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【Crusader Kings Ⅲプレイレポート/AAR】イングランドを継ぐもの 第3回 ウィッチェ朝第2代イングランド国王エルヴガル(1092年~1100年) 

 

1066年に巻き起こった第1次イングランド王位継承戦争は、フランスのノルマンディー公ウィリアムの勝利によって幕を閉じた。

しかしこのとき敗北したハロルド2世の臣下であったノーサンブリア公モルカルは復讐を誓い力を貯め、ウィリアム死後混乱したノルマンディー家の内紛を利用して王位を主張。ウィリアムの嫡孫ロバート2世とその叔父のノルマンディー公リチャード4世との三つ巴の「第2次イングランド王位継承戦争」はモルカルに軍配が上がった。

新たな王朝を立ち上げたモルカルは、その繁栄を永遠のものとすべく、国内統治と外交政策、そして一族の繫栄のための施策を次々と実行に移す。

それも一段落し、ようやく一息つける頃合いになったかと思い、気の知れた側近たちと共に冬の森に狩りに出かけた彼は、そこで不慮の事故によって重傷を負い、やがて治療虚しく帰らぬ人となってしまう。

遺されたエルヴガルはまだ9歳と若く、国内は偉大なる王の喪失によりにわかに不穏な影が漂い始める。

 

未だ、イングランド王位は安定せず。

果たして誰が、「イングランドを継ぐもの」となるのか。

 

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目次

 

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開戦

1092年5月10日。

父王の死によって突如イングランド王として即位したエルヴガル

しかしまだ9歳ということで、父が最も信頼を寄せていた忠臣たるランカスター公エアドリックが摂政として政務を取り仕切ることに。

生まれた直後は病弱で先が長くないと思われていたエルヴガル。その内反足も身体的ハンデであったが、武勇に優れた父モルカルが自ら教育する中で、そのハンデを克服する屈強さを手に入れるようになっていた。

勇敢だが怒りっぽく野心的である「野人」エアドリックは、同じく勇敢で野心的なモルカル王とは古くからなじみがあり親友同士の間柄であった。その武勇はブリテン島随一でありかのエル・シッドをも凌ぐと称されるほど。しかし年を重ねるごとに落ち着きを得つつあり、そして主君の死に際し、その遺児を誠実さでもって守らんとすることを心から誓った。

 

問題は山積であった。

何しろ、元々のノーサンブリア公支配地であったイングランド北部はともかくとして、南部はノルマンディー公の臣下たちが征服し、そのまま数十年に渡り勢力を維持していた土地。

前王モルカルは国内の統治を最優先し彼らの権限をそのままにしていたが、このあまりにも早すぎる王権の混乱は、彼らが反旗を翻すのに十分すぎる口実を与えていた。

 

そして、案の定、その予感は的中する。

1093年8月19日。

エルヴガル即位から1年ちょっとで、国内で5番目に有力な封臣であるケント公ギルバートから王位の要求。

当然ランカスター公はこれを拒否し、ケント公が主導する総勢4,539名の反乱軍が蜂起する。

反乱軍の内訳は以下の通りである。

  • ケント公ギルバート(総兵力1,911名)
  • イースト・アングリア公リチャード(総兵力1,146名)
  • ウスターシャー伯ヘレアウェルド(総兵力865名)※王位請求者ダービー伯の実父
  • コーンウォール伯ウィリアム2世(総兵力779名)
  • ドーセット伯ニコラス(総兵力640名)
  • バークシャー伯アンセルム(総兵力618名)
  • ワイト伯クリストファー(総兵力502名)

 

イングランド南部の諸侯らが結集したこの勢力は、王位請求権者としてグロスター家のダービー伯オズムンドを擁立している。

しかし当然このダービー伯は王位を請求するためのまっとうな権利も実力もない。ただ担ぎ上げられただけでケント公らの目的は自分達が容易にコントロールできる王を擁立したうえで自分達の権力を最大化しようとする試みであることは明白であった。

マーシア公の臣下でもある彼はそもそも今回の戦争に参加すらしていない。

 

