガマル・オブ・ウェセックス。そしてその摂政を務めるウスターシャー伯ピーターの一行であった。
ノーサンブリア公らの蜂起のあと、暫くは中立の立場を取り続けていた彼らであったが、マーシア公の死を受け、その友人でもあったウスターシャー伯は彼の意志を受け継ぐことを決意。この王国の危機に駆けつけてくれたのである。
しかも、彼らは強力な援軍も連れてきてくれていた。彼らの所領であるウォリックシャーを拠点とする傭兵団「白衣隊」とその団長である希代の軍略家アーサー。モルカル王やエルヴガル王を輔けその王国統一に大きく貢献した伝説の軍師アダムに匹敵する才能の持ち主と言われている男だ。
ガマル王は彼らを心から歓迎し、その後の王国軍の指揮をアーサーの下に統一することを決定。
マーシア公ガマルとイングランド王ガマルによる、この「両ガマル同盟」による、反乱軍への反撃が開始されていく。
まず、先のダンモウの敗戦について振り返る。
総指揮官のマーシア公が討ち取られたことが敗北の決定的な原因ではあったものの、それ以外にも敗北の理由はある。
軍の数の差を除けば、その最たるものとしては反乱軍の持つ「長弓兵」の存在。イングランド人が中心となる彼らには、アングロ・サクソン人中心の王国軍にはない長弓兵の存在が、数多くの犠牲を生み出す最大の脅威となっている。
これに対抗すべく、アーサーは急ピッチで軽騎兵の大量準備を進める。そのうえで、彼らが有利な「平原」での決戦を狙うことに決める。
当然、反乱軍側もそこは警戒し、簡単にはいかないだろう。
敵軍を引きつける必要がある。
そのためには、「囮」が必要だ。
誰が囮になるか。
敵を引きつけ、時間を稼ぐ役。危険で、しかし実力も求められる。
その必要性に思い至ったものの、その上で誰がそれを担うかについて結論が出ぬまま、机を囲んだ将軍たちは押し黙ってしまった。
その中で、一人の騎士が手を挙げた。
「私が行きます」
それは、「罪深き」女騎士、アンナであった。
実力は申し分なかった。そして、守るべき家もなく、子は一人いるが今は疎遠と聞いている彼女は確かに適任ではあった。
その場を埋め尽くす男たちはこの申し出に何も言えず、ただ、沈黙の同意だけがあたりに漂った。
作戦の概要は以下の通りだ。
イングランド南部の主要都市をあらかた制圧した反乱軍がエオヴォルウィーチに向かう上での途上となる平原の城リンジー。
ここに、騎士アンナに率いられた勇敢なる兵士たち584人が集い、迎え撃つ。
警戒していた反乱軍たちも、寡兵であるとの情報を得て、この城に攻め込むことを決定する。
「どうやら国王軍主力は後方のエオヴォルウィーチに逃れたようです。リンジーはもはや捨て置かれたも同然です」
「よし・・・この城を陥とし、エオヴォルウィーチ制圧の足がかりとする」
元イングランド王でエセックス公ロバート2世は、自らの手勢5,000超でこのリンジーの包囲を開始する。
今回の反乱軍で最大勢力を誇るロバート2世は、反乱の成功の暁には派閥の主導権を握れるはずであった。今回はまずはウィッチェ家のリャドウルフに花を持たせてやるが、その後必ず、王位をノルマンディー家に取り戻す。ロバート2世はその使命感を持ち、戦後の発言力の確かな確保のために、功を焦ってもいた。
しかし彼らはアンナ率いる精鋭兵たちの思いがけぬ抵抗に苦戦していた。
そして、全軍がリンジー城陥落に集中するしている間、いつのまにかこの平原の城の周囲に総勢1万人超の王国軍が控えていたことに、気が付いたときにはすでに手遅れだった。
「間に合ったか・・・陛下、御加護を頂き、感謝申し上げます」
アンナは城の奥で幾重にも重ねられた仲間たちの死体に囲まれながら、安堵のため息をもらした。
指揮官アーサーの号令のもと、一斉に飛びかかる500超の軽騎兵軍団。エセックス公の誇る1,400人の長弓部隊がこれを撃退すべく弓を構えるも、遮るもののない乾いた平原を駆け抜ける騎兵たちの速度はあまりにも速すぎた。
あっという間に長弓部隊は蹂躙され、槍兵軍団が対応のため前線に出てくるとただちに騎兵隊は散開し、代わって精鋭ハスカール800人と白衣隊の重歩兵400人の部隊がこの槍兵軍団を打ち倒していった。
アーサーの指揮の下、高い士気を持った王国軍は一糸乱れぬ動きで次々とエセックス公軍を削り取っていく。それは、マーシア公への弔い合戦でもあった。
同盟の中核たるエセックス公軍の瓦解を恐れ、反乱軍は次々と戦闘に参加していくが、それこそがアーサーの狙い。
戦力の逐次投入を行う敵軍を、次から次へと撃退していく。
戦いは日没間際まで続き、戦場から逃げ出そうとする敵兵を騎兵隊が追いかけ、回り込み、殲滅していく。
最終的には4,218人もの犠牲者を敵軍に出し、このリンジーの戦いは王国軍にとってまさに逆転の端緒となる大勝利に終わった。
その後は別々の方面へと潰走する反乱軍を追いかけ、それぞれの地方で各個撃破していく。
反乱軍側はもはや勢力を保てないほどに崩壊し、抵抗する術は失われていった。
そして1122年11月27日。
限界を迎えた反乱軍側の実質的な指導者であるエセックス公が敗北を認めたことで、このウィッチェ朝最大の危機であった第4次イングランド王位継承戦争、またの名を「ノーサンブリア公の乱」と呼ばれる戦役は終焉を迎えた。