本来であれば前々代のイングランド王でもあったロバート2世を擁立したかったところなのだろうが・・・国内第3位の勢力を誇るエセックス公ロバート2世は、今回の反乱に対して加担も反対もしない中立の立場を堅持する道を選んだ。

 

単純な勢力差だけであればイングランド王軍は劣勢。

しかしランカスター公はすぐさま、エルヴガルの婚約者であるエラの父、スコットランド王マルコム4世に連絡を取り、その参戦の承諾を得ることに成功する。


ただちにランカスター公は王国最強の軍師アダムに兵を率いさせ、まずはダービー伯の父であるウスターシャー伯の所領を攻め、これを陥落させる。

敵兵を殲滅し、主要な騎士を捕えるなどし、敵勢力を確実に削っていく。

 

続く11月にはウィルトシャーでも1,000人近い反乱軍を殲滅するなど快勝。

この戦いでは密偵長を務めるハンプシャーの家臣である軍師ロバートが活躍。こちらもうちのアダムに負けない軍略家である。

父王の時代から密偵長を務め続けていたこのハンプシャー伯ラルフは、ランカスター公にとっても正直何を考えているかよく分からない得体の知れない男であった。しかしその実力は間違いなく、今回も反乱軍の主要人物たちの秘密を次々と暴き、提供してくれている。

 

順調に反乱軍を各個撃破していく王国軍。

いよいよ、敵の主力であるケント公の軍との直接対決の瞬間が訪れる。

序盤は数の差こそあれど連合軍を形成する反乱軍陣営は騎士の数が多く、ほぼ互角の戦いで推移していく。

しかし途中でマルコム4世自ら率いるスコットランド軍3,732名が援軍として駆けつけ、形勢は一気に逆転。

最終的には損害はこちらの方が大きかったものの勝利。

反乱軍主力を打ち負かしたことで、あとは一方的にこちらが有利な状態に持っていける、そう、思っていた。

 

しかし、安堵していたランカスター公のもとに、信じられないような報告が届いたのは、その勝利のわずか1週間後の出来事であった。

 

 

裏切り

1094年1月22日。

東方のエセックスの地にてケント公軍と国王軍とが激しい衝突を繰り広げていること、そして西のウスター城が半年間にわたる籠城戦の末に陥落し、反乱の首謀者の1人であったウスターシャー伯が捕らえられたことなどを聞き、いよいよ彼は動き出すべきときが来たと判断した。

マーシア公「勇敢なる」エドガー。エドガー・アシリングとも呼ばれていた彼は、エドワード懺悔王がその死に際して王位継承者として指名した人物であったが、当時まだ若年に過ぎなかった彼の即位に反発した諸侯によって、ゴドウィン家のハロルド2世が新たな王として即位した。

その後、ハロルド2世の臣下であったノーサンブリア公モルカルはエドガーの新たな主君となり、二人は固い信頼で結ばれるようになった。

そして1077年4月10日。

モルカルはときのイングランド王ロバート2世に対し、本来の王位継承権がエドガーにあることを主張して宣戦布告。

そのときエドガーは主君モルカルに自らの継承権を譲り渡すことを宣言し、代わりにマーシア公という、王国筆頭の領土と地位を与えられることとなったのである。

 

しかし、一方で彼は、「本来彼が手に入れられるはずであった」より高い地位について、思いを巡らせることも次第に多くなっていった。

やがてその野心が思わず漏れ出てしまったとき、モルカルから贈られた手紙が彼の決断を決定的なものとしたのである。

 

我が信頼するマーシアエドガー殿へ

 

私はあなたにこの手紙を書くことに躊躇しましたが、あなたへの信頼と友情から、正直に心の中を打ち明けることにしました。最近、あなたが私に対して不満や不信を抱いているという噂を耳にしました。それは私があなたからイングランド王位を奪ったということでしょうか。もしそうだとしたら、私は深く傷つきます。私はあなたが本来そのように思っているはずがないと信じています。

私はあなたをただの家臣ではなく、親友や兄弟のように思っています。私たちは共に戦い、苦難を乗り越えてきました。私はあなたが正統な王位継承者であることを知っていましたが、あなた自身がその継承権を私に譲り渡すことを宣言したではありませんか。それはあなたの自由意志でした。私はその意志を尊重し、イングランド王として即位しました。しかし、私は決してあなたを見捨てたり裏切ったりしませんでした。私はあなたにマーシア公位と王国家令の地位を与えました。私はあなたと力を合わせてイングランドを統一し、平和と繁栄をもたらすことを夢見ています。

もしもあなたが私に不満や不信を抱いているのなら、それは誰かが私たちの間に亀裂を入れようとしている悪意ある陰謀だと思います。私たちはそんな陰謀に惑わされてはいけません。私たちは互いに信頼し合い、協力し合わなければなりません。私はあなたが今も昔も変わらず私の親友や兄弟であることを信じています。どうかそのことを忘れずにいてください。

 

あなたの友であり兄弟であり王である

モルカル

「独善的」なモルカルは、思い悩む臣下の心の裡を正確に覗くことはできなかった。

 

エドガーは決意した。

しかしすぐには行動に移しはしなかった。しばらくは変わらぬ忠臣としてモルカルに仕え続け、機を待ち続けた。

そして1092年5月10日。その瞬間が訪れたのである。

モルカルの急死。

そして、その遺児エルヴガルの摂政となったのが、エドガーではなく、彼よりも低い地位しか与えられていなかったはずのランカスター公エアドリック。

 

エドガーは行動を決意し、準備を進めた。1093年8月にケント公が蜂起したときも、これにすぐ同調することはしなかった。ケント公とランカスター公が互いを削り合っている隙に・・・。

彼らが主にイングランド南部に軍を展開し激しいつばぜり合いをしていることを見て取ったエドガーはいよいよ行動を開始することにした。

 

全ての準備を終えた彼は、最後に、自らの妻ウルフスリュスに話をする。

彼女はランカスター公の娘であった。

「ウルフスリュス・・・」

「分かっております、殿下。貴方がこれから、自らの運命をかけた大いなる戦いに赴くのだということは。私は貴方の妻にして最大の臣下です。私の心の準備もすでにできており、ただ貴方に従い、付いていくだけです」

「それは、おまえの父ランカスター公に剣を向けることも意味する」

「ええ。だから何だというのです? 確かに私はランカスター公の娘です。しかし一方で、今の私はマーシアの「勇敢公」エドガーの妻でもあるのです。私はウェセックス家の女として、その子らの母として、成すべきことを成す、その決意ができております。それが、「野人」と称された王国随一の騎士エアドリックの娘としての矜持です」

 

思いがけぬ妻の言葉と決意に満ちたまなざしとに、エドガーは自らを押さえつけていた最後の箍が外れる思いがした。

 

そうだ、私はやらねばならぬ。

一族のため、そして自らについてきてくれる家臣のため、何よりも家族のためにも――。

 

 

1094年2月18日。

エセックスの戦いを勝利で終えたばかりのランカスター公のもとに、その報せは届いた。

マーシアエドガーの蜂起!

ヘレフォードシャー女伯・オックスフォードシャー伯も含めたその総数は5,000超!

各地から集まった反乱軍は現在、手薄のウスターシャー及び首都エオヴォルウィーチに向けて真っ直ぐに進軍中となります!

 

陣幕の中で報せを受けたランカスター公は、怒りのあまり手元の軍配を力任せにへし折ってしまった。

卒倒してしまいそうな感情の高まりと「なぜ?」という疑念の渦をすべて抑え込み、立ち上がったランカスター公は周囲の家臣らに命令を下した。

 

総員、ただちにエオヴォルウィーチに急行せよ。

恥ずべき大罪人、神への裏切り者を、決して生きて帰らせるな!!