そして、ガマル王は戦後処理を開始する。
エピローグ イングランドの王として
ガマル王は父エルヴガルとは異なり、「慈悲深い」君主ではなかった。彼は反乱に加担した8諸侯すべての領土を例外なく剥奪し、戦功のあった各諸侯に配分した。
そして領土を奪われた諸侯たちに対しては、良くて国外追放。
悪い場合には・・・例えば異端のロラード派を信仰していたエセックス公ロバート2世やウスターシャー女伯マウドに対しては、処刑という方法でこの世からの追放を処断した。
そして反乱の頭目であった叔父リャドウルフは――。
薄暗い地下牢の廊下を踏みならす靴の音を耳にして、リャドウルフは力なく顔を上げた。
そこには甥のイングランド王ガマルの姿。
環境の悪い牢獄での生活により病魔に蝕まれつつある彼は、虚ろな表情でガマルを見つめながら、半開きになった口からは何も言葉は発せられなかった。
「誰に対しても優しく、誰からも愛され、そして『慈悲深い』という異名まで与えられた人望もあるあなたが、なぜ敗北したのか、ぼくもよく考えてみたんですよ」
ガマルの言葉に、リャドウルフは何も反応しない。もはや、彼は自らの運命のすべてを諦めていた。
「ぼくの父――貴方にとっては兄にあたる――もまた、その治世の前半においては同様にその慈悲によって尊敬されていた人物でした。しかし、最期は結果、ああいう形になってしまった」
闇を背景に立つガマルの傍らには誰もおらず、彼はたった一人で今、目の前の叔父と対峙していた。
「それが、このイングランドという地なのです。この地を治めるということは、慈悲や正義、あるいは力だけではどうしたって治めきれない。ここには常にカオスが存在し、動乱は必然となり、永遠の闘争が宿命づけられている。
で、あれば、ぼくはその混沌を引き受けましょう。愛と憎しみ、闘争と平和――すべての矛盾した感情を一身に引き受け、体現していくこと。これが、このイングランドの『王』として唯一相応しい姿であり、宿命であると、ぼくは確信しています」
ガマルの独白に、応えるものはいない。
ガマルもそれは期待していなかったのか、力なくこちらを見据えるリャドウルフの姿をしばらく見つめ返した後、踵を返しその場を立ち去った。
その2か月後、リャドウルフが地下牢の中で息絶えていることが発覚した。
すべての矛盾した感情を引き受けた王――ガマルは自らの言葉通り、慈悲深さと冷酷さとを併せ持つ統治のためのマシーンとして振る舞い続けた。
彼は自らに味方し、貢献したものに対しては多大な恩賞を与え、重用する一方、敵対する者に対しては苛烈に振る舞い、容赦なく対応した。
彼は多くの忠臣を抱え持つ一方、「恐怖」によって統治し、イングランドは以後反乱の起きない平和の期間を過ごしていくこととなる。
そして時が流れること――1153年。
寒冷なブリテン島の地にも、少しずつ夏の香りが近づきつつあったその頃、ガマルの母であるスコットランド女王エラが73歳で天寿を全うした。
これによりガマルはスコットランド王国を相続し、グレート・ブリテン島のほぼ全滅を支配するイングランド=スコットランド連合王国が成立する。
ガマルはただちに「合同法」の制定を始め諸法の整備を進めたのち、このブリテンを統一する強大な支配圏たる「ブリタニア帝国」の創設を宣言する。
皇帝即位の宣誓式の途上、皇帝ガマルの親友にして第一の側近、帝国内の最大領土を有するマーシア公兼ランカスター「善良公」ガマルは、皇帝ガマルに対し話しかける。
「これでいよいよ、ブリテン島も安泰か。この100年間、常にこの島は騒乱に包まれていたが、それも君たちウィッチェ家によってようやく平穏の日々がもたらされるわけだ」
善良公ガマルの言葉に、しかし皇帝は静かにかぶりをふる。
「そう簡単ではないさ。結局、そのときの王がどれだけ敬われ、あるいは恐れられ、平穏であるかのように見えていたとしても、その次の世代に代わったときに一気に崩れていってしまう。今までもずっと、それが繰り返されてきた。ぼくが今死んだとしたら、結局は同じ混乱が待ち受けている」
「だからまだ死ねないね。この帝国の繁栄を永遠のものとするためにも、まだ生きてやらなければならないことがある。マーシア公、まだしばらく、手伝ってもらうよ」
「もちろん、任せてくれよ。ランカスター公、そしてマーシア公から続く、ウィッチェの守護者としての使命を俺も継承していこうと思うよ」
善良公ガマルの笑顔と言葉に、皇帝ガマルはめったに人前では見せない、安心したような笑顔を浮かべた。
イングランドは、久方ぶりの平穏を取り戻した。
1066年の征服王ウィリアムによる侵攻以来、いやあるいはその前のヴァイキングの侵入以来、あるいは戦乱の七王国時代以来の、平穏と安定がもたらされるような、そんな雰囲気がこのブリテンに住む人々の中で少しずつ共有されようとしていた。
果たして、その雰囲気は真実となるのだろうか。
「イングランドを継ぐもの」は、このウィッチェ家で永遠に固定されるのだろうか。
その結末は、まだ分からない。
ただ、ひとまずここでこの物語の筆は置こう。
栄光のブリタニア帝国。
その繁栄と、願わくば、それが永遠に続くことを願って・・・。
fin.
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