野営地中に轟いたそれは、まさに野獣のような咆哮であったという。

 

「第3次イングランド王位継承戦争」は、新たな局面を迎える。

 

 

決戦

イングランド南部から北部のエオヴォルウィーチ(現ヨーク)まで。

道中、新たな第3者の介入により勢いを吹き返したケント公軍の横やりに注意警戒をしながらの強行軍は、それでもエオヴォルウィーチに到着するまでに4か月近い時間を要してしまい、その間に手薄のウスターシャー、そして首都エオヴォルウィーチはともに陥落してしまっていた。

国王エルヴガルは無事側近の手によって脱出できたものの、姉のアガサが捕らえられ、幽閉されてしまう事態に。

リンカーンの地でエルヴガルと合流したランカスター公は逸る気持ちを押さえつつ、次なる対策を検討する。

 

エオヴォルウィーチを陥落させたマーシア公軍の次の手はそのまま西方に向ったところにあるランカスター公の本拠地であるのは間違いないだろう。

エオヴォルウィーチ防衛用にある程度の軍をおいたうえで、残った兵をそちらに差し向けているはずだ。

向こうもまさかこちらがケント公軍に対する兵を残さずに向かってきているとは思うまい。

エオヴォルウィーチの奪還は一旦後回しにし、今はマーシア公軍の主力を叩き潰すことを優先する!

 

そして1095年春。

ランカスター城を包囲する5.000弱の兵を、イングランドスコットランド同盟軍6,000超で強襲。

この戦い最大の決戦となる「ランカスター平原の戦い」が幕を開ける。

ランカスター公は自ら馬にまたがり戦場の中心を先頭で突き進む、往時の姿を再び披露。結果、1人で121名もの敵兵を屠るなど、「野人」の名に相応しい戦果を遂げた。

その勢いに押され多くのマーシア公軍が戦場から逃亡、あるいは降伏し、戦いは王国軍の完勝という形で決着した。

 

ほうぼうの体で戦場から脱出したマーシア公は、手勢を引き連れてケント公らと合流するべく東方へと逃走。

一方、ランカスター公率いる王国軍は、そのまま南下してマーシア公の本拠地であるウォリックを目指す。

狙いに気が付いて引き返してきたマーシア公軍をイースト・アングリアの平原で打ち負かし、

ついに11月2日。

ウォリック城を陥落させ、マーシア公の妻ウルフスリュスと息子ベオルフトノスとを捕えるに至った。

 

これが決め手となり、マーシア公もついに降伏を選択。

主君を裏切った大逆人として、妻子もろとも牢に入れられることとなった。

 

あとは、ケント公軍だけである。

マーシア公に対峙すべく全力をそちらに傾けていた関係でいくつかの城を奪い返されるなどして息を吹き返していたケント公軍であったが、エルヴガル王の姉シフリャドの嫁ぎ先であったアキテーヌ公ペラニュゼドがついに説得に応じて援軍を出してきてくれ、これが南部海岸に上陸したことで趨勢は決した。

 

かくして、1097年1月2日。

3年半に及んだこの「第3次イングランド王位継承戦争」は、現イングランド王エルヴガルの勝利という形で幕を閉じた。

 

だが、実質的に内乱であったこの戦いの「後処理」もまた、非常に重要であった。

 

 

慈悲と融和

1097年1月22日。

蜂起を決断したあの日から丸3年が経過したことを、獄中のマーシアエドガーは何となしに思い耽っていた。

後悔はしていない。むしろこの選択を取らなかったときの方がおそらく後悔していたであろう。ただ、力が足りなかった。その結果、一族の悲願が自らの失態によって失われることに対する、自責の念だけが日増しに強くなっていた。

だが、もうすべては終わったことだ。

エドガーはもはや、すべてを諦める境地に立っていた。

 

そんな彼の下へ近づいてくる足音。

力なく顔を上げると、そこには義父であるランカスター公と14歳になったイングランド王エルヴガルの姿があった。

(暫く見ぬ間に・・・これほど立派になって)

エドガーはエルヴガルの中に、かつて確かに彼が敬愛し、実の兄のように慕っていたモルカルの面影を見た。

マーシア公、覚悟はできているな」

ランカスター公が厳しく、厳かな声色で語り掛ける。そこには当然のことながら親族としての慈しみも同情もなく、そしてエドガー自身もそれは望んでいなかった。

「ええ。すでに我が妻子の無事は約束され、解放されている今、この身に何が起ころうとも抵抗はございません」

エドガーは死罪を覚悟していた。良くて所領没収の上での収監の継続、ないしは国外追放。事実、それだけのことをしないと、示しがつかないのは確かだろう。一族皆殺しとなってもおかしくないだけに、妻子が無事であれば、どのような処罰も甘んじて受け入れるつもりであった。

「それでは」

と言いかけたランカスター公を、エルヴガルが遮った。

「待ってください、ランカスター公」

エルヴガルはエドガーの前に立ち、その目をまっすぐと見据えた。

マーシア公、貴殿の力を、再び私に貸して頂けるおつもりはありますか?」

思いもよらぬ言葉に、エドガー以上に隣のランカスター公が驚いた表情を見せていた。

「もしそうであれば、罪には問いません。領土の削減も致しません。イングランド王位への野望は捨てることを条件に、再びイングランド王の右腕として、その力を揮っていただくことはできませんか?」

「陛下、お言葉ですが、無条件で、というのは承服しかねます。他の者への示しもつきません。領土の一部でも没収し、功労のあった者たちへの配分をするくらいでなければ・・・」

「では、賠償金と封建契約の修正くらいはすべきかもしれませんね。しかし領土没収は行いません。イングランドは広く、これをよく治め外敵からも守るためには、有能で忠実な家臣の存在が欠かせません」

再びこちらを向いたエルヴガルの瞳はエドガーの心に突き刺さり、彼は初めて、今回の行為への後悔の念を感じ始めていた。

マーシア公、父はよく、あなたのことを実の弟のようであると語っておりました。であれば、貴公は私にとっては、叔父のようなものであります。これからもその力と知恵とをもって、イングランドの発展のために尽くしてほしい」

エドガーは俯き、肩を震わせながら、しばし言葉に詰まったうえで、承諾を返答した。

ランカスター公はその一幕を眺めながら、やれやれと肩をすくめた。

(陛下は父王のような勇敢さは欠けてはいるが、代わりに実に慈悲ぶかい。君主としてそれは足枷にしかならないと思っていたが・・・)

目の前で涙を流し、反乱前より一層忠義心を厚くしているであろうエドガーの姿を見て、これもまた、君主としての素質なのかもしれないな、とランカスター公は思い至った。

そして彼自身もまた、この結末にどこか安心している自分がいることに、何となく気付いていた。

 

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エルヴガルはその後、マーシア公のみならず今回の反乱に加担したすべての封臣に対し、即時の釈放を宣言した。

一応、釈放に際しての賠償金支払い、もしくは封建契約の修正により高税率の義務を課せるなどの条件はつけたものの、領地も一つも奪われることなく無罪放免となった。

 

ただ、これだけの処置をしても、エドガーのように心を入れ替えて忠義を厚くする者たちばかりではない。

また、反乱には加担しなかったエセックス公やノルマンディー公などのノルマンディー家の者たちも、いつ同様の反乱を起こすかわかったものではない。

 

そこで、エルヴガルが次の一手として考えたのが、イングランド全土を巡る「グランドツアー」の開催である。賠償金によって得た資金を利用して盛大なツアーを開催し、臣下と領民の支持を集めようという算段である。

ゲーム的なことを言うと、まだ成人していない身で臣下の評価を上げようとするとこの方法くらいしかないというのもある。

 

首都エオヴォルウィーチのあるノース・ライディングから出発し、コーンウォールや大陸にあるルーアンを含め、イングランドのほぼ全域を巡る一大旅行は、危険なルートをできるだけ回避することもあり10カ月に及ぶ壮大なものとなるだろう。

もちろん、森や沼地を避けたとしても危険は多くある。とくに避けられない目的地の周辺に森林が広がっていたり、そもそもそこの領主が現時点でこちらに対して不信感を持っていれば、何が起きるかわからない。

ランカスター公はエルヴガルに対して苦言を呈するも、わかったわかったと言って聞き入れない。それは予想していたことなので、仕方なく護衛の傭兵を雇うことと、優秀な旅の世話役をつけることを条件に旅立ちを許可することとなった。

 

そしてこの旅は成功を収める。

最初に訪れたマーシア公のもとでは、その妻にしてランカスター公の娘であるウルフスリュスとの会話となり、明るい話題を振ったことで彼女だけでなくその場にいたすべての人たちからも称賛された。

さらに良い感じに酔っぱらっていたマーシア公がなんだか変なケーキ?のようなものを持ってきたりもしたが、彼なりの誠実さの表れなのだろうと理解して無理して食べたりもした。

まさか手作りか?

 

マーシア公とは朝まで飲み、語り合い、そして友情を深めた。牢の前で語った、叔父と甥のような関係に、我々はきっとなれるだろう。

 

懸案であった元イングランド王、ノルマンディー家のエセックス公ロバート2世との関係も、この旅の中で改善させることができたようだ。

ロバート2世の方はちゃんとした出来だったようだ。

心から感謝しておく。

 

年齢も近いロバート2世とは、今後も親しい間柄であり続けていたいところだ。

 

そして1098年10月21日。

全ての訪問を終え、エルヴガルはエオヴォルウィーチに戻ってきた。

威厳ある王の行幸は莫大な量の威信と名誉をもたらし、そして多くの家臣たちからの評価を高めることに繋がった。

ちょっと羽目を外し過ぎて、悪癖がついてしまったけれど・・・。

 

そして続く12月25日に、エルヴガルはついに成人する。

 

これを受け、エルヴガルはその統治政策の完成に至る「最後の仕上げ」に取り掛かることとなった。

 

 

グランドウェディング

元々それは父王モルカルとスコットランド王マルコム4世との約束であった。

すなわち、スコットランド王位の筆頭継承権者である娘のエマをモルカルの息子エルヴガルに輿入れさせる代わりに、その結婚式は壮大なものにすべしという約束である。

それが果たされなければ、婚約は解消される。このブリテン島の大合同を約束する婚約を現実のものとするためにも、そしてエルヴガルがここまで高めてきた威信を世界中に広げ外交ネットワークを形創るうえでも、彼は確かにこのグランドウェディングを開催する必要があった。

1099年の3月に諸外国に告知。

11月にいよいよ開催されたとき、諸外交から集まってきたのは実に錚々たる顔ぶれであった。

義父スコットランド王マルコム4世は当たり前として、神聖ローマ皇帝ハインリヒ4世にフランス王フィリップ、ノルウェー王ヴァレンティンに加えて教皇ホノリウス2世自らが祭祀としてやってきた。

 

この「外交の舞台」で、エルヴガルは堂々たる姿を見せる必要があった。

 

11月30日。

教皇猊下がやってこられたと聞き、慌てて準備を後回しにして出迎えの準備を行う。

「お越しいただき感激しております、猊下。最高のもてなしでもって、猊下があらゆるものに感動し、喜んでいただけるものと確信しております!」

「会場の準備状況を、ご覧になられますか?」

猊下は無事、喜んでくれたようだ。

 

この猊下も協力も得て、式自体は十分すぎるほどに威厳のある素晴らしいものとなった。

 

そして、外交の舞台は結婚式後の「披露宴」へと移る。

披露宴会場は色とりどりの豪勢な装飾が施されており、それを見ていた神聖ローマ皇帝ハインリヒ4世ポウィス公ブレディン2世とが意見を交わしていた。

「こういった要素まで含めてすべてセレモニーの一部だ。もっと大きく、もっとよく、もっと綺麗にするべきだったね」と、従兄弟のポウィス公が文句を言う。

自分には教養とセンスがある、とでもアピールしたいのか? いけ好かない奴め!

母デニスの兄であるマドグ・アプ・ブレディンの息子。


それに対して、皇帝ハインリヒ4世は告げる。

「いや、これは無駄がなく、群衆を満足させるのに十分な装飾が施されているとみていいね。とてもよく考えられていると思うよ」

世界で最も強く、気高い存在であられる皇帝陛下の言葉に、エルヴガルは思わず感動してしまう。そしておずおずと告げた。

「実はこれらの装飾は私自身が選んだのです、陛下」

ポウィス公の言葉に恥ずかしくなって言い出せなかったその言葉に、皇帝陛下は称賛の言葉と共にさらにこの件について話し合おうと親しみを向けてきてくれた。

一方、逆に恥をかいた形となったポウィス公はこちらを逆恨みしているようだが・・・知ったことではない。

 

さらに、酔いも進んできた頃に、今や「親友」となったマーシアエドガーと語る楽しい時間を過ごす。

そろそろ妻のエマのところにいかないといけないのだが、どうしてもエドガーの話が面白過ぎて離れられないでいる。エマの母親のルドミラが随分と冷たい目で見てくる。

 

そもそもこのルドミラとは前々からうまくいっていなかった。結婚式の準備のときもわざと聞こえるようにして「娘のためにもっと良い人を見つけられなかったのは本当に残念」と言ってきたり、「この花はエラにくしゃみをさせるのよ!この毛皮は何?エラが嫌がるでしょう!」といちいち文句を言ってきたり、非常に面倒な姑だった。

そもそも夫のマルコム4世と険悪な仲である彼女は、彼が勝手に選んできた結婚相手を最初から理解しようとは思っていなかったようだ。遠いボヘミアからやってきた彼女はスコットランドの寒く凄惨な地で色々と思うところがあったのだろう。


これから、より深い家族となる彼女とも、分かり合えるようにしていかないといけない。

そう思ったエルヴガルは、ルドミラに声をかけた。

「ルドミラ、貴女も一緒にマーシア公と話しましょう。きっと楽しい思いを得られるはずですよ」

最初は当然嫌がるそぶりを見せていたルドミラも、事情を察したエドガーが彼女のための話題も多く振ってくれたことで、次第に彼女も打ち解けた様子を見せ始めた。

そもそもエドガーは「社交的」な性格で、話はうまかった。

 

結局のところ、相互理解はしっかりと話し合い、時間をかけることで得られる。

エルヴガルはこの結婚式の舞台で、外国の要人たちと関係を深められたことだけでなく、こうして新しい家族とも少しずつ関係を深められる機会となったことを、とても喜んでいた。

 

そしてもちろん、最も大事な「家族」は、この女性である。

披露宴がクライマックスを迎える頃、エラは婚礼の日の夜の儀式を間近に控え、不安を募らせているのが分かった。

部屋へ向かう行列の中で、彼女が私に向って、「お願いだから、このままじゃダメなの・・?」と、大声と太鼓の音に紛れて懇願してくる。

「大丈夫だよ。こっちにおいで」

 

かくして、すべての工程を終え、グランドウェディングは成功に終わった。

 

最も多感な10代の頃を、戦乱と決断、政治とそしてこうした家族との新しい時間とで過ごしていったエルヴガル。

彼は間違いなくこの10年で心も体も成長し、今や立派な、イングランドの王に相応しい男となりつつあった。

 

 

そのことを、彼は満足気に眺めていた。

すでにその人生は終盤を迎えつつあり、頑強だったその身体は病魔に侵され始めている。

 

式のあと、ランカスターの居城にて倒れたとの報を受け駆けつけたエルヴガルに、喋るのも辛そうなランカスター公はそれでもかろうじて、言葉を紡ぎ始めた。

 

「陛下・・私はあなたが真に王となられた姿を見て、心から嬉しく思います。私は亡きマーシア公エアドウィン殿下、そしてモルカル陛下よりも長く生き長らえてきた意味を常に疑問に思ってきました・・・ですが、こうして、あなたが立派にイングランド王であることを務め、そしてウィッチェの血を残し続けることに力を尽くしている姿を見れて・・・その姿を、エアドウィン殿下とモルカル陛下にお伝えにいくことができることが、至上の幸せで御座います」

 

エルヴガルはランカスター公の手を握った。その力は、幾たびも戦場を駆け抜け、無数の敵兵を屠ってきた「野人」の腕とは思えないほどにやせ衰え、今にも崩れていきそうであった。

 

「まだだ・・・まだ、私は十分に王になれてはいない。父のような立派な王には。だから、私はまだまだ、成長していく。そして、本当に偉大な王となり、必ずその姿を報告に行く・・・それまで、待っていてくれ」

 

エルヴガルの言葉にランカスター公は満足気な表情を浮かべ、そしてそのまま、永遠の眠りへと落ちていった。

 

 

ここから、「イングランド王」エルヴガルの、本当の物語が始まる。

 

第4回へ続く。

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